「ブギウギ」脚本家・足立紳、運動会に行きたくない息子の努力を薄目で見守る9月
「足立 紳 後ろ向きで進む」第42回
結婚21年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々--それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!
『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHKの連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。
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9月1日(金)
今日から2学期。息子、10メートル歩くのに5分かかる牛歩なれど学校に行く。家の前の道を渡るのにもかなりの時間を要してイライラしたが、ここで私が少しでもイライラを見せると動かなくなるのは分かっているので、薄目で息子を見送る。
9月2日(土)
午前中、仕事。午後、評判の高い演劇を見に行く。妻と2人で2万近く払って内容はわけわかめ。
9月3日(日)
午前中、いつもの喫茶店で仕事。午後、娘と息子と『Gメン』(監督:瑠東東一郎)という映画を観に行く約束をしており、待ち合わせの場所に指定していたブックオフで待つも、息子は来なかった。きっと別のブックオフに行っていることは予想がつくのだが、そちらに迎えに行く時間的余裕はない。昨晩何度も確認したが、残念だ。ヤンキー映画好きの息子のために、この作品をチョイスしたのに……。仕方がないので娘と2人で観た。映画は面白かった。娘も大笑いしながら観ていた。
帰宅すると、息子は家でマンガを読んでいた。やはり待合せとは違う店舗のブックオフに居たらしい。「そっちのブックオフで約束した!」と息子は言い張るが、これはもう不毛な会話にしかならないので、今度から待ち合わせはお互いの手に書こうと話した。
その後、娘と息子の夕飯を作り、高田馬場へ。脚本家の松本稔さん作・演出の朗読劇を見に行く。『うだつの上がらない男、母校へ帰る』。売れない脚本家が母校の高校に呼ばれて講演会をするという苦みたっぷりの喜劇。本井博之さんが最高。笑わせていただき、打ち上げにも参加して楽しく飲んだ。
9月4日(月)
朝から雨。今日は近所のスーパー銭湯で仕事をしようと思い立ち、妻を誘う。どうせ断られるだろうなと思ったが「行ってやるよ」とのことなので、一緒に行き、混浴サウナで愚痴りたおす。
「だから一緒に来たくなかったんだよ。どうせお前の愚痴オンステージだから」と言われるも、雨がしとしと降る中の露天風呂は最高に気持ち良く、妻の私へのダメ出しもいつもにも増して軽やかだ。
妻は仮眠室に行くと秒で寝てしまったので、私は仕事をしていいスペースで仕事をしたのだが、下に見える円形の温水プールで仲良さげにウォーキングしているカップルをぼんやりと眺めていた。羨ましいと思いながら。
16時、妻が「あー、寝た! 帰ろう!」とすっきりした表情でやってきて帰宅し、私はそのまま宇賀那健一監督とのトークイベントへ。『Love Will Tear Us Apart』は私の大好きな80年代B級ホラー臭プンプンの作品で大変面白かった。
9月6日(水)
早朝に起きてしまったので、そのまま娘の弁当を作り自宅で仕事。4月に妻と娘がケンカしてからずっと作っているが、良い気分転換になる。10時からオンライン打合せ。午後、息子を療育に送迎。
9月7日(木)
朝から息子の脳調が良くない。9月30日にある運動会への不安が高まっており、「出たくない」「転校したい」のエンドレスリピートをどうにか聞こえない振りする。
