トラブルが起きてしまった際に正しく対処するための、3つのアクションをご紹介します(写真:metamorworks/PIXTA)

ソーシャルメディアを活用した情報発信が誰でも手軽にできる時代になりましたが、一方でトラブルも多発しています。情報発信トラブルが起きてしまったとき、その対処法によってはダメージを抑えるだけでなく、逆に好感度を上げることもできます。

近著『デジタル時代の 情報発信のリスクと対策』を上梓した北田明子氏が、トラブルが起きてしまった際に正しく対処するための、3つのアクションについて説明します。

トラブル時に取るべき3つのアクション


SNSで発信した画像や文章が一部の人たちに不快感をもたらし、非難コメントが殺到し、炎上してしまうことがあります。いくらチェック体制を整え、注意を払っても、程度の差こそあれ、そうしたトラブルは起こり得ます。

このようなトラブルの際、次の3つのアクションが欠かせません。

1.とにかく冷静かつ迅速に事実確認する
2.初動が命。外部に対して迅速な対応を
3.危機管理や法律の専門家の意見を聞く

どれも「当たり前のこと」と思われるでしょうが、ことが起こった際は冷静さを欠きがちで、こんな「当たり前のこと」さえできなくなるもの。平時から、情報発信に関わる人すべてで、これらを共有していただければと思います。順に説明しましょう。

1.とにかく冷静かつ迅速に事実確認する

自組織がSNS上で発信した情報によって炎上したときには、まずは落ち着いて事態を受け止める必要があります。寄せられた非難コメントを見て、怒ったり、動揺したりと、つい感情的になりがちですが、ここは冷静になって現状を正確に把握します。

そんなときに役立つのが、日頃準備している危機管理に対応する手順とツールです。そもそも、ソーシャルメディアのトラブル対応は、まさに不祥事が起きた際の謝罪や会見と同様に、いまや危機管理広報の仕事と言えるでしょう。

「現状報告シート」を活用

私の場合は、何か問題が発生すると、必ず危機管理広報用に作成してある「現状報告シート」に確認したことを埋めていくようにしていました。具体的には、学校で習った5W1Hのコマを作り、そこに確認したことを記入していきます。

・WHO(誰が)
・WHEN(いつ)
・WHERE(どこで)
・WHAT(何を)
・WHY(なぜ・目的)    
・HOW(どのように)
・担当対応部署
・発信者
・発信内容
・炎上の原因

このシートに、正確な事実確認を埋めていき、担当者間で共有します。この作業をすることで、冷静に対応することができます。他の事故や事件などにも役立ちますので、常日頃から用意しておくといいでしょう。

また、収集した事実の確認は、手分けして早急に行います。「トラブルを周りに知られたくない」とか、「できるだけ内密に」と考えて、限られた人数の中で処理していると時間がかかります。トラブルはいずれ、社内には公開しなくてはならないことですから、社員が一丸となって作業を進めていくことです。

2.初動が命。外部に対して迅速な対応を

冷静に事実関係を押さえたうえで、対応には迅速であることが求められます。ぼやぼやしていると、炎上内容は瞬く間に拡散されていくからです。

状況を把握した結果、画像であれ文章であれ、「権利侵害」など、明らかにこちらに落ち度やミスがあった場合は、まず関係者や被害者に対してできるだけ早く誠実な謝罪を行います。こちらに落ち度がなく、一方的な悪意のコメントから炎上するなどの被害者であるケースもあります。こういう場合は、起きた事実に対してのコメントを出します。

もっとも手っ取り早く効果的なのは、全SNSや自社ホームページで、発生した事実内容と謝罪などを丁寧に書いたホールディングコメント(状況がよくわからない中での、とりあえずのコメント)を公開することです。

これは、発生発覚から、できるだけ早く公開する必要があります。未確認事項があれば、「ただいま確認中です。わかり次第、改めてご報告いたします」というコメントを添えて、何度アップしてもかまいません。

最も悪いケースは、事実の全容がわかるまで「何もしない」ことです。この何もしない間に、事態がさらに悪化するということを肝に銘じて、初動に全力を尽くしましょう。

弁護士にすぐに動いてもらうことは難しい

3.危機管理や法律の専門家の意見を聞く

トラブルによる影響が深刻化する可能性があると判断される場合は、弁護士など法律の専門家の意見を求めることも検討する必要があります。内容によっては訴訟に発展することもあり得ますから、素人判断だけでは炎上が収まらない恐れがあります。

大手企業なら顧問弁護士がいらっしゃいますが、中小企業や自治体などは、費用がかかるからと日頃から法的チェックや検討を怠っているケースが少なくありません。すると、いざというとき、すぐに相談に乗っていただくことが難しく、深刻な問題にもかかわらず、弁護士探しから始めるなど、時間を要してしまいがちです。自治体も、顧問契約をしている弁護士に依頼する手続きに何日もかかってしまいます。

私も自治体の広報課長だったとき、大事件なのにこの手続きに時間がかかってしまったという苦い思い出があります。そのときは、私が日頃から懇意にしている弁護士の先生に連絡し、手続きを踏まえず随意契約を上司の許可のもとで進めました。

しかし、こんなことは稀なケースです。ソーシャルメディアによる情報発信が当たり前になった今、法律の専門家とのつながりを持つことは、必須と言えるでしょう。

第三者による自組織の著作権や肖像権などの知的財産権の侵害や、誹謗中傷などによる名誉毀損、第三者によるSNSのウケを狙った発信のために行われた営業妨害となる行為があったときなど、情報発信を行う側から法的処置をとるケースが増加しています。

むろん、この場合は、弁護士など法律の専門家に依頼して進めていくことが必須となります。決して自己判断や社内の価値観だけの判断はしないようにしてください。

最近は、悪質な行為や著作権侵害などに対して、企業側も毅然とした態度で臨むようになっています。結局、それが新たなトラブルを防ぐ抑止力になるのです。常日頃から、法的な処置に即対応できるよう、ノウハウと知識を身につけておきましょう。

何よりも「証拠の保全」が大切

訴訟になった場合は、まずやらなければならないことは証拠の保全です。裁判では証拠が重要になるからです。関連する情報を集めて、SNS上の投稿やメッセージなどをチェックするなど、証拠となるものを保全しましょう。流動的なウェブ上の画像などは、スクリーンショット(キャプチャー)で保存しておくことが重要です。

そして担当者は、対応に関するすべてを記録します。メールや会話の内容、文書などが証拠として役立つ可能性があるのですべて保管します。

加えて、誹謗中傷を行った投稿者本人につながる、プロフィール等の情報を、インターネット上から探します。告訴などの手続きには、投稿者本人が特定できていなくても行うことができますが、投稿者を特定できれば、損害賠償請求を行うことが可能になります。

また投稿者を特定するために、場合によってはSNSサービスを提供する企業に、IPアドレスなどの情報開示を請求します。ここから、投稿者の氏名や住所等の情報の開示請求することで特定できます。これが「発信者情報開示請求」(注:いわゆるプロバイダー責任制限法(特定電気通信薬務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)に基づく情報開示請求を指す)と呼ばれるものです。これらは、必ず弁護士の指導のもと、適切かつ正確に進めてください。

(構成:間杉俊彦)

(北田 明子 : 広報・PR、危機管理広報アドバイザー)