東京はエリアが変われば、街の色が変わる。それぞれの街が特徴的なのは、住人の個性によって変化するからだ。

東カレが、街に住まう人々やレストランを徹底取材して、その個性をご紹介しよう。

今回は、「築地」エリアの変化、そしてこの街の人気店にフォーカスしてみた!

東京の街の個性を徹底調査する連載「東京ご近所探訪」。過去にご紹介した街も、要チェック!


今月のエリア【築地】


今回取り上げるのは、中央区築地。

高級店が軒を連ねる銀座の隣町でありながら、庶民的で気さくな雰囲気が漂うのは、長年「築地市場」があったからだろう。

市場が豊洲に移転して丸5年経ったいま、築地がどのように変わり、どのようなところは変わらずにあるのか。改めて街を歩き、話を聞いた。

住所でみる築地は、東京メトロ日比谷線の築地駅を中心に広がる中央区築地1丁目から7丁目。

東京メトロ有楽町線新富町駅、東京メトロ日比谷線と都営浅草線の東銀座駅、都営大江戸線築地市場駅も近接していて、東京駅までもタクシーで10分ほどという交通の便が非常に良いエリアだ。


エリアごとに大きく色が変わる独自の街「築地」

晴海通りと新大橋通りが交差する築地四丁目の交差点は、築地場外市場の入口。早朝から活気に溢れ、国内外の観光客で賑わう街も、夕方には帰路に就くビジネスマンや住民が行き交う。界隈には、個性的な実力店が点在する


にもかかわらず、あまり「暮らす」という視点で語られることがないのは、いまだに「築地市場」の印象が色濃く残っているから。

実際、40年以上築地で暮らしている住人に「“築地”エリアの印象はどうですか?」と尋ねても、「自宅の住所も“築地”ですが、やっぱりいまでも築地=市場のイメージです。卸売市場は豊洲に移転してしまったけれど、場外市場の賑わいはいつまでも残ってほしいですね」という答えが返ってきた。

築地エリアで35年にわたって営業を続けてきた『築地不動産サービス』の吉田剛士さんにお話を伺った。

「築地はエリアによってまったく違う顔を持っています。築地四丁目の交差点を軸に、銀座側はオフィス街の色が濃く、新大橋通りの逆側には市場や『築地本願寺』があります。

住宅はお寺の裏から隅田川までのエリア、住所でいうと築地3丁目と6丁目の一部、そして7丁目に集まっています。近年、マンションが増えているのもこのエリアです」



隅田川の川岸には「隅田川テラス」と呼ばれる遊歩道が整備されていて、地域住民の憩いの場になっている。テラスには、隅田川を浅草まで航行する水上バスの乗り場もある


月島・勝どきから豊洲までの湾岸エリアの人口増に伴い、築地も流入人口が増えてきていて、マンションが建設されているのだという。

しかし、行政と一体となって再開発を行っている勝どきや月島とは異なり、築地にはタワーマンションはなく、昔ながらの平屋の木造住宅もまだまだ多く残っている。



築地周辺のシンボルであり、勝どき・月島エリアへとつながる「勝どき橋」は、現在塗装工事中


築地の住環境をひと言で表すのは難しい。

徒歩や自転車で出勤できることから、昔から市場や「築地本願寺」で働いている人たちが多く暮らしており、「聖路加国際病院」「国立がん研究センター」が近いため医療従事者も多い。