今日から学園祭の始まる娘のほうは朝からテンションが高い。今日は合唱コンクールのみなのだが、出がけに「来てもいいから」と生意気な言い方をして出かけていった。このセリフは「来てよね」という意味だ。私も妻も、明日からの本祭は行くつもりだったが合唱コンクールに行くつもりは毛頭なく予定を入れていたのだが、こういうときは行かないと露骨にいじけるので身支度をして慌てて所沢のホールへ。コロナ禍で3年振りの合唱コンクール(観客あり)とのこと。
パイプオルガンや女神たちの像が沢山ある、大変ご立派なホールで高校生たちが一生懸命歌う姿を見て、軽く目頭が熱くなる。予定があったので1学年しか見れなかったが、3学年全クラス見てみたかったと思った。
※妻より
↑夫のこれ、本気なんです。運動会も開会式から閉会式まで本気で見たいらしい。なんなら、自分の子どもが出ていない地域の運動会もずっと見ていられる人間です。私は子どものクラスだけで十分です。
9月9日(土)
本日は息子の小学校の学校公開。実は昨年から学校公開には行けていない。息子が頑なに「見に来ないで!」と言うのだ。理由は分からない。教室の後ろに息子用の席ができているとか、廊下で過ごしている時間が長いとかそういった姿を見せたくないのかもしれない。
だが、やはり学校の姿は気になる。もうゴリ押しで「パパとママは行くからな」と有無を言わせず見に行った。学校公開は習字の時間だったが、廊下で寝そべったり、教室の一番後ろで漫画を読む、みたいな行為はしていなかった。しててもいいのだが、そこがうまく伝わらないし、息子からすればそういう姿を見られたくないといういうことなのだろう。
「午後からねーちゃんの学園祭に行くから、パパとママは家にいないぞ」と言ったら、珍しく息子が「僕も行きたい」と言った。行ったことのない場所に自分から行きたいと言うのは大変珍しいこと。息子の成長を感じたような気がして嬉しくなる(『斉木楠雄のΨ難』や『うる星やつら』の映画で文化祭の話を観てから興味を持ったのかもしれないが)。
「姉の文化祭に連れて行きたいので早退してもいいですか?」と担任の先生に話したところ、笑顔で快諾。「そういう経験ってすごく良いと思います!」とのこと。今年の担任の先生もかなり息子に寄り添ってくれるお人柄で大変助かっている(親も子も)。
妻と息子と学祭に行くと、当たり前だが学校は非常に盛り上がっており、こういう雰囲気のところに来ると私と息子はすぐにはしゃぎモードになってしまうので、妻が急激に不機嫌になる。とにかく「夫のはしゃぐ姿」というものが一番イラっとするらしい。
※妻より
ただでさえ声がデカいのに、はしゃぐといつもの何倍もデカくて甲高い声で早口でまくしたてるから、すっごく頭が痛くなるのです。
さっそく娘のクラスのカジノに行き、ブラックジャックでバカ勝ちして息子から「とうちゃん、すごい!」と久しぶりに尊敬を勝ち取る。娘は「来ても話しかけるな」と言っていたので、様子を見たらこちらに顔を向けずに中指を立てていた。機嫌がいい証拠だ。なので娘がディーラーをしているポーカーの場にいて、さすがに「父です!」とは言わなかったが何ゲームかした。ただ、息子が「ねーちゃんだよ、ねーちゃんだよ」と言っていたのでバレバレだろう。
その後息子はお化け屋敷から、47都道府県クイズから、人力メリーゴーランドから、全校で逃走中の犯人捜しまで、遊び倒した。
夕方まで文化祭をフルで満喫し、駅で軽く焼き鳥を食べ、息子を本日お泊りする友達の家に送る。小学校は皆と同じことを同じペースでやらなければならないことが多いけど、中学・高校はどんどん自由になるからね、自由でいいっていう学校に行こうね、などと話すも、「俺は高校には行きたくない」とのこと。
