2024年2月18日、アメリカ・カリフォルニア州パシフィック・パリセーズのリビエラ・カントリークラブで開催されたジェネシス・インビテーショナルの最終ラウンドを終え、トロフィーを手にポーズをとる松山英樹(©Brenton Tse/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

油断していると、スポーツは何が起こるかわからない。ゴルフファンにとっては、2月19日(現地時間18日)がそうだったのではないだろうか。

米ツアー「ジェネシス招待」で、松山英樹(31)が首位と6打差7位でスタートした最終日に、3連続バーディーを3回マークし、9アンダー62という驚異的なスコアを記録。通算17アンダーとして、逆転優勝を飾った。

松山にとっては2022年1月の「ソニーオープン」以来の米ツアー9勝目。K.J.チョイ(崔京周、韓国)と並んでいたアジア選手最多8勝を更新して、最多勝保持者となった。

報道によると、本人は「これ以上望めないラウンドだった」と振り返り、自身の財団がこの大会をサポートしているホストプロのタイガー・ウッズからは「とてつもない勝利だ」と祝福されている。

1試合で400万ドル

大逆転優勝にもびっくりさせられたが、獲得した優勝賞金額にはもっと驚かされた。1試合で400万ドルを手にしたというから、今の円安水準でいくと、約6億円ということになる。

今年は、メジャーリーグの大谷翔平がロサンゼルス・ドジャースと10年7億ドルという、スポーツ選手としては史上最高契約金が話題になった。メディアでは「日給がいくら」とか、「時給換算したら」といった記事でにぎわっていた。

ちなみに大谷の日給は約20万ドル。これに対して、松山はこの1週間で400万ドルなので日給は約57万ドル。

ゴルフの賞金の場合は、大谷のような年俸契約と違って次の保証はされていないので単純な比較にはならないが、それぐらいのことをやってのけたということにはなるだろうか。

くしくも、松山が勝った会場は、今大会の前身のロサンゼルス・オープンを開催していたロサンゼルス近郊のリビエラCC。ロサンゼルスは日本のスポーツ選手にとって、方角がいいのだろうか。

米ツアーでは今年から試合の仕組みを少し変更した。1シーズンに8試合の「シグネチャー・イベント(昇格試合)」という、特別な大会を設けている。

簡単に言うと、松山ら出場資格がある50人を含む、通常の大会の半分程度の70〜80人ほどの「選ばれた選手たち」による大会で、賞金総額も高く設定されている。

それらの大会前の指定された試合で上位に入ってポイントを稼ぐなどすれば出場資格をもらえることになるので、シグネチャー・イベント出場を目指して、他の試合も白熱する、という図式になる。稼ぐためには気の抜けない試合ばかりになるということでもある。

松山が勝利したジェネシス招待は、そのシグネチャー・イベントの1つだった。賞金総額が2000万ドル、優勝が400万ドルという、ウッズの言葉ではないが、賞金も「とてつもない」金額になった。

2000万ドルは、日本円換算だと約30億円。日本ゴルフツアー機構(JGTO)が主管する2024年日本男子ツアーの賞金総額が約30億8800万円になっている。米ツアーのシグネチャー・イベント1試合分と、日本ツアー全体23試合分が、円換算すると同じぐらいということになる。

また、松山の米ツアーでの生涯獲得賞金額は4853万1991ドルに積み上がった。生涯獲得賞金ランクでは14位に入っている。今のレートで換算すると、72億8000万円ほどになる。日本の生涯獲得賞金ランク1位は尾崎将司の26億8883万円余。すでに倍以上を稼いでいる。

やはり、米ツアーには「夢」がある。

30代としての新しい戦い方

松山は今回の大会で、米ツアーの出場試合数が250試合に到達したという。

ご存じの通り、日本男子選手として初めて4大メジャー大会の1つ「マスターズ」に勝った日本の第一人者。ただ、近年はあまり結果を出せていなかった。

2021年マスターズで勝ったころから、すでに背中や首に故障を抱えていた。

タイガー・ウッズが登場した1990年代後半からアスリートゴルファーという言葉が生まれ、用具の進歩もあって、ドライバーの飛距離が伸び、米ツアーでは300ヤード以上をまっすぐに飛ばさないと勝負にならないといわれるようになった。

松山は体格的には海外の選手に引けを取らないが、それでもトレーニングでさらに体を大きくしていった。飛距離も300ヤード以上を飛ばし、8勝を挙げてきたが、30代になって体に負担がかかっていたのは否めない。

ドライバー平均飛距離も300ヤードを割り、今年は295ヤードと、20代のころより10ヤード以上は落ちているが、今回の大会、特に最終ラウンドのアイアンショットは抜群だった。30代としての新しい戦い方ということになるのだろうか。

優勝インタビューでも「もう優勝できないんじゃないかって思いました」と、話しているが、本音だったかもしれない。

昨シーズン終了後には日本に帰国して治療するなどしていたと言い「昨年まではいつ痛みが出るか不安がありましたけど、今年はストレスフリーで(ゴルフが)できています。今週もほぼ問題なかったですね」というのが大きかったようだ。


2024年2月18日に更新された世界ランキングでは20位になった(画像:OFFICIAL WORLD GOLF RANKING

世界ランキングも2017年に最高の2位になってから下降して、ジェネシス招待前までは55位に落ちていた。今回の優勝で世界ランクは20位に上がった。

オリンピックのリベンジを見たい

久々の勝利で、体調にも自信が戻ってきたのは、オリンピックの年に頼もしいところだ。

パリオリンピックでのゴルフ競技は、6月の全米オープンまでの世界ランクで決定する予定。各国・地域の出場人数は世界ランク15位以内なら最大4人、16位以下の場合は最大2人となるが、松山の日本選手最上位は動かないだろう。

東京オリンピックでは銅メダルのプレーオフに敗れて4位だった。そのリベンジを見たい。

(赤坂 厚 : スポーツライター)