電通や朝日新聞社なども近く、メディア界隈の人たちにも人気なのだ。

「湾岸エリアのようなハイエンドなタワマンはありませんが、その分落ち着いた雰囲気があって、若いファミリー層からの注目度は高まっていると感じます」と吉田さん。

都心にも近く通勤の便が良いため意外と単身者用の賃貸物件が多く、60平米を越えるようなファミリー向けの物件はすぐに決まってしまうそうだ。

市場と並んで築地のランドマークとなっているのが、晴海通りを挟んで場外市場の反対側にある「築地本願寺」だ。

京都・西本願寺を本山とする浄土真宗本願寺派のお寺だが、古代インドなどアジア仏教様式の建物でエキゾチックな雰囲気を醸している。副宗務長の東森尚人さんは言う。

「私は奈良出身なので、こちらに来たばかりの時は、都会のど真ん中に人情味のあるコミュニティーがあることに驚きました。

江戸っ子気質の昔ながらの住人は物言いがとてもストレートで、“言うことは大げさだけど、腹はない。鯉の吹き流しみたいなもんだ”って自虐的に言うんです。

実際にお付き合いしていても、裏表がなくて“粋”な人が多いと感じます」


『築地本願寺カフェ Tsumugi』


創建400年を超える「築地本願寺」は「開かれたお寺」を目指し、境内にカフェを開設。




お粥とみそ汁と16品のおかずがセットになった「18品の朝ごはん」(2,200円)は、オープン前から行列ができるほどの人気。

その他、お寺としての機能はもちろん、スクール、ラジオなど多角的に事業を展開。



昔ながらの気が短くてけんかっ早い、江戸っ子気質な人たちはいまなお健在だ。

築地の住人たちのそんな「人間らしさ」が、いまもこの街の雰囲気を形作っている。


「築地市場」跡地の開発が、新たな時代の幕開けに

国内外からの観光客で賑わう「築地場外市場」。年々、外国人の割合が増えているが、「日本の食文化を体験したいというニーズが高まっている。本質からブレないことが大事」と『酒美土場』の喜納店長


「築地市場」の豊洲移転後、築地に残った場外市場はどう変わったのか。

市場の移転と同時に場外市場に開業した「築地魚河岸」にも仲卸の店は入ってはいるが、やはりプロの料理人の多くは豊洲に足を運ぶ。

それに伴って、築地が食のプロが集う街から、観光の街になってきている部分は、もちろんある。

場外市場の路地は世界各国からやってきた人たちでごった返している。飲食店を中心に、観光客相手の業態が増えているのだ。

元々、場外にあった乾物屋や道具屋なども、一般の買い物客や観光客にも受け入れられる商品を考案したり、ディスプレーを工夫したりして、食のプロ以外の人たちにも目を向けるようになってきているという。

場外市場にある角打ちもできる酒屋『酒美土場(しゅびどぅば)』の喜納恭平店長は「築地には、元々、多種多様な人がいました。魚河岸の人がいて、サラリーマンがいて、観光客がいて、最近は外国からの観光客もどんどん増えています。市場がなくなって“食を支える中心地”ではなくなったけれど、新たに“日本の食文化の発信地”として、私たちが場外市場を盛り上げていきたいと思っています」。

『酒美土場』では、角打ちの際に場外市場で買った食べ物を持ち込むこともできるが、持ち込み料は無料だ。

「その方が街の一体感が強まるし、築地全体が盛り上がると思うんです。せっかくだから、築地で買った食材と、僕たちが売っているお酒を一緒に楽しんでほしいじゃないですか」と喜納さん。

夕方になると、住人がつまみ片手にフラリと立ち寄ることも多いのだとか。


『酒美土場』


場外市場の一角にある酒屋で、ナチュラルワインを中心に日本酒、クラフトビールなどをそろえる。




ワインは常時400種ほど、うち約100種類がオレンジワインという個性的なラインナップ。

角打ちは、日本酒 500円〜、ワイン 600円〜でオレンジワインも選べる。つまみはノーチャージで持ち込み可。



また、築地はオンとオフがはっきりしている街だ。昼の活気と夜の静寂のコントラストは強いし、エリアによる特性の違いも大きい。

場外市場があるエリアは、完全に「チャキチャキの江戸っ子文化」がベースになっているが、晴海通りを渡った、3丁目や7丁目は静かな住宅街なのだ。

小売店はほぼゼロ。小さな公園が地元住民の憩いの場になっていて、じつにのどかな空気に包まれている。

築地の住人曰く、「街の様子は、だいぶ変わってきてはいるんですよ。外国人観光客で賑わう一方、30代の若いファミリー層が増えたことで、スーパーや子ども向けのフォトスタジオなど生活に根づいたお店ができています。一層、雑多で面白い街になっていると思います」。