息子を送り届け、我々はそのまま、友人の三遊亭遊喜師匠がトリを務めている新宿末広亭へ。ボンボンブラザーズさんお馴染みの帽子を投げて頭でキャッチするやつに指名されて(寄席のこのような客参加型に指名されるのは初めて)桟敷席から帽子を投げまくったが、何度もやってもうまくできなかった。遊喜師匠の「紺谷高尾」を久しぶりに堪能し、打ち上げにも参加させていただいて深夜に帰宅。楽しかったが疲れた1日だった。
9月10日(日)
本日は門前仲町のシアターで『雑魚どもよ、大志を抱け!』を上映していただいており、舞台挨拶のために脚本の松本稔さんと向かう。
こちらの劇場は普段は撮影スタジオとして使われているのだが、オーナーさんの計らいで8月から週末だけ映画も上映している。音声ガイドも字幕もあり、車いすも盲導犬もOKのユニバーサルな上映会。小さいお子さんもいらしていてとても嬉しかった。
9月11日(月)
息子、運動会への不安が日々募り、朝は毎日脳調悪し。足が痛い、首が痛いと言い出し、包帯でグルグル巻きにして学校へ行く。運動会に参加しなくてもいいように、奴なりに考えているのだろう。
廊下で過ごすも、後ろの席で過ごすもオッケーということで毎日学校へは行くようになり、それだけでも妻も私も満足はなずなのに、年1回の運動会くらい出てほしいと思ってしまう。種目も2つしかないし(かけっこと旗振り踊り)午前中で終わるのだ。出てほしいと思うのは、毎年息子は運動会前にこう不安定になるのだが、何とか参加して終わってみれば「たいしたことなかった!」と晴れがましい表情(乗り越えたことで自己肯定感も高まっている気がする)で帰って来るから、その小さな成功体験を積んでほしいと思うのだ。行かなかったら「僕、行けなかった……」みたいに落ち込み、自己嫌悪になる気もする…。だから行ってほしい。これが普通に学校に行けていて、運動会だけはどうしてもだったら迷わず休ませるのだが……。難しい。
どうにか息子を送り出し、12時から山口県のラジオにリモート出演。山口で公開中の『雑魚どもよ、大志を抱け!』について周南映画祭実行委員長の大橋さんが愛を持って紹介してくださり、その後に大橋さんとたくさんしゃべった。山口での公開は大橋さんが尽力してくださり、感謝しかない。
夜8月末の小学校の花火イベントで持ち帰った手持ち花火6本を自宅の狭いベランダで行う。息子が急にやりたいと言い出したのだ。PTAも頑張ったのか、そこらへんのスーパーで売っている花火とは異なり、持続時間が長く、炎の力も強かった。息子も娘も言葉は少なめだが、楽しそうだった。
9月14日(木)
朝、9時10分の『福田村事件』(監督:森達也)を妻と観に行く。妻と私の感想が噛み合わず、口論に。妻に「アンタの言っていることが分からないし、なんかずっとずれてる」と言われてカチンカチンきて、大声で論破しようと努力する。「それってあなたの感想ですよね」などとヒロユキふうに言ってしまい一触即発。
今作られるべき映画だし、今の日本をも描いていると思うし見入ったが、それでもこれは本当に加害者を描いた映画なのだろうか? という疑問が少し残った。テアトル新宿からランチのために都庁前のシズラーへと歩いている最中、また店内での順番待ちの30分間ずーっと『福田村事件』のことで妻と口論になってしまったのだが、それだけいろいろと話すことがある映画だということだ。
夜、娘のまだ成就もしていない、告白すらもしていない恋バナを聞く。いや聞かされる。もういいかげん告白せーや!という感想しかない。そう言うと秒速の「ダルッ!」「キモッ!」が返ってくる。だがこうして話してくれることに感謝しなければならないだろう。
9月15日(金)
13時から教育支援センターで親だけのカウンセリング(息子はここで月に1回プレイセラピーをしていたが、担当者が異動になったため今回は行けなった)。夏休み、そして2学期の様子などを話す。
音楽や外国語の授業が苦手で廊下に出ていること、算数や漢字のテストが苦手でテストを受けずに教室の後ろの特別席で本を読んでいること、夏休みは大いに成長を感じたが、2学期が始まると疲れ始め、ずっと運動会に出ないと宣言してはひとりふさいでいる様子などを話す。
