世界選手権銅メダルの内野艶和 パリ五輪出場争いとガールズケイリンの両立も「一番を目指すことに変わりはありません」
数々の国際大会で好成績を残す内野
矜持と情熱
〜ミラクルボディを持つガールズたちの深層〜
内野艶和 インタビュー
自転車競技、女子中長距離の新鋭、内野艶和が2023年8月にイギリス・グラスゴーで行なわれた「2023UCI自転車競技世界選手権トラック」の女子ポイントレースで銅メダルを獲得。日本勢でこの種目でのメダル獲得は8年ぶりで、ガールズケイリン選手としては初となる快挙を果たした。
UCI(国際自転車競技連合)主催大会での女子ポイントレースは、20〜30人の選手が、トラック100周、距離25kmで競い合う。10周ごとにポイント周回が設けられ、1着5ポイント、2着3ポイント、3着2ポイント、4着が1ポイントを獲得し、フィニッシュ地点ではそれらのポイントが倍となる。その合計ポイント数で競われる種目だ。レース中、集団から抜け出し、1周追い抜くと特別に20ポイントを獲得でき、逆に抜かれると20ポイントを失うなど、大きく戦局が変わる要素もあり、非常にスリリングで海外での人気は高い。
今回の世界選手権 で、暫定8位から最終ポイント周回を1着で通過して3位に入った内野は、 レースを振り返りつつ、競技の魅力にも言及した。
「今回が2度目の世界選手権でした。初めてだった昨年の大会は緊張と不安で思うように走れなかったため、今回はとにかく落ち着こうと考えて臨んだのですが、それがうまくできたと思います。中長距離種目の魅力は長い時間のレースでどんどん展開が変わるなか、一発逆転もあるところです。駆け引き、戦略なども大きく結果に影響する点も面白いと思うので、もっと人気が出てほしいですね」
自転車競技の中長距離は他にもこのポイントレースを2人で行なう「マディソン」、定められた距離をシンプルに競う「スクラッチ」。2名の選手がホーム側、バック側より同時にスタートし、反対側からスタートした相手を追い抜くか、早くフィニッシュまで走りきった者が勝者となる「インディビデュアルパシュート」。2周ごとに最後尾の選手が除外されていき、勝ち残った選手が勝利を手にする「エリミネーション」、そして複数の種目の合計得点で競う「オムニアム」など様々な種目がある。
内野はその日本の次代を担う存在として、今、着実に世界の階段を登っている。
笑顔がトレードマークの内野 変顔も得意とか
内野が自転車競技を始めたのは高校から。その能力はある特別なプロジェクトにより見出された。
「福岡県スポーツ協会などが実施していた『福岡県タレント発掘事業』というものに、中学1年生から入っていました。これは様々なスポーツに触れながら、自分に合った競技を見つけられる活動なのですが、そのプログラムのなかで日本の自転車競技の中心である伊豆ベロドローム(静岡県伊豆市)のバンクを走らせてもらう機会があったんです。ペダルを踏んだら踏んだだけスピードが出るのが楽しくて、そこに魅力を感じました。
もともと中学校では部活動でバスケットボールをやっていたのですが、個人競技も面白いなって思いましたし、最終的に自転車競技の適性があることもわかりました。他にヨットやボクシングなども向いていると教えていただいたのですが、自転車をやることに迷いはなかったです」
高校入学後に本格的に自転車競技を始めると、全国高校選抜大会では6kmスクラッチと個人ロードレースで2連覇、2kmインディビデュアルパシュートでも大会新で優勝するなど、その才能は一気に花開いた。
そして高校2年でジュニアのナショナルチーム入りを果たし、高校3年で出場したジュニア世界選手権ポイントレースでは優勝をつかんだ。世界で戦える逸材であることを示したのである。
「世界のいろいろなところでレースをするのは楽しいですよ。日本と違う文化が経験できますし、練習やレース以外ではチームメイトとでかけたりもします。今年の世界選手権も事前合宿をフランスのルーベで行ない、世界選手権後にスイスでロードのステージレースを走ったので、1ヶ月半も遠征していました。これまでになく長かったけれど、終わってみればあっという間でしたし、中身が濃い時間でした」
