相次ぐ「集団食中毒」テイクアウトに潜む"NG行動"
サルモネラ菌の顕微鏡写真。2023年度は食中毒の患者数が3年ぶりに増加に転じたという(写真:nishida/PIXTA)
2023年は、集団食中毒のニュースが目立った。
イベントで販売されたマフィンを食べて複数の人が腹痛を訴えたニュースが記憶に新しいが(現時点で食中毒の原因となる細菌は検出されていない)、9月には青森県の駅弁メーカーの弁当を食べた人が体調不良を訴え、患者数は500人を超えた。
新型コロナの流行以降、食中毒の患者数は減少傾向にあったが、2023年度は3年ぶりに増加に転じる見通しだ。外食や総菜を買うときの注意点について、女子栄養大学短期大学部の平井昭彦さんに聞いた。
細菌やウイルス、寄生虫など、有害な物質がついた食品を食べることで、下痢や腹痛、嘔吐、吐き気、発熱などの症状を引き起こす食中毒。
今はウイルス、寄生虫に注意
一般的に細菌(サルモネラ菌、ウェルシュ菌、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ菌、病原性大腸菌など)による食中毒は気温が高い時期に発生しやすく、ウイルス(ノロウイルスなど)による食中毒は気温が低い時期に発生しやすい。
一方、アニサキスなどの寄生虫による食中毒は年間を通して発生する。
農林水産省「食中毒は年間を通して発生しています」より
食中毒のニュースが相次ぐと、外食や中食(弁当や総菜など家庭以外の場所で調理・加工されたものを購入して食べること)を利用することに不安を感じる人もいるだろう。
外食や中食は、自炊して食べるよりもリスクがあるのだろうか。平井さんは「必ずしも外食や中食のほうがリスクが高いとは言い切れません」としたうえで、こう説明する。
「家庭では食中毒を起こしても軽症で受診しなかったり、食中毒だと気づかなかったりすることが多いですが、外食や中食を利用して症状が出た場合は、食中毒を疑って受診につながりやすくなります。医師は食中毒と診断した患者、もしくは疑いのある患者を診た場合、保健所に届け出なければなりません。このため、外食や中食での食中毒は表面化しやすいといえます」
昨年、集団食中毒が目立った背景
昨年、集団食中毒が目立った背景には、どのようなことが考えられるのか。平井さんの見解はこうだ。
「1つには、食品提供者の食品衛生に関する知識不足があるのではないかと思います。また、通常より大量の注文を受けるなど、店の規模や調理能力を超えた数を作る場合などではやるべきことが増えて、食品衛生の基本を守りにくくなることも考えられます」
食品を調理、製造、加工、販売するには、食品衛生責任者を配置することが、食品衛生法によって義務付けられている。食品衛生責任者の資格は、各自治体などが開催する養成講習会(6時間程度)を受講して、食品衛生に関する知識を学ぶと取得できる。
飲食店を営業開始する際や、営業許可更新の際は、保健所の食品衛生監視員などが、施設や設備の衛生状況をチェックし、指導する。
食中毒は飲食店にとって死活問題となるので、食品衛生に関しては優先的に取り組んでいるはずだ。ただ、食品衛生責任者は一度取得すれば更新の必要はなく、平井さんは新たな知識の追加に課題があるという。
腸管出血性大腸菌(O157など)が初めて検出されたのは1982年、食中毒の代表格ともいえるノロウイルスが命名されたのは2002年、寄生虫によるヒラメや馬刺しの食中毒が「食中毒」として扱われ、厚生労働省の食中毒統計に載るようになったのは2011年だ。
「現在も食中毒に関する情報は更新されているので、何十年も前に資格を取得した人は、新しい情報を知らない可能性があります。各地の保健所では食品衛生に関する講習会を毎年開催しているので、定期的に受講して新しい情報を入手する必要があります」
外食や中食を利用する側が気を付けるべきことはあるのか。平井さんは「提供されたものをすぐに食べるわけではないテイクアウトやデリバリーは、注意が必要」と話す。
マフィンの事件が起きたのは11月。同月にはほかにも、イベント会場内キッチンカーの一部商品を食べた購入者が体調不良を訴え、保健所がウェルシュ菌による食中毒と断定した事件も発生している。
冒頭に細菌による食中毒は気温が高い時期に多く発生しやすいと書いたが、それ以外の時期に発生しないというわけではない。
「真夏は保冷バッグや保冷剤を利用したり、購入した食品をすぐに冷蔵庫に入れたりして注意を払うのですが、それ以外の時期は油断しやすい。特に外気温は低いけれど、室温は高い春や秋が要注意なのです。また、近年は家の気密性が高まり、外は寒くても室内は意外と暖かいという点も考慮する必要があります」(平井さん)
菌を増やさないポイント2つ
細菌は気温が高いと食品の中で増殖する。菌を増やさないために平井さんは「購入した食品はできるだけ速やかに食べる」「すぐに食べないのであれば、必ず冷蔵庫で保存する」という2点を強調する。もし弁当などで中心部まで火が通っていない食品を見つけたら、食べるのは控えたい。
次に、嘔吐や下痢など体調不良を起こし、外食や中食による食中毒が疑われる場合はどうすればいいのか、平井さんに解説してもらった。
「まずは病院を受診してください。体調不良を診断・治療してもらえます。診断が食中毒であれば(疑いも含む)病院が保健所に届け出て、保健所が原因施設や原因食品、原因物質の調査・特定を行います。自己判断せずに専門機関に任せるのがいいと思います」
なお、食中毒が疑われる症状があるときには、次のことに気を付けたい。
・嘔吐や下痢は原因物質を排除しようとする体の防御反応なので、自己判断で市販の下痢止めなどの薬は使用しない。
・脱水を防ぐため、水分(白湯や常温の水、スポーツドリンク、経口補水液など)を補給する。
・原因物質によっては重症化する可能性もあるので、早めに病院を受診する。
(取材・文/中寺暁子)
女子栄養大学短期大学部 食物栄養学科教授
平井昭彦獣医師
1980年、麻布大学獣医学部卒。東京都衛生局、東京都立衛生研究所(研究開発・技術者)、東京都健康安全研究センター微生物部(研究開発・技術者)、相模女子大学短期大学部食物栄養学科教授、2022年から現職。獣医師、衛生検査技師、博士(学術)。
(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)