担当の方は息子の感覚過敏を気にしてくれ、「例えばなんですけど……ミカンの皮がむかれた状態で常にさらされているようなことだと思うんです、息子さんの感覚って。いろんな刺激を繊細な柔らかな肌で直にモロに受けている……つまり、常に大勢がいて、皆で同じことをしなければいけない圧力があって、そして机や椅子を引く音や、走り回る音、先生や児童の声など大きな音が常にある学校という場所が彼にとってとても感覚的に疲れてしまう場所なんでしょうね、投薬も彼を楽にする手段の一つではあると思うんです……」と言われる。
投薬に関しては、「風邪をひいたときなど薬を潰したり、アイス・ゼリーその他、諸々、ご飯と肉に混ぜ込むなど、様々な努力をしてきたが息子は薬は一切飲まない、動物的な感覚で的確に吐き出してしまう」と伝える。そこも含め感覚過敏なんだろうとのこと。投薬も難しそうだ。
50分間、ノンストップで我々の心配、不安を伝え、次回の予約を取ってそのままハゲ病院に向かう。先生は私の頭をチェックしながら「まだまだ!」とのこと。こちらとしては確かな手ごたえを感じているのだが……。
9月17日(土)
本日は息子に合いそうな中学の見学に行く予定だったのだが、息子は「今週は疲れた。1日家でのんびりしたい」との事で息子を置いて、猛暑の中、気合いを入れて家を出る。娘はこの暑さのなか部活へ。
妻と私とで中学へ行く道中、昨日の落雷の影響なのか、途中の駅で電車が止まってしまい、仕方がないのでタクシーで向かう。妻は待っていたら動くんじゃない? といったが、たとえ説明会であろうとも時間に遅れたくない私はタクシーを選んだ。
しかし……息子に合うかもと思った中学だったが、今は人気が出て、ある程度の成績がないと入るのは難しいとのこと。以前はフリーダム過ぎるような子たちが大勢いたとのことだったのだが……。息子が来なくて良かった。来ていたら間違いなく傷ついていただろう。
説明会後、福岡在住の芸術家・中川泰典さんが個展をしている下北沢のBARにいく。中川さんは、私が芝居をしていたときにチラシのデザインをしてくださっていたのだ。3年振りにお会いするが全然変わっていなかった。個展会場のBARはとても居心地がよく、身体に良さそうなドラゴンフルーツやなんやかんやのソフトドリンクをいただいた。妻は度数の高い白酒に高麗人参が漬け込まれたものを飲んでいた。効くらしい。BAR店内は常に良い匂いがする。そうだった、このBARは食事が美味しかったのだ…。他の客がカレーやパスタや何かを注文している。今度は空腹で来ようと決めた。来る前に下北沢の街中華で妻と飲んで食ってしまったのだ。
9月17日(日)
飛行機で米子に向かう。明日、米子で『雑魚どもよ、大志を抱け!』の上映会あるのだ。地元の鳥取県では初めての上映だ。夜、高校時代の友人たちと飲んでバカ話。夏に会ったばかりだから、こんなに短期間の間に再会するというのがこれまたなぜかいい。
9月18日(月)
米子で『雑魚どもよ、大志を抱け!』の上映会。大勢の人が来てくださってありがたかった。質疑応答では質問もたくさんいただき楽しい上映会だった。夜は、上映会を企画してくださった米子シネマクラブの皆さんたちとお魚の美味しいお店でたくさん飲んで話して、とても楽しい時間をすごさせていただき、この日は米子に宿泊。
9月19日(火)
運動会に行きたくない息子が朝からグズグズで布団から出てこない。運動会にどうしても行きたくないという息子に、私は「そんなにイヤなら行かなくてもいいよ」の一言が言えない。
運動会の練習が始まってから2週間ほどたつが、息子は身体中に包帯を巻いて学校に通っている。奴なりに必死に仮病をつかっているのだ。もちろん親の私や妻の前でも身体が痛いから包帯を巻いてくれと言ってくる。
