化合物の1つである「フッ化物」は、歯のエナメル質を強化する働きがあることから、虫歯の予防や治療に役立つとされており、歯磨き粉の成分などに使用されています。アメリカの一部地域では、水道水のフッ化物濃度を調整することで虫歯の予防を図っていますが、フッ化物は脳の発達に影響を与える可能性が示唆されており、「水道水のフッ化物濃度の調整をやめるべき」との議論が展開されています。

Food-and-Water-Watch-v-US-EPA | United States District Court, Northern District of California

https://www.cand.uscourts.gov/food-and-water-watch-v-us-epa/

Does fluoride in drinking water lower IQ? Question looms large in court battle | Science | AAAS

https://www.science.org/content/article/does-fluoride-drinking-water-lower-iq-question-looms-large-court-battle



アメリカの一部地域では、「水道水フロリデーション」と呼ばれる、虫歯予防のために水道水中のフッ化物濃度を適正量(約1ppm)まで調整するという取り組みを行っています。水道水フロリデーションでは、水道水のもととなる天然水のフッ化物濃度が適正量を下回る場合、適性濃度までフッ化物を追加して調整したり、逆にフッ化物濃度が高すぎる場合、フッ化物を除去して調整したりという手順が行われます。

これまでの研究で、水道水フロリデーションを行うと通常の水道水よりも、あらゆる世代において虫歯になる割合が最大25%減少することが報告されています。

アメリカでは、2020年までに人口の約73%に当たる2億人以上に調整された水道水が届けられており、2030年までに人口の77%にまで規模を拡大することを目標にしています。



一方で、フッ化物を大量に摂取すると、脳の発達に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。米国国家毒性プログラム(NTP)は適正量の2倍のフッ化物濃度の水を摂取し続けると、子どものIQが低下する可能性があることを(PDFファイル)報告しています。

これらの報告を受けて、フッ化物アクションネットワーク(FAN)やその他の団体は、「アメリカ環境保護庁(EPA)は有害物質規制法(TSCA)に基づいて水道水フロリデーションを規制すべき」と主張しています。

カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所では、この主張をめぐって裁判が行われており、「フッ化物の摂取に安全なしきい値があるかどうか」など、さまざまな議論が進められています。



「水道水フロリデーションを規制すべき」と主張する原告側の弁護士であるマイケル・コネット氏は、「水道水を使って作られた粉ミルクを与えられた乳幼児は、国民のあらゆる世代の中でも最もフッ化物の悪影響にさらされています」と指摘しました。一方でEPAは「1リットル当たり0.7ミリグラムという、水道水のフッ化物濃度の規定量が人体に悪影響を及ぼすことはない」と反論。弁護士のポール・ケインスティック氏は「現代の科学技術では、水道水フロリデーションが人体への健康リスクをもたらすと結論付けることはできません」と述べました。

一部の歯科衛生擁護団体は「水道水フロリデーションの規制を主張する活動家は、『NTPは安全なフッ化物の摂取量というものは存在しない』と主張することで、報告書を自分たちに有利になるように作成している」と指摘。また、アメリカ歯科医師会はNTPの報告書に対し、科学的な限界を強調する免責事項を加えるよう(PDFファイル)求めています。