『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』原作者・大木亜希子&ササポンご本人インタビュー「家族でも恋人でもなく、友情とも言えない不思議な絆」
元SDN48、作家・大木亜希子の実録私小説「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(祥伝社文庫)が映画化。11月3日(金)全国公開となります。
仕事なし!男なし!貯金なし!のどん底状態の安希子(深川麻衣)に、安希子の親友で、社⻑としてバリバリ仕事をこなすアラサー仲間のヒカリ(松浦りょう)は、知り合いでルームシェアする相手を探しているという都内の一軒家に住む56歳のサラリーマン・ササポン(井浦 新)を紹介。「まごうことなきおっさんじゃん」と不審がる安希子だったが、底をつきそうな貯金と天秤にかけて、背に腹は代えられないとササポンと同居することに。
崖っぷち元アイドルアラサー・安希子と56歳サラリーマン・ササポンの共同生活という、驚きの実話を描いた、あたたかなヒューマンドラマ。原作者の大木亜希子さんと、ササポンさんご本人にお話を伺いました!
――今日は貴重な機会をいただきありがとうございます!おふたりは久しぶりですか?(取材は8月)
大木:こちらこそ素敵な企画をありがとうございます!そうですね、ちょっと時間があきましたかね?
ササポン:ちょっと久しぶりだよね。
大木:私が昨年『シナプス』という小説を出して、ありがたいことにプロモーションを色々とやらせていただいて、そこからずっとバタバタしていたのもあって、今日久しぶりにお会い出来ました。でも、小説の感想をメールでいただいたり、ちょっとした連絡を取り合ったり、今でも交流しています。
――原作も拝読し、映画も拝見し、本当に素敵なお話だなと胸いっぱいになりました。映画化することが決まった時は、すぐにササポンさんに伝えたのですか?
大木:企画が具体的に動き出した時、私は既にササポンの家を出て一人暮らしをしていたのですが、軽井沢に引っ越されたササポンに電話をしたらワンコールで出てくれて。「今何をしていたんですか?」と聞いたら「ピアノの練習してた」って。どんな曲を弾いているのかなと思いながらも(笑)、映画化が決まりそうだとご報告したら、大袈裟に喜ぶのではなく、“ササポン節”で淡々と「そう。良かったね」と言ってくれました。
ササポン:内心では「すごいな!」と思っていましたよ。全ての小説が映画化されるわけではないので、本当にすごいなって。あまり表面に感情を出さない様にしているので、淡々と感じたかもしれませんが、内心では「やったー!」という感じでした。
大木:やったー!
――大木さんご自身で映像化の売り込みをされていたそうですね。
大木:そうなんです。原作の私小説を発表した時から多くの反響をいただいき、いくつか映像化のお話はいただいていました。それはとてもありがたいと思う反面、実際に映像化される保証がない中で長い間待つよりは、自分で実現に向けて何か出来ないかなと考えました。そこで、知り合いの映像関係の会社のスタッフさんに会いに行きました。その時はまだササポンの家に住んでいて、2019年の夏だったのですが、リュックを背負って、自宅近くの喫茶店に飛び込んだ記憶が残っています。
――すごいバイタリティですね。
大木:書いている時から、映像化したいという想いはありました。「映像化するならこうしたい」というイメージもあって、ササポンに「私、売り込みに行ってきます!」と言って、見送っていただきましたよね。
ササポン:すごく気合いが入っていたよね。臨戦態勢でしたね。
大木:でも、「そう。頑張ってね」ってササポンはいつも通りでした。
ササポン:あまりこちらが気合い入れてもねって感じだから。
大木:この強さはササポンが耕してくれたものだと思っています。もちろん、映画に出てくるヒカリや景子の様なアラサーの友達にも支えられていました。みんなでササポンハウスで山芋の漬物を食べたり、ササポンが『相棒』を流しているところをみんなで覗いたり、そんな時間が好きでした。芸能人のお友達もよく遊びに来ていて、タレントの井上咲楽ちゃんとかも遊びに来てくれましたよね。咲楽ちゃん自身も、ササポンと楽しそうにお話していました。
ササポン:そうねえ、2、3回会ったかな。
大木:ササポンは芸能界の方に興味がないですし、ミーハーでもないので、彼女たちもいやすかったんだと思います。ヒカリと景子も、実際には元女優や、元アイドルの子なので。
ササポン:興味がないわけじゃないんだけどね。家に来てお話すると、みんな普通の女の子なので。「あとは皆さんで楽しくやってください」って感じでしたね。最初はちょっといますけど、だんだん女子トークについていけなくなるので引っ込んでました(笑)。
大木:紳士ですよね。
――完成した映画をご覧になっていかがでしたか?
