金脈は間違いなくある! 存在感を漂わせた“重鎮”アラム氏がぶち上げた井上尚弥の“サウジ興行” その可能性やいかに
井上を称えたアラム氏。この重鎮はサウジ開催の大興行の可能性を語った。(C)Getty Images
一大決戦を2日後に控え、両チャンプが並び立った。12月24日、WBC・WBO世界スーパーバンタム級王者の井上尚弥(大橋)とWBA・IBF同級王者マーロン・タパレス(フィリピン)が神奈川・横浜市内のホテルで公式会見に出席した。
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日本の記者陣が大挙したのはもちろん、フィリピンからも複数の記者が駆け付けた。それだけで国際的な注目度の高さは十分に感じられた。だが、何よりも試合の重みを感じさせたのは、会見で両陣営とともに壇上に上がったボブ・アラム氏の存在だった。
御年92歳の名プロモーターは、米興行大手『TOP RANK』の御大。井上と契約を締結しているという間柄もあるが、わざわざ記者会見に臨席するのは、それだけ価値のある試合なのだと感じさせた。
会見中、百戦錬磨の重鎮は饒舌に日本の“怪物”を称え続けた。無論、日本の記者から質問を受けた影響もあったが、滑らかに語られる言葉には、史上2人目の2階級での4団体統一を目前にする井上への信頼があった。
「イノウエは、これまで素晴らしい選手と名を連ねる選手と認識している。歴代のスターたちも劣らぬスーパースターだ。日本にボクシングの素晴らしさを伝えてくれる、誰よりも素晴らしい選手だ」
1962年に開始したプロモーター業を始め、海千山千の業界を生き残ってきた。その間にアラム氏が携わった選手たちはモハメド・アリ、マービン・ハグラー、シュガー・レイ・レナード、オスカー・デラホーヤ、マニー・パッキャオとボクシング史に名を刻むレジェンドばかりだ。そんな重鎮をして井上は「スーパー」なのだ。
アラム氏曰く、井上は国際的な価値も桁違いだという。会見後に取材に応じた際には、こんな話をしている。
「10月にサウジアラビアを訪れた時に、スポーツエンターテインメント部門の一番偉い方にお会いし、彼らの口から最初に出てきたのが『イノウエの試合をサウジアラビアでできないか』という話だった」
実際、近年のサウジアラビアはスポーツビジネスを石油依存から脱却する取り組みに本腰を入れている。一部では「スポーツウォッシング」と批判する向きもあるが、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が関与する巨大政府系ファンド「SWF」の支援などを受け、次々とスポーツイベントを開催。プロボクシングでは今年10月に首都リヤドで、WBC世界同級王者のタイソン・フューリー(英国)が、元UFC世界同級王者のフランシス・ガヌー(カメルーン)によるヘビー級10回戦を実施。世界的な活況を呈した。
こうした世界的な潮流を見ても金脈は間違いなくある。ボクシング界で知名度を高め続ける井上がメインイベンターとして扱われ、正当な報酬を受けられる興行であれば、サウジでのメガマッチ実現も単なる噂では終わらないはずだ。「判断して決めるのは大橋会長」と語るアラム氏も「興行規模については分からないが、おそらく金額的にも大きな興行だろう」と断言している。
来るタパレス戦で勝利すれば、井上の名がより世界に轟くのは必至だ。価値はますます高まる一方だろう。そうなった時に怪物をアラム氏がどうサポートしていくのか。現時点で御大のアイデアは見当もつかないが、興味深いところである。
[取材/文:羽澄凜太郎]