知らなかった!? 給食の意外なルール。学校栄養士が語る給食トリビア満載の一冊〜注目の新書紹介〜
こんにちは、書評家の卯月鮎です。私が学校給食を食べていたころは、パンがほとんどでたまにご飯やソフト麺が出るという時代でした。パンは嫌いではないですが、記憶ではおでんにコッペパンなんて日もあって、「これは新感覚!」と思った覚えがあります(笑)。
いろいろな文句もありつつ、やっぱり誰もが思い出に残っている給食のひととき。世代を超えて盛り上がる話題のひとつでもあり、世界に誇れる制度とも言えるでしょう。
「全国学校給食甲子園」優勝の栄養士が給食を語る
今回紹介する新書は『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(松丸奨・著/幻冬舎新書)。著者の松丸奨さんは、管理栄養士・栄養教諭。東京都文京区の小学校に学校栄養士として勤務しています。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」で男性栄養士として初の優勝を果たしました。『給食が教えてくれたこと「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版)など著書も多数あります。
献立作成はまるでルービックキューブ!?
第1章「ある日の給食室」では、「自校方式」の給食室で栄養士と調理員がどのような流れで1日の仕事をしているのかが紹介されてます。現代の給食室は校長先生ですら立ち入り禁止の聖域。食材に直射日光を当てないという観点からすりガラスが採用されており、学校内でも秘密の場所となっているそうです。そこでどのように給食が作られるのか……!?
学校によっては、あの有名アイス「ガリガリ君」の給食用が提供されたり、スチームコンベクションオーブンが導入され、パンが美味しくリベイクされたりしているそうで、昭和世代には驚くことばかり。
続く第2章「献立作りの舞台裏」は、”お仕事もの”としても読み応えがありました。献立作りは栄養士にとってもっとも心躍る作業、と松丸さん。
実は給食には守るべき細かいルールがたくさんあります。各自治体によって違いますが、「主食は10日間サイクルでご飯6.5回、パン2回、麺1.5回を組み合わせる」といった具合。もちろん各栄養素の基準値も満たさなければならず、献立作りはまるでルービックキューブ並の難易度だとか。豚肉だけでも部位別、切り方別で100種類以上の選択肢があるそうで、何を選ぶかは栄養士さんの腕の見せどころでしょう。
第3章「給食、その激動の歴史」、第4章「給食を規定するさまざまな基準」、第5章「給食とお金」と、自他ともに認める給食マニアの松丸さんが、給食にまつわるトピックを硬軟取り混ぜて分かりやすく解説していきます。
実際に小学校に栄養士として勤務する松丸さん。朝5時半に出勤して野菜価格の情報を収集する、人気ラーメン店よりも美味しいラーメンを出すため出汁の専門業者に電話する、胃もたれしにくい揚げパンづくりのため2週間の揚げパン生活……など、松丸さん自身の奮闘ぶりも綴られていて、給食に対する研究熱心な姿勢が伝わってきます。
未来を担う子どもたちの食べるものだからこそ、最高のものを目指さなければいけない、と松丸さん。いってみれば、給食はその国の大人が、食文化や子どもの健康をどのように考えているかを映す鏡。思い出話だけではなく、今の給食がどうなっているか、これからの給食の未来をどうするか、そうしたことも見つめる必要があるかもしれません。
【書籍紹介】
給食の謎 日本人の食生活の礎を探る
著者: 松丸奨
発行:幻冬舎
昭和の給食を食べていた世代にとって、令和の給食は驚きの連続だ。なぜ昔は毎日パンだったのに今は週1回程度なのか? 冷たい麺類禁止の地域があるのはどうして? 給食室がある学校は減っている? ソフト麺はどこに消えた? 現役の学校栄養士で給食マニアとしても知られる著者があらゆる謎を徹底解説。ギモンの背景を探るうち、給食が日本人の食生活まで変えたという歴史が如実に浮かび上がってきた。献立作成の裏側から厳格すぎる衛生管理まで給食トリビアが満載、空腹時は閲覧注意!
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。