ササポン:原作の要素が盛りだくさんにつまった映画だなと思いました。実際に起こったことや、原作に書かれていることがこうやって表現されるんだなと楽しませていただきました。
大木:原作を発表した時に遡るのですが、元アイドルとおじさんが同居するということが、SNSをはじめネット上でセンセーショナルに見られることも多くて。でも、その裏側には、とても穏やかで、優しさに満ち溢れた日常があったんですね。当時からそれを汲み取ってくれる方もたくさんいらっしゃったのですが、一方で面白半分に語られることもありました。そうした誤解を、今回の実写映画が払拭してくれたと思います。家族でも恋人でもなく、友情とも言えない不思議な絆がしっかりと描かれています。
――どうしてもメディアではセンセーショナルに切り取られがちですよね。
大木:私自身もアイドル卒業後はWEBメディアに長く勤め、記事のタイトルを付ける時も「21文字が全て」というような世界にいたので(※大木さんはWEBメディアで編集・執筆・営業をしていた)、たくさん勉強させていただいた一方で、良い記事を書かなきゃ、とか、高いPVを取らなきゃというプレッシャーで消耗することもありました。
――この映画を観たら、単なる同居物語ではなく、一人の悩める女性の心の葛藤が伝わってきました。
大木:ありがとうございます、嬉しいです! ササポンは印象的なシーンはどこでしたか?
ササポン:別荘に行った時かな。ササポンの秘密みたいなものも出てくるし、亜希子ちゃんを元気づけるフレーズが出てきて良かったなと思います。
大木:私としてはササポンの秘密を世の中に知らせてしまってすみません…という感じなんですけど、大丈夫でしたか?
ササポン:事実だから大丈夫です。亜希子ちゃんも世の中に素直な気持ちを出しているわけだから、僕のことも書いてもらうのは良いんじゃないかなって思います。
――本作を手掛けられた穐山茉由監督の『シノノメ色の週末』は私も好きな作品で。女性同士の雰囲気を描くのがとても自然ですよね。
大木:『シノノメ色の週末』も『月極オトコトモダチ』も拝見したのですが、とても面白いですよね。今回の『つんドル』も、私と、親友のヒカリや景子が普段から話している感じを自然に表現してくださっていて、この女性同士特有の雰囲気や友情を映画で出せるのは、穐山監督以外ないと思いました。
――ご自身の経験にまつわるお話ですから、それは大切なことですね。
大木:監督とは撮影前に二人きりの時間を設けていただき、私がこの作品に込めた思いや情熱を、ありのままにお伝えしました。腹を割ってお話をさせていただいたことで、作品の方向がズレないように確認させてもらえて良かったです。
――ササポンさんは撮影現場に行かれたりしたのですか?井浦さんとお会いになったり?
ササポン:撮影現場へは行っていないのですが、今日初めてお会いして、爽やかで気さくな方だと思いました。お話することもできて嬉しかったです。
――井浦さんが演じるササポンさんの雰囲気と、今お話しているササポンさんの雰囲気がとても似ていてビックリしました。
大木:穏やかで、人を包み込んでくれるような安心感を感じます。最初に井浦さんにキャストが決まった時はどう思いましたか?
ササポン:随分カッコいい俳優さんがやられるなって。実物と全然違うなって思いました。俳優さんって皆さんお若く見えますから、僕と同い年くらいか年上の方がやられるのかなと思いましたが、(井浦さんは)年齢も僕よりお若いですし、意外でしたよね。でも映画を観たら、しっくりしているなって。皆さんがイメージするササポンだったと思います。
――ササポンさんもとてもお優しくて素敵です。
ササポン:いえいえ、井浦さんは実物よりも優しいササポンだと思います。
大木:照れてますね(笑)。原作者である私自身も、普段はカッコいい井浦さんが、どのようにササポンを演じてくださるのかと思ったんです。でも、完成された映画を観たら、良い意味で“普通のおじさん”になっていて。どこにでもいるという意味ではなくて、当時の私を励ましてくれたササポンと同じ空気をまとった、普通のおじさんだったんです。井浦さんという素晴らしい俳優さんがササポンになってくれて、とても嬉しかったです。
――安希子を演じた深川麻衣さんも素晴らしかったです。
大木:初号試写を観た後、ご挨拶した時に、私が過去を思い出して感極まって泣いてしまったら、深川さんが「私まで泣けてきます〜」ってハグをしてくださって。その時にこれまでの人生が走馬灯の様に蘇ってきました。
――なんと尊い出来事でしょう…。ササポンさんは深川さんが演じられた亜希子さんはいかがでしたか?
