【現地ルポ】『ジョーブログ』のジョーも登場! 大阪・西成の若者観光地化がスゴイことになっていた!
星野リゾートが手がけるOMO7大阪ホテル。インバウンドが増えたことで新しい風が吹いた。
大阪・西成区萩之茶屋付近。通称あいりん地区。JR新今宮駅から南に5分ほど歩いたこのエリアはかつて、ホームレスの家であるブルーシート小屋が並び、労働者があちこちで立ち小便をするせいか、街の空気はそのにおいで充満していた。
すれ違うのは中高年のおっちゃんばかり。酒場からはケンカの怒鳴り声が聞こえ、しょっちゅうパトカーや救急車が走り回っていた......。
そんな街に今、若者の観光客が急増しているという。いったいなぜ? そしてそれは真実なのか? 現地で実際に確かめてみた。
■この地域の人流の変遷を探る
11月下旬の土日に現地に赴いてみたところ......。最初に結論から言ってしまうと、その情報は確かだった。
ホルモン焼き店には行列ができ、店の前の一升瓶のケースで作られた簡易の椅子とテーブルには若者の姿が普通に見られ、中には女性客もいる。そして、街を若い女性が二人で歩く姿もあった。
公衆トイレが新しくあちこちに造られていて、これではおっちゃんたちも立ち小便ができない。当然、そのにおいもしない。
居酒屋の前で路上ライブが開かれ、若者が踊るなど、とにかく街には以前より若い人が増えていたのだ。
こうした街の変化について、この地に店を構える、衣料品店の店主が語ってくれた。
「長年、街の主役は日雇い労働者でした。彼らが飲食をして、服を買い、宿泊し、遊ぶ。そんなお金で繁盛していた労働者の街でした。
それが、労働者の高齢化、仕事減などの影響でだんだん日雇い労働者の数が減っていった。結果、商店街の飲食店は潰れていき、シャッター街寸前に。そこに取って代わるように、ここ数年やって来たのが外国人観光客やバックパッカーです。
特に中国人観光客が多く、シャッター街になりかけの商店街の店舗を中国人オーナーが買い占め"西成中華街構想"までぶち上げたんです。商店街は中国人向けカラオケ店がずらりと並んで、中華料理店のないカラオケ店だけという不思議な中華街でした。
この地の象徴の建物だった、あいりん労働福祉センター。2019年に閉鎖された
このままインバウンドの影響を受けた街づくりが進むかと思いきや、コロナですべてが止まった。街の主役になろうとしていたインバウンドがコロナで滑り落ちてしまった。
そんなコロナの最中に、外国への旅などをユーチューブでアップしていたユーチューバーが海外に行けず、西成を紹介するように(後出の『ジョーブログ』など)。すると若者の間で評判が広がり出した。そして、コロナが明けた今、ユーチューブで見た西成の街に若者が一気に集まり始めているんです」
かつての簡易宿所も色を変え、若者向きのシェアハウスとなるところも
この地で飲食店を経営する店主も続ける。
「ずっとここで生まれ育った地元民からすると、ユーチューバーが街の実態を発信することで『ほんまのことが世の中にバレてしまった』って感じですね。外から見ると、どの店もお世辞にもキレイではないし、店の中は怖そうなおっちゃんばっかりやし、もし何かあったらどうしようとなって、地元の人以外は店に入れんかったんです。
でも実際は、安いし、おいしいし、もちろん食品も安全やし、店の人は優しいし、人情味がある。ユーチューバーが店の中を映して、店主はこんな人ですと、怖くないことを紹介。
それを見て、『俺でも行けるやん』と、みんな気がついてきたわけです。それがさらにSNSでどんどん拡散されていって、今のようになってるんやと思います」
■若者たちの生の声を聞いた
実際にこの地に観光にやって来た若者の声も聞いてみた。
人気ホルモン焼き店にいた5人組の20代男性。よく見ると、70代とおぼしき高齢のおっちゃんも一緒に盛り上がっていた。
「ほんで、おっちゃん、結局何回刑務所に入ったん?」
「俺か? 俺は5回!」
「おー。スゴいなあ。なんで5回も?」
「俺さー、50年前にキャバレーのアルバイトやっててな」
「キャバレー? そんなん今ないで。昭和やな」
と、おっちゃんの昭和青春ストーリーに若者は興味津々のようだ。間を割って話を聞いた。
行列のできるホルモン焼き店
――今日はどちらから?