市場からは少し離れた築地2丁目にある『Turret COFFEE』も、築地に新たな風を吹き込んだ一軒だ。

オープンから10年。近隣に暮らす常連さんから外国人観光客までが途切れることなく訪れ、行列が絶えない人気店になった。

店主の川崎 清さんは「築地はやっぱり食の街。食材にしても道具にしても、デイリーなものが、高いクオリティーでそろっている。僕自身は築地にまったく縁がなかったんですが、“美味しいコーヒーを市場から発信したい”と思ってこの場所に出店を決めたんです」と語る。

卸売市場があったころ、仕入れの帰りにいつも寄ってくれる料理人に言われたことがあった。

「今日はいつもと味が違う」

気候によって、コーヒー豆のコンディションは変わる。少し味がブレてしまった、そこを鋭く指摘されたのだ。

「味にこだわりがある人が多いと痛感しました。厳しいな、と思った反面、評価してくれているし、期待もしてくれているということですから感謝しています」と川崎さん。

店内に飾られているターレットにも、物語がある。築地らしい名前をと、市場内を走り回り、荷物を運ぶターレットトラックを店名に冠した。

「“いつか、ターレットを置きたいんです”と話していたら、当時よく店に来てくれていた市場関係の方が本当に持ってきてくださって。びっくりしたけど、ありがたかったですね」

面倒見が良くて、若者を育てていこうという心意気。これも築地の人の気質なのだろう。


『Turret COFFEE』


新大橋通りから路地を入ったところにあるエスプレッソバー。



季節限定のラテも人気


ガツンとビターなエスプレッソをベースにした「ターレットラテ」(660円)は、量もたっぷりで飲み応えがある。

取材中に来店した近所の常連さんは「いつも混んでいるから、並んでいない時に来る。やっぱり、美味しいコーヒーが飲みたいからね」。



築地には、時代に合わせて変わっていく力がある。

築地は市場のイメージというが、85年間あっただけ。それ以前は、300年以上、日本橋に河岸があり、築地は「築地本願寺」の門前町だったり、海軍の街だったりしたのだ。

都心のエアポケットともいうべき広大な築地市場跡地の再開発は、2024年3月に骨子が発表される。築地にどんな顔が加わるのか、街の人たちはジッと見守っている。


地元の不動産店に聞いた!街の基本スペック


・賃貸相場:(1LDK 40平米目安)
 13万〜19.5万円

・販売相場:
 中古マンション 40平米 2,500万〜5,500万円
         60平米 5,500万〜9,000万円
        ※築10年〜35年前後まで幅広く、広めの物件は少ない

・駅周りの人口:
 約10,000人

◆協力してくれたのは◆
店名:築地不動産サービス
住所:中央区築地2-11-11
TEL:03-3541-8585



築地で安定の人気店


いまの築地は若き店主によるお店と、長年愛されてきた老舗がいいバランスで交わっている。

それぞれの代表格的なお店がこちら。


築地らしさが光る上質なイタリアンで洗練のひととき
『baban』



夜になると周囲は暗いため、『baban』の看板が目立つ


築地場外市場の奥、「波除神社」のすぐ近くにある『baban』。



おまかせコースは全9品。カウンターでライブ感を楽しみながら、築地が誇る最高の魚介に舌鼓を打つ。ワインはグラス 2,000円〜、ペアリング(6杯 13,200円)も人気


