井浦新、俳優として役を演じきるために必要な“自力”「悩んでいる時間もすごく大きな財産」
●映画『つんドル』で普通の“おじさん”を演じる
元SDN48で作家・大木亜希子の実録私小説を実写化した映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』。俳優・井浦 新が、主人公・安希子(深川麻衣)と同居生活をするサラリーマン・ササポン役で“普通のおっさん”を演じている。
インタビューでは、「決して聖人ではない」というササポンの役作りで意識したことを明かしたほか、これまで様々な作品に出演してきた井浦が、後輩・深川麻衣の姿を見て改めて感じた“俳優として必要な自力”について語ってくれた。
○■安希子は決して詰んでいない「なんて優しい世界なんだろうなと」
――原作は、作者の大木亜希子さんの実体験を元に書かれたノンフィクション小説ですが、実際に原作、そして脚本を読んだときにはどのような感想を持たれましたか?
優しい物語だと思いました。どんなに安希子が絶望の淵に追いやられても、そこに登場してくる人たちが必ず見守っていてくれていて。背中を押す言葉を投げかけてくれるササポンがいたり、電話したら会ってくれる仲間たちがいたり、安希子は人生に詰んだように自分では思っているかもしれないけど、決して詰んではいなくて。いつも安希子のそばには誰かがいてくれて、安希子を思ってくれる人たちはいる。なんて優しい世界なんだろうなという風に感じました。
○■ササポンを演じるおもしろさ「パワーワードをいかに……」
――確かに金銭的な面や仕事の部分だけを見ると詰んだと思うかもしれないですが、人との出会いという部分では安希子はとても恵まれていますよね。井浦さんは、その出会いの1つであるササポンという人物を演じました。
とにかくササポンって、いただいたセリフに無駄がないほど、全部いい言葉なんです。だから、演じるうえでササポンがいればいつもいい言葉が必ず出てくるという風に思われないような人として、この物語の世界の中で生きていたいという思いがありました。
ササポンは、安希子が困ってるときに困っているからその言葉を伝えているというよりも、裏も表もなく感じたことを言ってるだけ。そこには安希子に対しての恋愛感情もないですし、きっとササポンも深く他人に入っていくことは、すごく怖いと思うんです。だから、いかに“程よい距離感を保ってるから投げられる言葉が、たまたま安希子にとってはすごい刺さっただけ”という見え方にしていけるように意識していました。
とはいっても、本当に1シーンに必ずササポンのパワーワードがあるので、それをいかになんでもない、当たり前の言葉にしていくかということが、ササポンを作り上げていくおもしろさだったり、難しさだったりしました。
――確かに同じセリフでも、カッコつけて言われたら刺さらないということはありますよね。
でもササポンは決して聖人ではないと思っているので、お釈迦様のように全てを悟って何でも受け入れてくれるような人ではないと思うんです。もしかしたら、安希子のことを受け入れてないからこそ、客観的にああいう言葉が言えるのかもしれないとか、いろんな可能性を探りました。ササポンだけ想像上の人物にならないように、ちゃんとみんなと同じように呼吸をして、山芋の浅漬けを食べているステテコをはいた普通のおっさんであることは大事にしたいと。
――劇中ではまさにステテコ姿の井浦さんを観ることができますが、“普通のおっさん”を演じることに驚きの声もありました。
まぁ実際、僕はおじさんですから(笑)。なにもせずそのままいればいいかなと、その辺りは全く意識せずにやっていました。結構自分と似ていると思った部分もあって、ササポンは部屋に置かれている調度品とかは何にもこだわってない。棚だったり、クマの木彫りだったり、昭和の名残があるような実家感があるようなものが置いてあって、何もこだわりがないおじさんに見えるんですが、実はコーヒーをいれる時は、ハンドドリップで丁寧にいれていくとか小さな自分のこだわりを持っているんです。そういったところで共通点がありました。
●俳優として必要なのは“自力”
○■後輩・深川麻衣の魅力「常に明るくてカラッとしている」
――今回は、深川麻衣さんと2021年の『おもいで写眞』以来の共演になりました。事務所の後輩でもある深川さんですが、印象の変化はありましたか?
