Vol.133-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはクアルコムの新CPU「Snapdragon X Elite」。これに対抗するインテルのCPUの展望を解説する。

 

今月の注目アイテム

クアルコム

Snapdragon X Elite

↑自社開発のCPUアーキテクチャ「Oryon」を12コア搭載するSnapdragon X Elite。Apple M2と比較してマルチスレッドで50%高い性能を、第13世代CoreのPシリーズと比較して同じ電力量であれば性能は2倍になるという

 

スマホやタブレットで使われていること、そしてMacでのAppleシリコン移行が成功したこともあり、ARMコアはx86よりも消費電力が低くて優秀……というイメージを持つ人が少なくないだろう。

 

だが実際のところ、単純にARMかx86かで消費電力が決まっているわけではない。PCは処理がほとんど実行されていないタイミングと処理負荷が大きいタイミングがあり、それをどうコントロールするのか、どれだけ効率よく「消費電力の少ないタイミング」を増やすかで効いてくる。当然x86でもそうした処理は積極的に行なわれており、過去の製品に比べ消費電力は下がっている。

 

ただ、半導体の製造プロセスが若干不利であったり、PCという性質上スマホよりも負荷の高い処理を求められるシーンが多かったりと、不利なシーンは多い。x86としては「いかに構造を変えて低負荷時で消費電力が低い状況を増やすか」「PCとしての付加価値を出すか」という点が大きいように思う。

 

ここ2年ほどは、AMDに引きずられる形で、インテルも一般向けプロセッサーに内蔵されるGPUの性能アップに努めてきた。ASUSやレノボもポータブルなゲーミングPCに参入したが、それができたのはAMDのPC向けプロセッサーであるRyzenシリーズのコストパフォーマンスが良く、小型な製品でもそれなりにゲームができる性能を実現できたからである。インテルもGPUを強化したが、「小型でゲーム向け」ではニーズを伸ばしきれていない。

 

インテルは、「いかに性能を上げるか」と「いかに消費電力を下げるか」のバランスで苦しんでいる。

 

そこで採用するのが「チップレット」だ。

 

チップレットとは、別々に作られたCPUコアやGPUコアなどを1つにパッケージングしてまとめ上げる技術。AMDはチップレットを活用してCPU・GPUの組み合わせバリエーションを増やし、いろいろなPCメーカーのニーズに応えている。

 

インテルは2023年末から発売する「インテル Core Ultra」(通称Meteor Lake)から、インテルが「タイルアーキテクチャ」と呼ぶチップレット構造を採用する。細かな技術面ではインテルのものとAMDのものでは異なるのだが、重要な点は2つに絞れる。

 

要は「製品バリエーションを広げやすくなる」ことと、「処理に合わせた消費電力低減がしやすくなる」ことだ。特にインテルは、映像再生時などの消費電力が大幅に下がると説明している。搭載ノートPCが出てくるのは2024年からになるが、どのような製品になるかが気になるところだ。

 

インテルがタイルアーキテクチャを採用するのは、より処理に合わせた消費電力低減を進めるためであると同時に、いまどきの半導体需要とニーズの両方に応えるためでもある。その「いまどきのニーズ」には、もちろんQualcommも対応しようとしている。

 

それはどんな点なのか? そこは次回解説する。

 

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