「高知県から来た大学生です。朝から車飛ばして、5人で大阪まで来ました。目的は西成です。ユーチューブやSNSで西成のことを取り上げてて、高知にはこんな所ないから、みんなで行こうと」
――おっちゃんと盛り上がってたけど、どうですか?
「めちゃくちゃ話が面白い。初対面の僕らみたいな連中に、昔からの友達やったみたいに話してくれること自体考えられないですよ。想像を超えてました。感激です」
――せっかく大阪まで来たのならUSJとかの観光も?
「いや、行きません。大阪はここだけです」
と、有名テーマパークを超える観光地扱いする声も。
スマホの地図を見ながら歩く男性二人にも声をかけてみた。聞けば、二人とも25歳でひとりは大分県在住、もうひとりは北海道在住だという。
――いったい、何をしに?
「男二人旅です。今回のテーマは『男二人で彼女とは行けない所に行こう!』ということで、それなら大阪がいいなって昨日来たんです。今日は西成を回ろうということで、西成にホテルも取りました」
――何がきっかけで西成に?
「やっぱりユーチューブ。特に『ジョーブログ』を見て、面白いなと。人生で一度ぐらいどんなものか実際に見てみようということで来ました。缶コーヒーが30円の自販機とかあるんですよね? 北海道では見たことないんで、これから街を歩いて、タイムスリップした気分に浸ろうと思います」
と、旅のルートにもやはり西成が組み込まれているようだ。西成の何が魅力なのかを探るため、さらにいろんな若者に話を聞いて回った。
30円自販機もユーチューブの影響で観光スポットに
人気ホルモン焼き立ち飲み店の前の簡易テーブルで飲んでいた20代の男女5人組(会社員)の男性に聞いた。
「飲み友達ですが、今日は昼飲みしたいよなということで、昼から酒が飲めるここにみんなで来ました。この店はものすごい行列ができてるとインスタとかで紹介されてる人気店なんで、一回行こうと」
女性が続ける。
「とにかくホルモンが食べたかった。焼き肉屋さんでも食べられるけど、みんなお肉食べてる中で『ホルモン』とかひとりだけ言うのは恥ずかしい。ここでは堂々とホルモンをオーダーできるし、実際、今食べたんですけど、さすが本場。焼き肉屋さんのホルモンとは全然違っておいしい」
人気店には行列ができる。並んでいる多くは若い人たち
昼から飲めて、気兼ねなくおいしい料理が食べられるのも魅力のひとつ。商店街の店先で飲んでいた20代のカップルにも話を聞いた。
「さっき1軒目行ってきて、ここが2軒目なんですけど、前の店ではひとり1000円ぐらい。もうほとんどマクドナルドのセットと変わらん料金で飲めてしまうんです。だから、何軒もはしごができるのが西成の良さ。
僕らは一回来たら、5、6軒ははしごします。ひとり6、7000円もあれば、もう昼過ぎからたいていの店が閉まる夜の8時頃まで、十分飲み歩きできます」
確かに、安さは大きな魅力だ。さらに、その近くで女性二人で飲んでいた30代のお客さんにも聞いた。
「まだ昭和テイストが残っている街。私ら世代より下はそこにひかれるのかも。そこの大通りに『純喫茶』が残ってるんですけど、若いコで満席です。店の前で列を作ってました。みんなスタバに飽きたんでしょうね(笑)」
と、今流行中のレトロ感も若者の心をつかんでいるようだ。
■火つけ役のユーチューバーたち
ここで、若者のほとんどから聞かれた「ユーチューブの影響」という当事者に話を聞いてみよう。西成をはじめ日本そして世界各国のディープなスポットの情報を発信する、チャンネル登録者数217万人の『ジョーブログ』のジョー氏が語ってくれた。
『ジョーブログ』のジョー。『ジョーブログ』のチャンネル登録者数は217万人。西成をはじめ世界のディープスポットを紹介。西成に自身のお店「西成ホルモンレディゴー」を構える。今年11月、西成区に1000万円を寄付した
――なぜユーチューブで西成を取り上げようと?