いい意味で印象が変わらないのはすごいと思います。常に明るくてカラッとしているんですが少し話し込んでみると、しっかり悩んでいて。そうやって悩みながら努力をしている姿を見ると、“その調子、その調子”って思って見守っています。そこはササポンと違うところです。俳優は悩んで、ミスをしたり、つまずいたりしてる時間もすごく大きな財産だったりするし、それを自分で乗り越えられたら本当に力になると思います。
『おもいで写眞』のときもそうでしたが、役や作品を背負って苦悩している麻衣さんの姿を見ると、逆にこっちも火が付くんです。特に今回の安希子という役はなかなかに難しい役だったので、役をどう咀嚼しようかと、がんばっている姿はとても素晴らしいと思いました。
○■井浦新が思う“役をやり切る力”
――直接アドバイスを送るのではなく、見守るんですね。それはご自身の経験がもとになっているんでしょうか?
そういう経験もあります。俳優の仕事はもちろん、共演者や監督、スタッフさんがいるから、みんなに助けられて、生かされて役が育つこともたくさんありますが、役をやりきる力というのは、本当に自分の力しかないんです。だから、先輩方からの教えや経験から、自力をつけていくしかない。未だに自分もそれを繰り返してますし、どれだけ経験したからといって慣れることも無くなることもないと思うんです。それは先輩方を見ていてもわかることで、これはずっと続くことなんだと。俳優として仕事をやっていく限りは付き物なので、繰り返しできる持久力・体力をつけないといけないんだと思います。
だから、苦しいときは大いに苦しんだ方がいい。苦しみを乗り越えるときの孤独やつらさ、キツさというのは、そのままネガティブにそこに留まっていることでは何も生まれないですから。
○■“表現”は常に孤独と隣り合わせ
――その苦しみを乗り越えた先に、現場での芝居や表現が生まれてくるんですね。
表現というものはどんな仕事でも孤独だと思います。その孤独の中で準備してきたもの・ことを、撮影の現場で共演者や監督、スタッフさんたちと一緒に出し合うというか……。だから、そこでやっと救われるんです。現場で失敗したり、苦しんだりしているときは1人じゃなくて、みんなで分かち合える。だけど、それを乗り越えていく力は自分1人でしか培えないと思います。
■井浦新
1974年9月15日 東京都生まれ。1998年、映画『ワンダフルライフ』で初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。アパレルブランド〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター。サステナブル・コスメブランド〈Kruhi〉のファウンダー。映画館を応援する「MINI THEATER PARK」の活動もしている。
2024年にはNHK大河ドラマ『光る君へ』、『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(3月15日公開)を控える。映画『人生に詰んだ元アイドルは、 赤の他人のおっさんと住む選択をした』が公開中。
元SDN48で作家・大木亜希子の実録私小説を実写化した映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』。俳優・井浦 新が、主人公・安希子(深川麻衣)と同居生活をするサラリーマン・ササポン役で“普通のおっさん”を演じている。
インタビューでは、「決して聖人ではない」というササポンの役作りで意識したことを明かしたほか、これまで様々な作品に出演してきた井浦が、後輩・深川麻衣の姿を見て改めて感じた“俳優として必要な自力”について語ってくれた。
○■安希子は決して詰んでいない「なんて優しい世界なんだろうなと」
――原作は、作者の大木亜希子さんの実体験を元に書かれたノンフィクション小説ですが、実際に原作、そして脚本を読んだときにはどのような感想を持たれましたか?
優しい物語だと思いました。どんなに安希子が絶望の淵に追いやられても、そこに登場してくる人たちが必ず見守っていてくれていて。背中を押す言葉を投げかけてくれるササポンがいたり、電話したら会ってくれる仲間たちがいたり、安希子は人生に詰んだように自分では思っているかもしれないけど、決して詰んではいなくて。いつも安希子のそばには誰かがいてくれて、安希子を思ってくれる人たちはいる。なんて優しい世界なんだろうなという風に感じました。
○■ササポンを演じるおもしろさ「パワーワードをいかに……」
――確かに金銭的な面や仕事の部分だけを見ると詰んだと思うかもしれないですが、人との出会いという部分では安希子はとても恵まれていますよね。井浦さんは、その出会いの1つであるササポンという人物を演じました。
とにかくササポンって、いただいたセリフに無駄がないほど、全部いい言葉なんです。だから、演じるうえでササポンがいればいつもいい言葉が必ず出てくるという風に思われないような人として、この物語の世界の中で生きていたいという思いがありました。
