カヤバの「キャンピングカーコンセプト2024TASバージョン」(筆者撮影)

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カヤバが東京オートサロン2024に出展した「キャンピングカーコンセプト2024 TASバージョン」。ベースはフィアットのデュカトとなる(筆者撮影)

近年のアウトドアブームも追い風となり、成長を続けるキャンピングカー業界。近年は、異業種からの参入も目立っているが、自動車やオートバイのサスペンションなどの製造を手がける部品メーカー「カヤバ(KYB)」も、そんな企業のひとつだ。同社は、現在、イタリアのフィアットが製造する商用バン「デュカト(DUCATO)」をベースにしたキャンピングカー専用のサスペンションを開発中。それに加え、キャンピングカー本体の製造も計画しており、2025年度の発売を目指しているという。

従来にない新しいキャンピングカー作りを目指す


キャンピングカーコンセプト2024 TASバージョンのリアビュー(筆者撮影)

そんなカヤバが世界的なカスタマイズカー展示会「東京オートサロン2024(2024年1月12〜14日・幕張メッセ)」に、最新のコンセプトカーを出展した。展示車は、デュカト・ベースのキャンピングカー。創業88年以上の歴史を持つ同社が、長年培った足まわりに関する技術力を注入した開発中のサスペンションを搭載し、従来にない新しいキャンピングカー作りを目指しているという。

ここでは、カヤバが手がけている新型サスペンションの概要をはじめ、将来的にどういったキャンピングカーをリリース予定なのかなど、老舗部品メーカーの新たな挑戦について紹介する。

カヤバは、前述のとおり、創業88年以上の歴史を持つ老舗企業だ。自動車や2輪車向けの油圧部品はもとより、鉄道用のブレーキやダンパー、航空機用のアクチュエーター、コンクリートミキサー車などの特装車両など、幅広い製品を展開する油圧機器の総合メーカーとして知られている。

カヤバが展示したキャンピングカーの詳細


キャンピングカーコンセプト2024 TASバージョンのインテリア(筆者撮影)

そんなカヤバが今回展示したのが、「キャンピングカーコンセプト2024 TASバージョン」。フィアットのデュカトをベースに、室内に常設のベッドやダイネット、キッチンなどを備えた本格的なキャンピングカーだ。LED照明を備えたウッド張りの天井は高級感もあり、電子レンジや冷蔵庫といった家電製品も採用することで、快適な車中泊を楽しめることがうかがえる。

そんなコンセプトカーに採用されているのが、カヤバが開発中のサスペンションだ。前後の足まわりに装備した新型モデルは、ぱっと見は一般的なサスペンションと同じ。だが、構成部品のショックアブソーバーやコイルスプリングなどには、走行中に軽快なハンドリングを味わえる専用チューニングが施されているという。


展示車両に装着されていた開発中のサスペンション(筆者撮影)

カヤバの担当者によれば、「一般的に、従来のキャンピングカーは、操縦安定性や乗り心地に関し、不安や物足りなさを感じるユーザーも多いと聞きます。そうした問題を解消しようとしているのが開発中のサスペンションです。(これを装備することで)普通乗用車と同じように、軽快な走りを味わえるキャンピングカーを作ることを目指しています」という。

確かに、キャビン部に大きな変更を加えたキャンピングカーの場合、家具や家電製品、ベッドなどを備えることもあり、ベース車より車両重量も大きく増加し、走行安定性などは悪くなりがちだ。とくにオリジナルのキャビン部を架装し、全高や全幅などボディサイズを拡張した仕様では、例えば、風が強い日に高速道路を走行すると、横風などで車体が振られるといった声も聞く。

そこで、同社では、自社が持つ技術力を投入した新しいサスペンションを搭載し、車中泊だけでなく、移動中も快適なキャンピングカーの開発を目指しているのだ。では、なぜデュカト専用なのか。それに対し、担当者は、「デュカトをベースとしたオリジナルのキャンピングカーの製造も目指している」ためだという。しかも、新型モデルは2025年度に販売開始を予定。約1年後には市場へリリースするという。

2023年のコンセプトカー


カヤバが東京オートサロン2023に出展していた車両(筆者撮影)

じつは、カヤバは、2023年の東京オートサロンにもトヨタの商用トラック「ダイナ カーゴ」をベースにしたオリジナルのキャンピングカーを出展した実績を持つ。これは、独自の油圧技術を投入することで、停泊時にキャビン部の天井や車両右側を拡張できるトランスフォーム機能を採用したモデルだった。キャンプ場などに停泊する際に室内を広くでき、より快適な車中泊が可能というもので、かなりユニークなアイデアだった。だが、2024年の同ショーには、この仕様は展示すらない。先述の担当者いわく「コストがかかり過ぎるため商品化が難しい」ためだ。

そこで、同社では、近年、多くの注目を集めているデュカトをベースとしたキャンピングカーに着目。しかも、デュカトは、ノーマル仕様でも「もともとボディ剛性などが高いため、ステアリングを切ったときの回頭性が良く、軽快なフットワークを持つ」(担当者談)という。それに、オリジナルのサスペンションを装備することで、「乗用車感覚で乗ることができるキャンピングカー」を作る計画なのだ。

では、新型キャンピングカーには、足まわり以外、例えば、室内外の装備などに、どんな独自性を持たせるのだろう。2023年に展示したデモカーのように、独自の油圧技術を使った車体のトランスフォーム機能を採用すれば、かなり話題になりそうなのだが。

これについて、担当者は「まだ公表できるものはない」と語る。ただし、車体のトランスフォーム機能は、前述のとおり、コストの問題があるため、新型へは投入しない方向性とのことだが、「室内に関しては、油圧技術を使った何らかのギミックを採用するかもしれない」という。具体的には明らかになっていないが、どんな機能や装備が投入されるのかは、今後の発表を待ちたい。

今後の展開


キャンピングカーコンセプト2024 TASバージョンの運転席まわりやキッチンスペース(筆者撮影)

業界団体の日本RV協会がまとめた「キャンピングカー白書2023」によれば、国内における2022年のキャンピングカー保有台数は、前年より9000台増えた14万5000台。また、同じく国内における新車・中古車を合わせた販売売上合計額は、過去最高の762億円(対前年比120%)を記録したという。

そんな拡大傾向が続くキャンピングカー業界に、新規参入を目指すカヤバ。近年、「100年に一度の変革期」といわれる自動車業界では、多様な技術革新やIT関連などの新規企業参入も続いており、従来の事業だけでは生き残れない可能性も出てきた。そのため、ほかの部品メーカーなどでも、さまざまな新規事業に乗り出している。そんななかで、カヤバの新たな試みが、キャンピングカー業界やユーザーから、どのような反響を受けるのかが興味深い。


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ちなみにカヤバでは、キャンピングカー関連の製造を、全国にある製造拠点のうち、埼玉県にある熊谷工場で行う予定だ。理由は、従来、熊谷工場はコンクリートミキサー車などの特殊車両を手がけている場所で、「町工場的な雰囲気もある」ためだという。たしかに、キャンピングカーの製造は、1台1台を顧客のニーズに応じて行うため、大量生産は難しい。まさに、町の工場などで、職人が手作りで生産している印象がある。

そうした点は、コンクリートミキサー車などの特殊車両の製造も似ているのだろう。最近は、例えば、EVシフトなどの影響で、存続が危ぶまれていたり、実際になくなってしまった自動車関連の工場もあると聞く。カヤバの新規事業は、そうした「昔ながらの工場」で働く従業員たちの「雇用を守る」という意味でも注目だ。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)