三笘薫がEL初戦で見せた完璧な折り返し だがブライトンは挑戦者になりきれなかった
ヨーロッパリーグ(EL)開幕戦。たとえばLASK(オーストリア)と戦ったリバプール(イングランド)は、前戦の国内リーグ対ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ戦から先発メンバー全員を入れ替えて臨んだ。ウルブス戦で出場機会のなかった遠藤航が、欧州カップ戦初出場を先発として飾ることができた理由である。つまりリバプールはメンバーを落として戦った。その結果、先制点を奪われる苦しい展開を強いられた。逆転したのは遠藤らを下げ、主力級を投入した後だった。
LASKは昨季のオーストリアリーグ3位のチームだ。ELというれっきとした欧州のカップ戦ではあるが、ふだんプレミアリーグで戦っているチームに比べて戦力は劣るかに見える。スタメン級を休ませたくなる気持ちはわかる。しかし、その一方で未知のチームだ。相手はしかも、リバプールという強者に一泡吹かせようと研究を尽くし、ベストメンバーを向けてくる。
主力を休ませたくなるほど弱いチームがないチャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグとは、その点に大きな違いがある。CLでは格下と思しきチームでも油断は禁物。ほぼベストメンバーで臨もうとする。だが、ELとなると少し事情は変わってくる。どんな感じで臨めばいいか。頃合いが難しくなる。
昨季のプレミアリーグでリバプールに次いで6位に入ったブライトン。EL出場はクラブ史上初の出来事で、ともするとチャレンジャーに見える。しかし、ブックメーカー各社の優勝予想に目を移せば話は変わる。リバプールに次いで2番人気に推されているのだ。
初戦の相手はAEKアテネ(ギリシャ)。プレミアリーグが欧州ランク1位ならば、ギリシャリーグは20位で、AEKは昨季のギリシャリーグの覇者である。前戦のマンチェスター・ユナイテッド戦からメンバーを落とすべきか否か。悩むところである。欧州のサイトを眺めれば、三笘薫はベンチスタートとの予想が多くを占めた。
2時間15分前にキックオフされたLASK対リバプール戦で、リバプールが苦戦しているとの情報が、あるいはブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督の耳に入ったのかもしれない。三笘はAEK戦のスタメンに名前を連ねることになった。
【2人がかりで寄せられたが...】
チームの顔役でCBを務めるルイス・ダンク以外、予想どおりのメンバーが先発に並べたブライトン。だが、試合は思わぬ展開で推移することになる。
ヨーロッパリーグ初戦AEKアテネ戦に後半41分まで出場した三笘薫(ブライトン)
先制点を奪ったのはアウェーのAEK。開始11分、CKからジブリル・シディベ(元フランス代表)が頭で豪快に決める。ブライトンは前半30分、1トップで出場したブラジル人FWジョアン・ペドロがPKをゲット。自ら決め同点としたが、前半40分、ミヤト・ガチノヴィッチ(セルビア代表)にスライディングシュートを許し、再びAEKにリードを許す。1−2のスコアで前半を折り返すことになった。
まさかの展開である。ベストメンバーに近い11人で臨んだブライトンだったが、初めて欧州カップ戦を戦う喜びのようなものが感じられなかった。ひと言で言うなら弱者の挑戦を受けてしまった。対峙の仕方に苦慮したという印象だ。
オーストリア(チチャン・スタンコヴィッチ)、イラン(エフサン・ハジサフィ)、ポーランド(ダミアン・シマンスキ)、デンマーク(イェンス・イェンソン)、メキシコ(オルベリン・ピネダ)、モロッコ(ノルディン・アムラバト)、アルゼンチン(セルヒオ・アラウホ)、フランス(ジブリル・シディベ)、セルビア(ミヤト・ガチノヴィッチ)、トリニダード&トバゴ(レヴィ・ガルシア)、ギリシャ(イェラシモス・ミトグル)。AEKはギリシャの首都アテネのチームであるが、スタメン11人の国籍が上記のようにすべて異なる、文字どおりの多国籍軍である。欧州のカップ戦出場を狙う裏のルートを見るようなチームだ。欧州でプレーする日本人はいまや、100人に迫ると言われるが、AEKのようなチームは狙い目のチームに見える。
ブライトンは、その多国籍軍ならではの、つかみどころのなさに手を焼いた。
三笘は前半アディショナルタイムの段になってようやく"魅せた"。それまで左サイドで2度いい形でボールを受けたが、伸びやかなプレーはできずじまい。AEKは研究してきたのだろう。三笘がボールを持つと2人がかりで寄せてきた。
だが、もはや相棒的な関係になっている左SB ペルビス・エストゥピニャンがいい感じで絡むと、三笘は快活になる。46分、対峙する相手の右SBシディベを、内に行くと見せて縦に抜ける三笘らしいフェイントで深々とかわすと、果敢にライン際から折り返した。ボールを1トップのジョアン・ペドロと相手GKチチャン・スタンコヴィッチの間に流し込むも、GKにキャッチされる。
【アンス・ファティの起用法に注目】
三笘の勢いは止まらない。
その1分後、相手は2人がかりで来た。シディベと右ウイング、ノルディン・アムラバト(モロッコ代表)が迫ってきたが、緩急をつけたドリブルながら、ほぼノーフェイントで真っ直ぐ縦に抜き去ったのだ。ライン際から左足で中央に送ったマイナスのセンタリングはGKにキャッチこそされたが、芸術的と言いたくなる球質だった。マーカー2人をこれほどまでに楽々とかわし、完璧な形で折り返すことができるウイングは世界に何人いるだろうか。
後半、試合はブライトンペースで進む。後半22分、ジョアン・ペドロが再び自ら獲得したPKを蹴り込み、2−2とした。
こうなったら、ブライトンはさすがに負けることはないだろうとの読みは甘かった。ギリシャリーグというランク20位の裏街道から、ELという欧州の晴れやかな舞台を踏んだ選手たちのプレーには、喜びが溢れていた。
決勝ゴールを挙げたのは、交代で入ったエセキエル・ポンセ。アルゼンチン代表歴がない26歳のゴールで、ブライトンは2−3に沈んだ。
ブライトンの敗因をあえて挙げるなら、守備を統率するルイス・ダンクを欠いたことと、1トップ下で起用されたアンス・ファティが嵌まらなかったことにある。全体的にチャンスの回数が少なかった理由だ。三笘がいまひとついい形でボールを触れなかった理由でもある。
アンス・ファティの適性は左ウイングにあるのではないか。だが、左には三笘がいる。この日、後半41分、三笘と交代で左ウイングに入ったサイモン・アディングラも控えている。ロベルト・デ・ゼルビ監督の今後の起用法に注目したい。
シュトルム・グラーツ(オーストリア)と対戦した守田英正所属のスポルティング(ポルトガル)は、こちらも先制点を奪われる苦しい展開だった。ポルトガルリーグでこれまで5試合すべて先発を飾っていた守田は、ディオゴ・アモリム監督が相手を格下と見たのか、ベンチスタートとなった。スポルティングに逆転弾が生まれたのは、守田が投入された直後で、すなわち彼は勝利に貢献したことになる。リバプールの遠藤とは対照的なだった。
また、オリンピアコス(ギリシャ)にアウェーで2−3と勝利したフライブルク(ドイツ)の堂安律は試合終了直前まで出場。スラビア・プラハ(チェコ)とホーム戦を戦ったセルヴェット(スイス)の常本佳吾は出番がなく、またトゥールーズ(フランス)とアウェー戦を戦ったユニオン・サンジロワーズ(ベルギー)の町田浩樹は招集外だった。