井口資仁が夏の甲子園を沸かせた佐々木麟太郎ら11人の好打者を診断 太鼓判を押した伏兵は?
今夏の甲子園では佐々木麟太郎(花巻東)など、多くのスラッガーが耳目を集めた。そこで日米通算2254安打、458二塁打、295本塁打と活躍した大打者・井口資仁氏(元ロッテほか)に分析を依頼。11人の強打者をチェックしてもらった。
昨年まで5年間務めたロッテ監督時代にはリストアップされた有望選手を精力的にチェックしており、高校生打者の分析にも慣れている。そんな井口さんは、意外な伏兵に「将来有望」と太鼓判を押した!
高校通算140本塁打の花巻東のスラッガー・佐々木麟太郎
佐々木麟太郎(花巻東/一塁手/184センチ・113キロ/右投左打)
高校1年生の頃から注目していました。すばらしいパワーを持っているのはもちろん、自分の体に近いポイントでとらえられる高校生はなかなかいません。資質が高いことを前提として、今後の課題について触れさせてもらいます。今夏のフォームで気になるのは、右肩が内側に入り込んでいること。右肩が入りすぎると、ボールを見る際に死角が生まれます。また肩が入り込む分、開かないと打てないのでスクエアに構えたほうがスムーズに回転できると私は思います。体に近いポイントで打てるのは長所な反面、前でもさばけるともっと打撃の幅が広がるはずです。甲子園ではレフト中心だったヒットゾーンが、センターからライト方向にも広がります。1年時はもっと柔らかく振り抜けていたので、きっとできるはずです。プロでは投手のキレが段違いによくなりますから、対応するために考えてもらえたらいいですね。
1年夏から広陵の中軸を担う真鍋慧
真鍋慧(広陵/一塁手/189センチ・92キロ/右投左打)
高校通算62本塁打のスラッガーと聞きましたが、バットヘッドが体の近くを通って出てきて、高打率を残せそうな打者に見えました。トップも浅めで、インパクトも力強さよりアプローチのうまさを感じます。センターからレフト方向に強い打球が飛びそうなスイング軌道です。とはいえ、体が大きいのでジャストミートすれば飛距離も出るのでしょうね。なによりも自分の間合いでバットを振れているのがいい。バッターは結局、自分のタイミングを持っているかどうかですから。少し安田尚憲選手(ロッテ)と似たムードを感じますが、バットの出方は安田選手よりもいいですよ。
高校通算31本塁打の九州国際大付・佐倉侠史朗
佐倉侠史朗(九州国際大付/一塁手/184センチ・110キロ/右投左打)
まず、大きな体つきに圧倒されます。構えや体の使い方は森友哉選手(オリックス)を彷彿とさせますね。右足を上げてゆったりとタイミングをとるタイプ。体が大きいので、タイミングがハマった時の打球はよく飛びそうです。ただ、森選手との大きな違いは下半身の使い方。ステップした右足が地面に着いた時に、左股関節に重心が乗っていません。下半身に粘りがなく、上半身とうまく噛み合っていないのです。バット操作はうまいので右手一本でもアプローチはできますが、このままではタイミングを崩された時に強い打球が打てません。森選手のフォームを研究して、ステップ時に左股関節にタメが残る打ち方にできるともっとよくなるはずです。
準々決勝の慶應戦で本塁打を放った沖縄尚学の仲田侑仁
仲田侑仁(沖縄尚学/一塁手/186センチ・94キロ/右投右打)
体格のよさ、構えのムードと好きなタイプの右打者です。私がロッテの監督時代は左打者が多く、ドラフト候補を見る時も右打者を求めていました。今も右の強打者は需要が高いはずです。彼の長所はトップを深くとれて、いい形でスイングできていること。下半身もしっかりしているので、変化球を引きつけてとらえられます。2ストライクに追い込まれてからはノーステップ打法にシフトして、スタイルを変える工夫をしているのもいいですね。今後を見越して課題を挙げるなら、重心が低いので構え遅れないようにしたいところ。プロでは速いクイックモーションの投手もいますし、いろんなバリエーションに対応できるようになると楽しみです。
夏の甲子園で2試合連続本塁打を放った履正社・森田大翔
森田大翔(履正社/三塁手/179センチ・70キロ/右投右打)
甲子園で2試合連続ホームランを放った右の強打者ですね。力感なく構えてグリップを体の前に置き、ボールを呼び込む際に引いてトップに入る打ち方。下半身と連動できた時は、すばらしい飛距離を生み出します。彼のポイントはひとつ、グリップの引き方だけです。早い段階でグリップを引いて、そこから打ちにいく寸前にもう一度引く。いわゆる「二度引き」になっています。二度引きをするとタイミングが遅れやすく、変化球に泳がされやすくなってしまいます。トップに持っていく感覚は人それぞれですが、グリップを引く動作は1回でバチッと決められると理想です。
強肩、強打の上田西の遊撃手・横山聖哉
横山聖哉(上田西/遊撃手/181センチ・82キロ/右投左打)