運動会を休むと、やはり悪目立ちしてしまう。「なんであいつ来ないんだよ」とか「なんであいつ、練習に参加しないんだよ」と思われてしまう。これは同調圧力に屈していることになるのだろうか? そんなふうに思われると、ただでさえ息苦しい学校生活が、さらに息苦しくなってしまうから、半日だけ(運動会は午前中で終わる)我慢してこいという思いと、我慢するというのは基本的に間違ったことだとは思いつつも、この世には我慢しなければならないことが山ほどある。その練習をしてくれという思いもある。そして、息子は保育園のころからずっと運動会は苦手ではあるが、今まで何とか参加して来ているのだ。そして運動会から帰って来ると「なんだかたいしたことなかった!ボク、頑張ってでしょ!」と少しだけ晴れやかな顔をしている。その「意外と大したことなかった」という経験を積んでほしいという思いもある。
近ごろの息子は塾にとても前向きな気持ちで通っている。公立中学はおそらく肌に合わないから私立の、息子のようなタイプに向いている中学を探して見学に行きまくっているが、偏差値がどんなに低かろうが入学試験はある。息子なりに、何とかそれを突破しなければと一生懸命、前向きに努力しているのだろう。不登校だったころと比べると、格段の成長と言っていいのか分からないが、一緒に過ごしていてこちらの苦しさは減った。不登校のころは、こちらも弱って「とにかく元気でいてさえくれればいい」と思っていたのに、運動会一つ休ませることができない。どこまで人間は、いや私は欲深くできているのだろうか。
9月20日(水)
息子が受けたウィスク検査のフィードバックを聞くために8時に家を出る。息子は足にうまく包帯が巻けないようで癇癪気味だが、私と妻は薄目で観ぬ振りして「学校、行けたら行きなよ」とだけ言って出る。病院で心理士さんから数値の説明を受けながら、息子の困りごとを具体的に聞く。前回受けたのは2年生のときだから3年振りのテストだったのだが、今回数値がかなり下がっていて、数値に一喜一憂はできないと知りつつ妻ともども軽くショックを受けていた。
息子はゲームの「バイオハザード」のことになると多弁が止まらないのだが、その他のことはあまり話さない。学校のことを聞いても話さないから、話したくないのだろうと思っていたのだが、心理士さんのお話を聞いて少し合点がいった。
話したくないのではなく、頭の中がグチャグチャになっていて、基本的に自分がいたくない場所での記憶は曖昧なものになっているのではということだ。そうか、だったら話せるはずがないと思った。毎夏行かせているキャンプも何も話さないから、イヤなことがあって話したくないと思っていたのだが、グチャグチャになっていて話せないというのはすごく腑に落ちた。そして年齢が上がるにつれ、周囲の精神年齢と合わないことも増えて来て、疎外感も感じやすくなっているのではとのこと。無理に話を聞くのはよそうと思った。
この後に病院近くの発達支援センターの面談も取っていたので、近くでビールを飲みながらランチ寿司を食べ、真っ赤な顔して発達支援センターへ。寿司の味は一切分からなかった。ここでも具体的な助言を頂けるのだが、病院の心理士さんの言葉とは正反対のところもある。どちらに傾くかはそのときの我々の精神状況で変わるが、今日は圧倒的に支援センターの方の言葉に励まされた。
帰宅すると、息子はなんと学校へ行っていた。以前なら絶対にこういうときは行っていない。そこに成長を感じて目頭が熱くなる。息子の帰宅後、療育へ送迎。今日は初めての2コマ。3Ⅾプリンタでいろんなものを作っているのが楽しいようで、2コマでもやれるとのこと。
いつもなら90分なので公園や喫茶店で仕事をして待つのだが、今日は180分あるので近くの気になっていたサウナに行ってみた。すごい良かった。
