渋谷からブームに!若者たちに「いちご飴」が人気の理由
【あの食トレンドを深掘り!Vol.47】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。
いちご飴の流行、元はりんご飴から?
先日、久しぶりに日が暮れた原宿・竹下通りを歩いたら、インバウンドの外国人たちが当てになるからか、意外に開いている店が多かった。何しろ中高生相手が中心の通りなので、竹下通りの夜は基本的に早い。開店中で目立つのがいちご飴専門店で、フルーツ飴店、りんご飴店もあった。飴がけフルーツの店が短い通りに数軒も!そういえばいちご飴の流行の噂は聞いていた。そこで、その流行について調べてみた。
実はいちご飴、タピオカミルクティーと同時期に、渋谷で流行が始まったらしい。思い起こせば、タピオカミルクティーの爆発的流行で霞んだフルーツ系の流行は多い。レモネードもバナナジュースも、あの頃に流行が始まり、今も地味に人気だ。いちご飴よ、おまえもそうだったのか。
いちご飴を追いかけるように、今年はりんご飴も注目されているが、そもそもこうした進化系フルーツ飴の最初は、りんご飴だったらしい。
アメリカ発祥のりんご飴、韓国経由で人気になったいちご飴
りんご飴と言えば、縁日の屋台でおなじみ。私は子どもの頃、「体に悪いからダメ」と親に買ってもらえなかった。晴れて自由に買える大人になったが、「中のリンゴはマズいよ」などと周りから言われたので、結局一度も買わず、何となく味のしないリンゴと甘い飴のギャップを、自分も体験した気になっている。
2014年、新宿で1号店を開業した「ポムダムールトーキョー」の社長は、そうしたりんご飴のまずさが原因で一念発起し、リンゴにもかける飴にもこだわり、質を追求した商品を開発した。プレーン、抹茶味、カシスとシナモンの味など、トッピングのバリエーションも多く映える。現在は大阪や名古屋、沖縄にも展開している。
りんご飴はアメリカ発祥で、ヨーロッパで親しまれてきたのが、日本に入って屋台フードとして定着したようだ。一方、進化系のいちご飴は、韓国の流行が日本に飛び火したと言われているらしい。何しろ韓流ブームの影響力は大きく、SNSで直接流行が入って来る時代になった2010年代後半以降は、韓国発の流行が若者たちの日常になっているようにすら見える。
『るるぶ&more.』2023年9月7日配信記事によると、韓国でいちご飴が流行し始めたきっかけは、蔚山市で2017年に開業した「王家タンフル」1号店から。タンフルとは、中国の伝統的なフルーツ飴菓子で、同チェーンが人気なのは、薄くパリパリの飴の食感が楽しめ、フルーツがジューシーだからだ。
中国ではサンザシを数個串刺しにした、飴がけの駄菓子が知られている。あれがタンフルなのか。そうした昔ながらの屋台菓子が世界から集まり、進化して日本でも流行しているというわけだ。
日本でのいちご飴流行に火をつけたのは、渋谷で2019年に1号店を開業し、今は名古屋、大阪など各地で展開する「ストロベリーフェチ」と言われている。
人気店のこだわりは、韓国の王家タンフルと同じく、薄くパリパリした食感を楽しめるようにすることだが、コツがつかめれば、家庭でも簡単に作れる。何しろ、材料は水と砂糖だけ。鍋で煮て、串に刺したフルーツを入れればいい。細かい手順はレシピを検索して確かめて欲しいが、できるだけおいしいフルーツを選ぶことが重要だ。何しろ、飴が甘いだけにフルーツに甘さがないと、ギャップが残念なことになる。
屋台のりんご飴やフルーツ飴は、手軽に作れ、かつ映えるおやつだから売られてきた。ハレの場面の高揚感と子ども向け、ということで、おそらく安く手に入る果物で商売をしてきたのだろう。しかし、常設店となると、ハイクオリティーにしなければならない。その結果、キッチュなおやつだったはずが期待以上のおいしさ、というギャップも手伝って人気が広がる。映えるビジュアルは、SNS向きだ。
日本の果物の品質の高さが人気の一因に
流行を支えているのは、味を追求してきた日本の果物のおいしさだ。日本では特に、果物を生食する文化があり、贈答品としても選ばれてきたこと、生産性を上げて利益を出そうと果物農家が不断の努力を続けてきた結果、品質の高い果物は多い。
しかし、そのために庶民には手が届きにくくなった印象がある。そのうえ多忙で、果物の皮すらむきたくない、という人が多いのか、家庭での消費は減っている。しかし、果物が嫌いな人は少なく、フルーツスイーツの需要は高い。そんな中、いちご飴をはじめとするフルーツ飴が出てきたため、若者たちを中心に流行した。
改めて考えると、安くてキッチュだったスイーツが、本格志向になって流行する、というパターンは多い。例えば、2010年頃から人気になったバタークリームのケーキ。バタークリームで覆ったケーキは、冷蔵庫があまり普及していなかった昭和半ばに多かった。生クリームでは、保存性に不安があったからだ。しかし、当時は割安にするためマーガリンを使っていたこともあり、冷蔵庫が普及すると生クリームを使うケーキに駆逐されていく。それが改めて、本物のバターを使ったケーキが登場したことから流行した。
最近は、屋台菓子の常設店が増えている。ベビーカステラ、回転焼き(今川焼き/大判焼き)、そしていちご飴にりんご飴。それもやはり、イベントで子どもたちが楽しんでいたキッチュな菓子を、グルメになった現代の若者や大人も楽しめる、そして懐かしさもあるスイーツとして広がっていく。その背景には、安心感を求める人々の心があるように思う。
何にせよ、飴がキラキラ輝くいちご飴は、パーティにぴったりだ。今年は飴がけのイチゴを飾って、楽しんでみてはどうだろう?
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阿古真理(あこ・まり)
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家、くらし文化研究所主宰。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『大胆推理!ケンミン食のなぜ』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『おいしい食の流行史』『平成・令和食ブーム総ざらい』『日本外食全史』『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』『ラクしておいしい令和のごはん革命』『家事は大変って気づきましたか?』など。