ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――秋のGIシリーズがいよいよ幕を開けます。オープニングを飾るのは電撃の6ハロン戦、GIスプリンターズS(10月1日/中山・芝1200m)です。まずは、今年の出走メンバーをご覧になって、どんな印象をお持ちですか。

大西直宏(以下、大西)近年のスプリント路線は、確固たる主役が不在。かつてのロードカナロアやグランアレグリアといった絶対的な強さを誇る大物もいないため、やや小粒な印象なのは否めません。短距離GIは昨年から6歳、7歳馬が勝っており、路線全体のレベル低下が顕著です。

 それでも、今年の夏のスプリント重賞5戦は、すべて4歳馬が制しました。これは、世代交代の兆しと言え、メンバーの新陳代謝が進んでいると見て取ることもできます。今回はそういった活きのいい若い馬たちがこぞって参戦するので、それらがどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、楽しみではあります。

――確かに、今年は4歳以下の馬が多数出走します。そうした状況にあって、レースにおける注目ポイントはどういった点になるでしょうか。

大西 やはり展開面。レースの行方を占ううえでも、それがカギを握りそうです。なにしろ、ジャスパークローネ(牡4歳)、テイエムスパーダ(牝4歳)、モズメイメイ(牝3歳)と、何が何でもハナを主張したい馬が3頭もいますからね。

 これら3頭の主導権争いがどの程度激しくなるのか。前半3ハロンのペースがどこまで速くなるのか。それ次第で、有利になる脚質も変わってくるように思います。

 僕の想定では、3頭ともハナに行くことが好走条件となるので、どれだけハイペースになってもそれぞれ(ハナを)譲ることはしないと思います。そうなると、前半3ハロンは32秒台の高速ラップを刻むのではないか、と見ています。

 その結果、展開的には2番手グループの馬に有利に働くのではないでしょうか。さらにそれよりも後ろ、中団より後方の馬にもチャンスがあると考えています。

――人気を集めそうな馬たちは、その多くが中団に構えてレースを進めるイメージ。それらにとっては、競馬がしやすいかもしれませんね。

大西 中山でスローペースの展開になると、馬群が密集して勝負どころで混雑が生じ、ポジションによっては不利を受けやすくなります。人気の差し馬にとっては、レースが流れて縦長の展開になることは、好都合と言えるでしょう。スペースが確保され、馬群もさばきやすくなりますからね。

 好位差しが安定してきたナムラクレア(牝4歳)や、前走で(先行から差しへ)脚質転換に成功したアグリ(牡4歳)ら人気馬が、その恩恵を受けることは間違いありません。それぞれ、持ち前の能力を発揮できれば、上位争いする可能性は高いと思います。

 また、折り合い面に課題があるママコチャ(牝4歳)やメイケイエール(牝5歳)にとっても、前が引っ張ってくれる流れは歓迎のはず。特にママコチャについては、近頃も手綱が冴えわたっている川田将雅騎手への手替わりもあって大きな魅力を感じます。

――上位人気馬が好走しやすそうな状況ではありますが、注意しておきたい穴馬はいますか。


スプリンターズSでの大駆けが期待されるマッドクール

大西 逃げ馬3頭の直後で我慢ができるマッドクール(牡4歳)が気になります。もともと未勝利から4連勝でオープン入りした際には、「短距離界の新星」と高い評価を受けた好素材ですから。

 前走のGIII CBC賞(7月2日/中京・芝1200m)で9着と惨敗を喫するなど、重賞では壁にぶち当たっている感がありますが、重賞初挑戦だった3走前のGIIIシルクロードS(1月29日/中京・芝1200m)では勝ったナムラクレアにコンマ1秒差の3着。2走前のオープン特別・春雷S(4月16日/中山・芝1200m)では、直後のGIII函館スプリントS(6月11日/函館・芝1200m)を制して重賞ウィナーとなったキミワクイーン(牝4歳)を下して快勝しています。

 これらの実績から、このメンバー相手でも通用する可能性は高いと判断できます。

 同馬は速いタイムにも対応でき、中山コースでの勝利経験もあるため、重賞ノンタイトルという以外、あまり欠点は見当たりません。今回は人気の重圧からも解放され、思いきった競馬ができそうです。

 逃げ馬3頭の直後でリズムよく運び、前が苦しくなったところを一気に抜け出す競馬をすれば、後続が追い上げる前に粘り込むシーンが期待できます。イメージとしては、昨年のスプリンターズSを制したジャンダルムのような騎乗でしょうか。

 ということで、今回の「ヒモ穴馬」にはマッドクールを指名したいと思います。