息子を迎えに行くと、今日は臨時で来ていた担当の先生がかなり息子にフィットしていたようで、運動会がいかにイヤかの話などもたくさん聞いてもらったあげく、行けばと言われたわけではないのに「わかった、俺、行くよ!」となっていた。やはり親の声掛けではこうはならなかったと思う。第三者の理解、声掛けに本当に助けられる(何度も言うが、親も子も)。
帰宅後、妻にサウナに行ったことがバレて妻激怒。妻は私の財布を勝手に開けて領収書をとるのだが、当然サウナの代金はレシートももらわず証拠隠滅をはかっていた。だがマッサージの次回割引券でバレてしまったのだ。
※妻より
少しでも経費になりそうなレシートはせっせと集めて帳簿に付けているのですが、サウナやマッサージや外食系はことごとく証拠隠滅するので質が悪いです。サウナは毎日、マッサージは週1〜2、確実に行ってます。言動でバレバレなのに本人はバレていないと思っています。子供の送迎にすら必ず自分のご褒美ぶち込んで隠せた気になって悦に浸っているこざかしい夫に幻滅が止まりません。私が送迎の度にそれやっていたら、キリがないと思います。
9月21日(木)
朝、息子は「運動会の練習に出てみる」と言いながらも、包帯は巻いて登校した。私はいつもの喫茶店で仕事の後、15時45分から『エドワード・ヤンの恋愛時代』を妻と観に行く。登場人物も多く、情報量も多く、ついでに私の頭の中でも仕事のことでいろいろ考えてしまい、気づいたら映画からおいていかれていた。最近の情報量の多い映画では100%こうなる。『恋愛時代』は最近の映画ではないけれど。
映画館を出ると、妻の携帯に息子の担任の先生から電話。修学旅行班決めにて軽いトラブルがあったとのこと。息子の様子を気にして下さっていたのだが、まだ息子に会っていない。帰宅すると、格闘技教室から戻っていた息子はふだんと変わらぬ様子でゲームをしていた。
先日、ウィスクの結果を聞きに行った心理士さんに言われた「話したくないのではなく、頭の中がグチャグチャになっていて、自分がいたくない場所での記憶は曖昧なものになっているのでは」という言葉もあったので、深くは聞かない。
自分の気持ちを表す言葉を見つけて、それを伝えられたら少しは楽になるのだが、それが難しい息子は、一見普通に見えてもダメージを溜め込んで、ときに動けなくなってしまうのだ。
もう少しちゃんと子どもの表情・行動を観察しようと千回目くらの誓いを立てたが千一回目をどうせすぐに立てるだろう。これから成長してプライドも出てくるだろうから、なかなか弱音は吐きづらくなるとは思うが、ひとりで貯めこまないでほしいと思う。
9月22日(金)
夕方、数日前から肋骨付近を痛がっていた娘が「絶対肋骨にひびが入っている。間違いない。声を出しただけでも痛い」と言うので、私が通っていた整形外科に雨の中、連れて行く。高校生なのだからひとりで行ってほしいが……。しかも異常はなにもなし。「レントゲンがちゃんと撮れてなかったんじゃないか、あの先生絶対やぶ医者だ」とヘラヘラと言う娘は私とそっくりだ。
9月23日(土)
朝から息子に合うか合わないか分からない中学の学校説明会へ妻と。小規模のこじんまりとした学校で、先生方の感じは穏やかでとてもよかった。自由な学校、というよりはキリスト教の精神で「一人ひとり、すべてを受け入れる」というような温かい雰囲気だった。次回は息子も連れて来ようと思う。
帰りに練馬の昼から飲める店で生ガキと焼豚をあてにホッピーを1杯飲み、息子と待ち合わせしている図書館へ。娘の代から10年以上乗っている息子の自転車を買い替えに行くのだ。さすがに身長も140cmになったので、ちょっと大きめを買おうという話になり、妻と息子と自転車屋さんへ。
物欲が激しく、ほしいものがあるとアドレナリンが出まくる息子は自転車屋さんで狂喜乱舞。競技用のロードバイクをほしがるも、値段は高いし車輪もデカいので、もう少し身長が高くなってからと諦めさせる。