ササポン:イメージ通りでした。映画を観ながら思っていたのは、僕が知らなった裏側の部分を知れて、「ああ、こういう風に思っていたんだな」って。それが深川さんを通じて知れたと言うか。恋愛に悩んでいる姿とかは目の前で見ていないので。僕の目の前では気丈に振る舞っている部分もあったと思うから、改めて気持ちを感じられたんですよね。
――ご本人を目の前にすると言いづらい部分があるかもしれませんが、亜希子さんと初めて会った時から、今の亜希子さんを見て、こんな部分が素敵になったなと思うことはありますか?
ササポン:初めて会った時は、今よりちょっとぽっちゃりしていたのもあるかもしれないのですが…
大木:こらー!
ササポン:随分綺麗になりましたよね。一緒に住み始めた当初から、「しっかりしている子だな」と思ったんです。そこから原作の私小説にも書いている通り、彼女が仕事から落ち込んで帰ってくる日もあって、色々とブレていることもあったから、大丈夫かな?と心配していた時もあります。でも、今は本当にしっかりしていますね。
――この原作や映画にたくさんの方が励まされると思うのですが、私自身もすごく分かる部分が多かったんです。亜希子さんと状況は違っても、子供の頃に思い描いていた自分とは全然違っていたり、大人じゃないな自分って思ったり…。
大木: こうして自分の人生をさらけ出すことで周りからどう取られるかなと思っていたのですが、そう言っていただけて本当にうれしいです。
ササポン:自分を振り返った時にも思うのですが、30歳前後って、20代前半よりは仕事が出来る様になっているかもしれないけれど、なんかにちょっとつまずくと必要以上に落ち込んでしまったりしますよね。この映画が少しでもそんな方の助けになれば嬉しいなと思います。
――本当にそう思います。ササポンさんは「生きるのが楽になったな」という年齢や瞬間ってあったのですか?
大木:聞きたいです!
ササポン:やっぱり40歳過ぎたくらいかな。
大木:まだまだだ〜(泣)。
ササポン:30代後半から40歳くらいですかね。だんだんと周りが見えてきて、迷いが無くなってくるっていう感じかな。
大木:でも、仕事がうまくいっていると、プライベートではうまくいかないことがあったり……。私って一生ブレていそうなんですけれど、どうしたらいいですか?
ササポン:私の主義というのがあって、3つのことを大事にしているんですよ。1つは「反省はするけれど、後悔はしない」ということ。過ぎ去ったことは仕方がないから、反省はするけど悔やみはしない。2つ目は「迷ったら変化することを選ぶ」。今やっていることで悩んだ時は、変わる方を選ぶ。3つ目は「自分の素直な気持ちに従う」。この3つのことが出来たら、どんなこともやっていけるんじゃないかなって。
大木:まさに体現していらっしゃいますね。
ササポン:それが出来る様に頑張っているんです。
――私は今30代後半なのですが、40歳になったらそうやってまた成長出来ると思うと楽しみです。
大木:私も楽しみです。もうササポンと一緒に住んでいないのに、今回の取材で、また彼に新たなことを教わったというか、大切な言葉をいただきました。28歳の誕生日にはササポンから美顔器をいただき、34歳の誕生日(※取材日は大木さんの誕生日)にはこんな素敵な映画とササポンからのお言葉をいただき、ササポンのおかけで数奇で素敵な人生を歩ませていただいています。
ササポン:いえいえ、それは僕もだからね。
――原作、映画、そして今日のお話と、私もたくさんの元気をいただきました。今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!
ササポン顔イラスト/漫画版『つんドル!〜人生に詰んだ元アイドルの事情〜』(作画・飯田ヨネ)
撮影:オサダコウジ
元アイドルの安希子(深川麻衣)は、幸せで充実した人生を歩んでいると自分に言い聞かせながら、仕事もタフにこなしているつもりだったが、ある日の通勤途中、駅で足が突然動かなくなってしまう。メンタルが病んで会社を辞めた安希子は、家賃5万円の風呂なしアパートで、仕事ナシ、男ナシ、残高10万円の現実を前に、「人生詰んだ…」という思いに包まれていた。そんなとき、友人のヒカリ(松浦リョウ)から勧められたのが、都内の一軒家で一人暮らしをする 56 歳のサラリーマン、ササポン(井浦新)との同居生活。意外な提案に安希子は戸惑いながらも、ヒカリの「家賃は、風呂付きで3万円」との言葉に背中を押されて、まさかのおっさんとの奇妙な同居生活をスタートさせ…。
深川麻衣
松浦りょう 柳ゆり菜 猪塚健太 三宅亮輔 森高愛 /河井青葉 柳憂怜
井浦新
原作:大木亜希子「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(祥伝社刊)
主題歌:ねぐせ。「サンデイモーニング」
音楽:Babi
脚本:坪田文
監督:穐山茉由
製作幹事:KDDI 制作プロダクション:ダブ 配給:日活/KDDI
(C)2023 映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会