「当初は自分のチャンネルの方針に沿って、西成を紹介する動画もディープでデンジャラスな所を『こんなに危険な街なんだ』と紹介していたんですが、僕自身が西成で生活しているうちにだんだんと街自体が優しい人間関係に包まれていることがわかってきたんです。
西成を撮影すればするほど、好きになっていった。西成にしかないこの人情味、空気感みたいなものを動画で伝えたら、若い人でも来やすくなるんじゃないかなと思って、動画もその方向にシフトしていったんです」
――実際に若い人がすごく増えて、今回の取材でも『ジョーブログ』を見て来たという人が何人もいました。
「うれしいです。でも、僕もそれを感じたことがあって、僕は一度紹介した店をその後も二度、三度と紹介したりするんですが、2回目に撮影に行ったとき、もう前回の動画を見て来ましたという視聴者さんが店にいるんです。
そんな視聴者さんが訪れている動画を上げると、『この店、普通の人が行ってもいいんや。じゃあ行ってみるか』と、どんどんいい流れになっていくんだと思います」
――これからの西成についての展望とかはありますか?
「僕は日本一の街にしていきたいですね。若い人が増えていく。それでありながら、今ある西成の人と人との温かさはずっと残っていってほしいなと思います」
もうひとり、西成警察署の向かいでうどん「淡路屋」を構える店主でジョー氏とのコラボ経験もある『西成キンちゃんのワッショイTV』を配信するキンちゃん氏にも話を聞いた。
『西成キンちゃんのワッショイTV』のキンちゃん。西成警察署の向かいにうどん「淡路屋」を構える。『西成キンちゃんのワッショイTV』は2号店の「淡路屋丸」で提供している刑務所メシを紹介することで火がついた
――何が魅力でこんなに若者が集まっているんでしょう。
「安い、うまいのほかには、やっぱり西成の人情ちゃうかな。自分も海外から西成に帰ってきた頃、いきなりおっちゃんが近づいてきて、冷えた缶ビール渡して、『飲めや』と。
そんで飲むと『おまえは若いから、もう一本いけるやろ』とそんなこんなで15分ぐらいで打ち解けて、最後は『全部やるわ』と缶ビール4、5本渡して行ってしまったことがありましたね。今もそんな街です(笑)」
ただし、人が増えすぎたゆえの懸念材料もあるようで。
「今は女性ひとりでも歩ける街になってきたんでいいなと思う半面、このままの方向でずっと進めてきれいな街にしてしまったら、生活保護者とかホームレスの人が困ってしまうと思う。
梅田や難波と同じようにしてしまったら、今度はおっちゃんらが怒って、別の意味での暴動が起きかねない。今みたいなバランスがちょうどええように思うなあ」
前出のジョー氏もにぎわいを喜びながらも、不安はあるという。
「人情味のある人が多いですが、中にはやっぱり悪いことを考えている人もいる。酒のノリで簡単についていったりしないように注意してほしいですね。若い人が増えた分、そうしたケースも多くなると思いますので」
これはどの街でも同じだが、酔っぱらって初対面の人とハメを外しすぎないように注意は必要ということ。
興味を持ったあなた、ユーチューブなどで事前学習をして、年末年始にこの街をのぞいてみるのもアリかも。
取材・構成/ボールルーム 撮影/加藤慶