営業は夜のみ、完全予約制、30,800円のおまかせコースのみと、築地らしからぬスタイルを貫く「魚河岸イタリアン」だ。

築地魚河岸の仲卸から仕入れた旬の魚介を贅沢に使い、季節感のあるコースを組み立てていく。



1品目は「やま幸」のまぐろから。スペシャリテの「鮪のタルタル」


スペシャリテは「鮪のタルタル」。

ブリオッシュに、「やま幸」のまぐろやケッパー、ピスタチオなどを合わせたタルタルをたっぷり盛り、キャビアを載せた逸品だ。




濃厚なはまぐりだしとさわやかなフルーツトマトがうにの旨みを引き立てる「ウニの冷製パスタ」は定番。



「クエとフカヒレのスープ仕立て」


シェフの新藤昇巧さんは、「目利きのプロ」に対して絶対的な信頼を寄せる。

「築地の店だからこそ目をかけてもらえるところはありますね。“今日、少しだけどコレがあるよ”ってビックリするほどいい素材を出してくれたりするんです」

最高の食材を最高の料理にして出す。築地の心意気が、ここに。


■店舗概要
店名:baban
住所:中中央区築地6-27-1
TEL:03-6260-6943
営業時間:18:00〜または19:00〜の一斉スタート
定休日:水曜、不定休
席数:カウンター7席、個室1(6席)



創業75年という街に愛される洋食店で懐かしの味わいを
『蜂の子』




新富町駅からほど近い築地1丁目。活気溢れる場外市場とは対照的な静かな路地にある『蜂の子』は、長年愛されてきた洋食&フランス料理の名店だ。

1948年に銀座で創業、1960年に築地に移転して以来、この地で愛され続けてきた。

常連客には市場関係者も多く「魚介類は、どこのどんな食材を使っているのかすぐに見抜かれます。素材には手を抜けないけれど、やりがいもありますね」と、シェフの平澤利光さん。

いい食材を手をかけて調理することで、家庭的なメニューも唯一無二の美味しさに仕上げるのが老舗の技。



創業時からの人気メニュー「レバヤサイ」をベースに考案した「レバグラ」1,089円。大きめにカットした鶏レバーのねっとりとした食感がたまらない


“東京一美味しい鶏肉”と評される「宮川食鳥鶏卵」の鶏レバーのシチューをスパゲティと一緒に焼き上げたグラタン仕立ての「レバグラ」は必食だ。




「ブロッコリーとズワイガニのサラダ仕立て」2,145円。




「牡蠣フライ」(1,810円)には、揚げたときにふっくら仕上がる三陸産を使う。自家製のタルタルも絶品。



「店が新しくなっても味はずっと不変です」


フランス料理の修業を積んだ平澤さん。『蜂の子』の初代の味を受け継いだ兄の新一さんと一緒に厨房に立ち、腕を振るっている。


■店舗概要
店名:蜂の子
住所:中央区築地1-5-8 オープンレジデンス銀座est 101
TEL:03-3541-9805
営業時間:ランチ 11:30〜14:00
     ディナー 18:00〜(L.O.20:50)
定休日:土曜、日曜、祝日
席数:テーブル31席



担当編集・船山が街の酒場の様子を現地リポート!
〜路地裏で見つけた、ふぐの立ち食いに驚き〜



今回は築地エリアということで、新富町方面にも向かってみる。そして、立ち寄ったのは『築地長屋6-7-7』。



隣には『ふぐ倶楽部 miyawaki 別邸』があり、こちらではコースを楽しめる


ふぐをリーズナブルに楽しめると評判の『ふぐ倶楽部 miyawaki』の姉妹店で、名前のとおり、長屋の一角の立ち飲み酒場。

美人スタッフを中心にダンディーなおじさまが談笑中。



皮と身の間の希少な部分を炒めた「絶品 とおとうみ炒め」1,000円。「てっさ」(1,200円)や「ふぐの唐揚げ」(700円)なども驚きの価格帯


メニューには「てっさ」や「ふぐの唐揚げ」などがズラリ。しかも、どれも1,000円台かそれ以下と安い。



「ひれ酒」(1,000円)はふぐの香りが際立つ。ひれを漬け込んだ「ひれ焼酎」(800円)も人気


白眉は「ヒレ酒」で、香ばしいヒレに燗酒を注ぐ際にファイヤー!と楽しい。

寒い時期になるが、こんなお店が近所にあったら「毎日通ってしまうやろ!」と心の中で叫びながら、帰路に就いたとさ。




築地といえば『おにぎり屋 丸豊』が大好き。界隈で撮影があると差し入れに購入。具がたっぷりで幸せいっぱい。


▶このほか:仕事終わりにサクッとひとり飯のつもりが…?港区の新スポット「T-MARKET」が叶えた出会い