腕周りが太くてたくましく、身のこなしを見ても運動能力が高そう。バットを振る力もあって、高いポテンシャルを感じます。ただ、まだ全体的に力任せに振っているのが気になります。バットを構えた時点で腕の筋(すじ)が浮き上がるほど力が入っている。なかには力いっぱい握らないとバットを振れない選手もいるのですが、構えた状態で力が入ると柔らかくスイングできません。ヘッドの重みを感じながら、柔らかくコンタクトできるようになるといいですね。ロングティーをたくさんやると、ボールを運ぶ感覚をつかめるかもしれません。あとはタイミングの取り方もせわしないので、とらえるポイントが1点しかありません。上体に力を入れず、下半身でゆったりとタイミングをとれるようになると楽しみです。
広角に打てるバッティングが魅力の八戸学院光星の中澤恒貴
中澤恒貴(八戸学院光星/遊撃手/178センチ・80キロ/右投右打)
坂本勇人選手(巨人)の高校の後輩と聞きましたが、フォームは完全に山田哲人選手(ヤクルト)ですね。グリップの位置が高く、バットのヘッドを一塁側に傾けてからトップへともっていく打ち方。ヘッドの使い方がうまくないとできないスイングですが、山田選手はヘッドの使い方にかけては天才的なんです。再現性を高めるのが難しいスイングのため、中澤くんもひと振りで仕留めてほしいボールをファウルにしてしまうなど、打ち損じが目立ちます。センターから逆方向に強い打球がいくのは長所である一方、タイミングが合うのは変化球中心なのも気になります。高いレベルのストレートに差し込まれそうなので、もう少し早いタイミングで振りにいけるといいですね。
強打好守の東海大熊本星翔の遊撃手・百崎蒼生
百崎蒼生(東海大熊本星翔/遊撃手/178センチ・74キロ/右投右打)
トップの形がよく、広角に強い打球を打てる右打者です。今大会は足をケガしていたそうですが、本来は足も速く、守備もうまい将来が楽しみな好素材です。ひとつ気になるのは、ボール球の見逃し方。私は打者を見る時、「見逃し方」を重視しています。ボール球だと判断してバットを止める際、その場でピタッとグリップが動かないのがいい打者。グリップが前に出てしまう打者は「時間がかかりそう」と感じてしまいます。百崎くんの場合もグリップがボールに近づいていってしまうので、力強いスイングを阻害している感があります。「空振りをしたくない」という思いが強すぎるのかもしれませんね。トップでボールと距離をとったままスイングできれば、右方向にも長打が出そうです。ぜひ「見逃し方」に取り組んでもらいたいですね。
U18日本代表にも選出された聖光学院・高中一樹
高中一樹(聖光学院/遊撃手/177センチ・76キロ/右投右打)
バットがしっかりと内側から出てきて、打率を残せそうなスイングです。グリップが体から離れずに振れると、スイングがブレずに正確にボールをとらえられます。振り抜きも柔らかく、インコースのボールに対しても詰まらずにとらえられる。また、ボール球に対してバットがピタッと止まり、ファウルで粘る芸当もできます。木のバットでも大きな苦労はしないでしょう。プロで言えば友杉篤輝選手(ロッテ)と重なります。大学進学希望と聞きましたが、大学のリーグ戦で首位打者を獲れる素材のはず。あとは体に力をつけていけば楽しみです。センター中心に打ち返す今のスイングを続けていけば、高いレベルでも通用するはずです。
奈良大会で打率.625、4本塁打を放った智辯学園・松本大輝
松本大輝(智辯学園/外野手/181センチ・90キロ/右投左打)
今夏の甲子園で見た打者のなかで、もっともスイングスピードが速く見えました。無駄な動きが一切ないシンプルな形で、体のブレがなく力強く振れています。私の同期に松井秀喜さん(元ヤンキースほか)がいましたが、彼など無駄な動きのないシンプルなスイングでしたよね。松本くんはファウルでも相手に威圧感を与える猛烈な振りで、このスイングスピードは久しぶりに見ました。甲子園で放ったホームランも、とてもいいバランスで打てています。あとはハイレベルな変化球に対してどう対応できるかですが、軸がブレないのでどんなボールにも対応できそうです。今回見た打者のなかで、一番魅力を感じました。
仙台育英との決勝戦で先頭打者アーチを放った慶應義塾・丸田湊斗
丸田湊斗(慶應義塾/外野手/174センチ・73キロ/右投左打)
ひと振り見ただけでヒザ関節の柔らかさを感じ取れます。変化球に対してヒザを柔らかく使って対応し、バットヘッドをしならせてとらえる。タイミングをゆったりとれて、相手投手からすると吸い込まれるような、投げづらさを感じるフォームです。仙台育英との決勝戦では2ストライクと追い込まれた後、ノーステップ打法に切り替えて先頭打者本塁打を放ちました。ノーステップでも余計な力が入らずにゆったりと呼び込めて、インパクトの瞬間だけ力を込められる。体のバランスもいいし、まさにセンスの塊。プロの打者も見習ってほしいくらい理想的なスイングです。大学でも早い段階で戦力になれるでしょう。
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今回チェックさせてもらった選手のなかでは、松本くんと丸田くんのバットの出方のよさがとくに目に留まりました。高校野球での金属バットからプロで木製バットに切り替わった際、もっとも大事なのはタイミングとインパクト。インパクトに強さを出すには全身に力が入っているようではむしろ逆効果で、柔らかさが求められます。プロでも強い打球を打てるコツをつかみ、すばらしい打者へと成長していくことを祈っています。