ササポンは、安希子が困ってるときに困っているからその言葉を伝えているというよりも、裏も表もなく感じたことを言ってるだけ。そこには安希子に対しての恋愛感情もないですし、きっとササポンも深く他人に入っていくことは、すごく怖いと思うんです。だから、いかに“程よい距離感を保ってるから投げられる言葉が、たまたま安希子にとってはすごい刺さっただけ”という見え方にしていけるように意識していました。
とはいっても、本当に1シーンに必ずササポンのパワーワードがあるので、それをいかになんでもない、当たり前の言葉にしていくかということが、ササポンを作り上げていくおもしろさだったり、難しさだったりしました。
――確かに同じセリフでも、カッコつけて言われたら刺さらないということはありますよね。
でもササポンは決して聖人ではないと思っているので、お釈迦様のように全てを悟って何でも受け入れてくれるような人ではないと思うんです。もしかしたら、安希子のことを受け入れてないからこそ、客観的にああいう言葉が言えるのかもしれないとか、いろんな可能性を探りました。ササポンだけ想像上の人物にならないように、ちゃんとみんなと同じように呼吸をして、山芋の浅漬けを食べているステテコをはいた普通のおっさんであることは大事にしたいと。
――劇中ではまさにステテコ姿の井浦さんを観ることができますが、“普通のおっさん”を演じることに驚きの声もありました。
まぁ実際、僕はおじさんですから(笑)。なにもせずそのままいればいいかなと、その辺りは全く意識せずにやっていました。結構自分と似ていると思った部分もあって、ササポンは部屋に置かれている調度品とかは何にもこだわってない。棚だったり、クマの木彫りだったり、昭和の名残があるような実家感があるようなものが置いてあって、何もこだわりがないおじさんに見えるんですが、実はコーヒーをいれる時は、ハンドドリップで丁寧にいれていくとか小さな自分のこだわりを持っているんです。そういったところで共通点がありました。
●俳優として必要なのは“自力”
○■後輩・深川麻衣の魅力「常に明るくてカラッとしている」
――今回は、深川麻衣さんと2021年の『おもいで写眞』以来の共演になりました。事務所の後輩でもある深川さんですが、印象の変化はありましたか?
いい意味で印象が変わらないのはすごいと思います。常に明るくてカラッとしているんですが少し話し込んでみると、しっかり悩んでいて。そうやって悩みながら努力をしている姿を見ると、“その調子、その調子”って思って見守っています。そこはササポンと違うところです。俳優は悩んで、ミスをしたり、つまずいたりしてる時間もすごく大きな財産だったりするし、それを自分で乗り越えられたら本当に力になると思います。
『おもいで写眞』のときもそうでしたが、役や作品を背負って苦悩している麻衣さんの姿を見ると、逆にこっちも火が付くんです。特に今回の安希子という役はなかなかに難しい役だったので、役をどう咀嚼しようかと、がんばっている姿はとても素晴らしいと思いました。
○■井浦新が思う“役をやり切る力”
――直接アドバイスを送るのではなく、見守るんですね。それはご自身の経験がもとになっているんでしょうか?
そういう経験もあります。俳優の仕事はもちろん、共演者や監督、スタッフさんがいるから、みんなに助けられて、生かされて役が育つこともたくさんありますが、役をやりきる力というのは、本当に自分の力しかないんです。だから、先輩方からの教えや経験から、自力をつけていくしかない。未だに自分もそれを繰り返してますし、どれだけ経験したからといって慣れることも無くなることもないと思うんです。それは先輩方を見ていてもわかることで、これはずっと続くことなんだと。俳優として仕事をやっていく限りは付き物なので、繰り返しできる持久力・体力をつけないといけないんだと思います。
だから、苦しいときは大いに苦しんだ方がいい。苦しみを乗り越えるときの孤独やつらさ、キツさというのは、そのままネガティブにそこに留まっていることでは何も生まれないですから。
○■“表現”は常に孤独と隣り合わせ
――その苦しみを乗り越えた先に、現場での芝居や表現が生まれてくるんですね。
表現というものはどんな仕事でも孤独だと思います。その孤独の中で準備してきたもの・ことを、撮影の現場で共演者や監督、スタッフさんたちと一緒に出し合うというか……。だから、そこでやっと救われるんです。現場で失敗したり、苦しんだりしているときは1人じゃなくて、みんなで分かち合える。だけど、それを乗り越えていく力は自分1人でしか培えないと思います。
■井浦新
1974年9月15日 東京都生まれ。1998年、映画『ワンダフルライフ』で初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。アパレルブランド〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター。サステナブル・コスメブランド〈Kruhi〉のファウンダー。映画館を応援する「MINI THEATER PARK」の活動もしている。
2024年にはNHK大河ドラマ『光る君へ』、『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(3月15日公開)を控える。映画『人生に詰んだ元アイドルは、 赤の他人のおっさんと住む選択をした』が公開中。