長年、業界の常識だった「売上高のANA、利益のJAL」の構図が変わろうとしている(撮影:尾形文繫)

コロナ禍を経て、航空業界の構図が変わりつつある。

経営破綻以降、収益性を重視する経営方針を取ってきた日本航空(JAL)に対し、ANAホールディングス(HD)は国際線を拡充し、売上高を積極的に伸ばしてきた。航空業界では「売上高のANA、利益のJAL」が常識だったが、直近ではANAが営業利益でJALを逆転。売上高、利益ともにANAが上に立っている。

エアライン大手2社の決算に異変

「通期計画は営業利益と経常利益は過去最高、純利益は過去2番目となる見通しだ」。ANAHDの中堀公博上席執行役員は1月末に国土交通省で開催された決算会見の場でそう答えた。同社は2023年度の業績は売上高2兆300億円、営業利益1900億円を見込んでいる。

ANAHDは第3四半期(4〜12月期)決算で、売上高1兆5435億円、営業利益2101億円と営業利益は過去最高を更新した。一方で、JALは売上高1兆2493億円、営業利益1259億円と売上高、営業利益ともにANAHDから劣後する結果となった。一体、航空業界では何が起きているのだろうか。

両社の差を分けているとみられるのが、国際線の単価上昇だ。

航空チケットが高すぎて、海外旅行に行けない。新型コロナによる水際対策が緩和された後、航空チケットの価格を調べてこう思った読者も少なくないだろう。

実際、国際線のチケット単価は2020年以降、高騰している。ANAHDの2023年4〜12月の航空券のチケット平均単価は10万3864円、JALも同9万5218円となっている。

両社のコロナ前の平均単価は5万〜6万円台だった。コロナ前後で7割程度上昇しているのだ。コロナ前と比較して、日本人の出国者数が減ったため、旅客数は減少しているが、単価が上昇しており、国際線の売り上げ規模は拡大している。


いつまでANA優位の状態が続くか?

国際線の売り上げ規模で見ると、ANAHDが5515億円であるのに対し、JALは4717億円と15%程度劣後している。JALの斎藤祐二取締役専務は決算会見で「国際線の規模の差が(ANAHDとの)利益差となっている」と述べた。

ではいつまでANA優位の状態が続くのだろうか。2024年度に目を向けるとカギを握る要素が2つある。

1つ目はやはり、国際線のチケット単価である。

「2024年の上期くらいまでは現在の航空券単価の水準に大きな変化はないと思う」。ANAHDの芝田浩二社長は、昨年11月に行った東洋経済のインタビューでこのように見通しを語っている。

単価上昇の主な要因はいくつかある。まずは需給の逼迫だ。海外の航空会社は人手不足問題が深刻で、コロナ前の供給まで回復させるにはまだ時間がかかりそう。また今の円安環境は海外の航空会社にとっては外貨建て収入の減少につながる。制約がある中で日本方面の回復は後回しになるとみられる。

ANAとJALはコロナ禍でも人員減少を最小限に抑えてきた。海外の航空会社が供給をコロナ前の水準に戻せず航空券が高騰する中でも、積極的に国際線を運航できている。

2つ目は原価の高騰だ。ウクライナ問題や円安の影響を受け国内のエアラインが調達する航空燃油の価格が上がっている。原価の上昇を価格に転嫁しているため、値上げが続いているのだ。

国際線の旅客は、海外渡航をする日本人客、訪日外国人客、乗り継ぎ外国人客の3種類に分けられる。2024年は徐々に海外旅行をする日本人の増加、米中直行便の回復による乗り継ぎ外国人の減少など、業界環境が変わっていくことが予想される。

どのように高い運賃を維持し、収益を確保していくか、両社の戦略が問われることになる。


JALは1月24日から、羽田―ニューヨーク線に新型のA350-1000型機を投入する。写真は就航式典での赤坂祐二社長(記者撮影)

羽田事故よりも深刻なANAの機材問題

そしてもう1つ重要なのが、機材戦略である。

ANAはアメリカのプラット&ホイットニー社のエンジン問題を受け、点検作業が必要となっている。ANAは1月から3月まで国内線と国際線合わせて1日30便程度減便すると発表した。シェアを維持するためにも、一部機材の退役延長やエンジンの調達などで対応する構えだ。

業界関係者は「ANAの機材繰りノウハウがあれば影響は大きくないだろう」とみる。

ただ、運航を停止するエアバス社のA320neoとA321neoは小回りの利く小型機。運航コストが低く、旅客の少ない路線でも収益を出すことができる。今回の運航停止を受けて、機材繰りの問題で旅客が少ない路線に中・大型機などを運航することになる局面も出てくるだろう。

他方、JALは1月2日に発生した羽田空港での衝突事故を受けて、国内線の主力機材であるA350-900を1機失った。JALは新たに同機材を調達する予定を明らかにしている。

ただA350を失った影響について「供給インパクトとしては1%、3カ月では10億円」(斎藤氏)と決算会見で説明したように、影響は限定的だ。機材問題はANAのほうが深刻といえるだろう。

とはいえ収益力にとって重要なのは、国際線のチケット単価。機材問題でANAとJALの差は縮まる可能性は高いが、チケット単価が高止まりしている間はANA優位が続くことになるだろう。

(星出 遼平 : 東洋経済 記者)