私と妻も、息子の自転車選びなのに趣味があわず、息子そっちのけでケンカになる。妻は少しでも長い期間乗れるように大きめの自転車を選ぶが(※足が着く車輪の大きさです、念のため。by.妻)、私は小学生のバカ男子の自転車がいかに危険か身を持って知っているので(周囲を見ないし信号無視当たり前)、余裕で足の届く自転車を選ぶ。でも、結局息子が選んで(当たり前だが)上機嫌で新車に乗って帰宅。
9月24日(日)
娘が開園前からTDLに行くのだ!と6時に家を出たため、起きてしまったので朝から仕事。息子と妻は午前中から保育園時代の友達&母親たちと公園ピクニックするとのことなので、私も家を出ていつもの喫茶店で仕事。
午後、山口県の劇場と中継してリモート舞台挨拶。またも周南映画祭実行委員長の大橋さんのお世話になる。30分ほどではあったが、楽しい話ができたような気はする。
21時から今井雅子さんのClubhouseに呼んでいただいて、10月から始まるドラマ「ブギウギ」と25日に発売される小説『春よ来い、マジで来い』のお話をする予定だったのだが、ドラマや本の宣伝よりも、ずっとAGA治療の話をしてしまった。でも、それが思いのほかウケていたようなので良かった。
『春よ来い、マジで来い』もお願い致します。才能もなく夢を見るのもあきらめ気味な4人の30歳間際の男子共同生活のお話です。
春よ来い、マジで来い
9月26日(火)
10時30分から『帰れない山』(監督:フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ)を池袋文芸座で妻と観る。私は少年部分をもっと観たかったが、妻はあの塩梅でいいとのこと。大人の映画なのだからと。
昼、「楊」で汁なし担々麺と餃子と炒飯定食と羊肉のラーメンを食らう。2人でランチ3人前を食い散らかしながら、妻に「もっとプレゼン能力というのか、シナリオの面白さを説明する能力をつけるべき」と言われる。確かに私は自分の書いている脚本のここが面白いポイントですよと説明するのがすごく苦手だ。というか面白ポイントなどないと思っている。シナリオで書いたことが全てなんだ、それ以上でも以下でもない、だいたいポイントってなんだよ、と。
でも、それじゃダメなことは今までこの業界にいてよく分かっている。面白いシナリオが書けなくても、その前の能力で仕事の途切れていない人が大勢いるとありたっけの負け惜しみを込めて言わせていただく。
夜、帰宅した娘が珍しく恋愛話以外の話をしてくる。主には人間関係のことだ。極度に図太いところもあれば極度に繊細なところもある娘も、息子に負けず劣らず日常生活でかなりサバイバルしている。娘と息子を見ていると、私と妻は、今の日本に敷かれた価値観の中ではずいぶんと生きやすい人間なのだなと感じる。まあでも、娘が溜め込むタイプでなく話してくれるタイプで良かった。これは育て方でどうにかなるものではないと思う。そういう人間として生まれて来るかどうかがかなり大きい気がしている。もちろん人間は人との出会いによって人格が作られていく部分もあろうが、今の私は正直、ほぼほぼ生まれ持ったもので決まってしまうのではないかと感じている。ただ、そう感じているとドラマというものが必要ないようにも感じてしまう。そう感じた上でのキレイごとでないものを作ればいいのだが……。
9月28日(木)
夕方、犬飼直紀君の出演する舞台『ヒトラーを画家にする話』を観に行く。現代の日本の大学生がヒトラーがまだおかしくなる前の、絵を描くことが好きな青年だったころにタイムスリップする話で、犬飼君はヒトラー役だ。等身大だけで押し切るわけにはいかない難しい役どころを好演していた。いろいろと考えたに違いなく、その考えたことがちょっぴり溢れているところに私は好感を抱いた。私の初監督作品の『14の夜』のとき、15歳だった彼はそのころからよく考えるタイプで、私はそんなところを尊敬している。またいつか一緒に仕事がしたいが、そのためには私も彼と同じくらいかそれ以上に頑張らなければならない。