環境の変化も楽しめるその性格は間違いなく、国際大会向きだ。競技の話をする時は笑顔を絶やさず、表情も豊かで、心から自転車を楽しんでいる様子がうかがえる。
常に明朗快活に話す内野
高校卒業にあたり、日本競輪選手養成所に入所し、プロの競輪選手を志した。内野の地元にある久留米競輪場は東京五輪代表の小林優香、ガールズケイリンで3度のガールズグランプリ制覇を経験した児玉碧衣など、多くの有力選手を輩出している。その背中を追うのは必然の流れだった。
「子どもの頃からスポーツが好きで仕事にできればと思っていました。大学に進む道もありましたが、4年たってもガールズケイリンの選手になることに変わりはないなと思い、養成所に入ることを決めたんです」
2021年にデビュー後はすぐに初勝利、初優勝をつかむ。だがプロ入り後も軸足はナショナルチームにおき、伊豆ベロドロームを拠点にトレーニングを積んでいる。ガールズケイリンの出走は月1回程度と少なく、加えて自転車競技で中長距離を主戦場とする内野にとって、短距離のスプリント力が求められる競輪はある意味、専門外で両立は決して簡単ではない。
「ガールズケイリンで戦っている選手の皆さんは大きなレースに目標を定め、トレーニングを積んでいます。ですので、私がその舞台で互角に戦うのは簡単ではありません。実際、ガールズケイリンに行くたびに、もっと専門の練習をしたいと思います。ただどっちつかずになってもいけないので、今は自転車競技に集中し、ガールズケイリンに呼ばれたときに気持ちを切り替え、スイッチを入れるようにしているんです。短距離なので『出遅れられないぞ、ガァーって入るぞ』って(笑)。でもどちらも一番を目指すことには変わりありませんので、大きな違いはないですよ」
自転車競技とガールズケイリンの両立という難しい挑戦も、ポジティブな性格で乗り越えているようだ。
パリ五輪に向けて視界良好の内野
今の目標はパリ五輪、日本はチームパシュートでの出場権獲得だ。この種目は1チーム4人で4kmを走り、3人目のタイムで争われる。インディビデュアルパシュートと同じく、2チームがトラックの反対側からスタートし、先にフィニッシュするか、相手を追い越すと勝負が決まる。この種目のパリ五輪出場権が与えられるのは10カ国。各大陸選手権や、2023年、24年の各シーズンにおけるUCIトラックネーションズカップ、23年UCIトラック世界選手権の成績をもとにしたオリンピックランキングで出場国が決まる。
「チームパシュートで出場権をつかめれば、その国にはオムニアムやマディソンの出場権も与えられます。今回の世界選手権で、私はポイントレースでメダルが獲れましたが、各国の本命選手はオムニアムに集まっていて、私が敵わない選手ばかりです。そうした選手相手に戦えるようにパリ五輪に向け、チームでも個人でも結果を出し続け、自信をつけていきたいと思います」
自転車競技に取り組みナショナルチームで戦う理由は、楽しいから。勝つことで得られる楽しさはもちろん、ともに戦うナショナルチームのメンバーと大きな目標を目指すことも楽しいと話す。そのパリ五輪出場権獲得に向けた戦いはここから本格化する。内野はどんな形で夢舞台への切符を掴むのか、その歩みに注目だ。
【Profile】
内野艶和(うちの・つやか)
2002年1月13日生まれ、福岡県出身。高校から本格的に自転車競技を始め、高校2年で全国総体女子2000メートル個人追い抜きを制し、3年生時に世界ジュニア選手権の女子ポイントレースで優勝する。高校卒業後に日本競輪選手養成所に入り、成績3位で卒業。2021年5月に競輪デビューを果たす。同時期にナショナルチームのトラックレース中長距離の強化指定選手にも選ばれ、2023年8月の2023UCI自転車競技世界選手権トラックのポイントレースで銅メダルに輝く。同年9月末に開催されたアジア競技大会 女子チームパシュートで金メダルを獲得した。