9月29日(金)
いよいよ明日が運動会で、息子の脳調が悪い。先日、療育のお兄さんと話してから運動会練習にも参加するようになり調子が良かったのだが、昨日のリハーサルの徒競走で、女子に負けたのが苦しかったようだ……。
夜、「行きたくなさすぎる」と涙をためながら、寝入る。半分聞こえない振りをしながら、「ご褒美にブギーマンのマスクを買ったでしょ」と話すも「まだ、届いてない」と言う息子。そりゃそうだ。ご褒美は運動会後に届くようにしてあるのだから。うーむ……どうなるか……。
9月30日(土)
息子、朝起きたらなぜか脳調バッチリになっており「しょーがねーなー、運動会行ってやるよ! でも、絶対に僕が見えるところにいないでよ!」と言って出て行った。もっとグダグダするだろうと思っていたからこの切り替えぶりにすら思わず涙しそうになる。
今年の運動会は数年ぶりに6学年でやるが(コロナの影響で去年までは3分割していた)、リレーもなく、徒競走とダンスだけの、かなり淡泊なプログラム構成であり、お弁当もいらず、午前中に終わるので朝もそんなにバタバタしなかった。しかし一日中やっていたのが当たり前の世の中で育った私には少しだけこの運動会は寂しい。
今年から運動会ではピストルも鳴らない。聴覚過敏の子もいるし(息子もそうだ)大きな音が苦手な子への配慮で、旗を振る静かなスタートとなっている。素晴らしい配慮と思うと同時に、このような配慮ってどこまで行き届いていくことができるのだろうかとも思う。苦手なものは人それぞれだ。我々世代は配慮のない世の中でゴロゴロの石の上を転がりながら、逃げる術や立ち向かう術を覚えてきた。配慮はすべてに行き届く訳ではないから、配慮のないところに出てしまったときに大きく傷つくことがなければいいがと余計なことまで思ってしまうのも事実だ。おそらくすべての人類に、それぞれの個性にあった配慮が届くまでにはあと100年以上はかかるだろう。いや、もしかしたら今の世の中のスピードでいけばもっと早いかもしれないが、永遠にそんな配慮はなされない可能性もある。分からない。
息子は走りながらズボンがずり落ちてきてしまい「おい、待てよ! ○○待てよ!」と前を走る友達の名前を叫び続けながら走っていた。そういうのも、息子なりに身に付けた傷つかない術なのかもしれない。息子が「地獄の時間」と言っていたダンスも、なんとか踊った。苦しかったろうがよくやった。
夜、ずっと行きたがっていた、池袋のサンシャイン水族館の「TERROR Night Aquarium」に息子を行く。娘も来たがったが、部活のため、泣く泣く断念。
館内入るなりおどろおどろしいBGMの中、赤や青の光でのホラー展示に息子だけでなく私も妻も興奮。エイリアンみたいなワラスボや、大タコ、ピラニア、マンボウ、マンタ、鮫にくぎ付け。ペンギンやアシカなど屋外エリアが観れなかったので、今度はお姉ちゃんも一緒に昼の水族館に来ようと話した。
運動会が終わって、息子だけでなく我々親もほっと一安心。明日からまた仕事にまい進しようと思う。
【妻の1枚】
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【プロフィール】
足立 紳(あだち・しん)
1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。現在、最新作『雑魚どもよ、大志を抱け!』は2023年3月24日に公開。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社・刊)。