阪神の18年ぶりリーグ優勝に沸いた翌日の9月15日、2年連続Bクラスが決定した中日・立浪和義監督の続投が決まった。今季の中日は、チームの成績もさることながら「令和の米騒動」「1イニング10失点続投」など、ネガティブな出来事が物議を醸した。ヤクルト、西武の監督として日本一を経験した球界の大御所・広岡達朗に今シーズンの「立浪・中日」について総評してもらった。


来季の続投が決まった中日・立浪和義監督

【勝てないのは監督の責任】

「立浪には期待していたが、残念な結果になった。柳裕也も高橋宏斗も巨人の戸郷翔征より防御率がいいし、小笠原慎之介にしても内容は悪くない。なにより、抑えには絶対的存在のライデル・マルティネスがいる。チーム防御率も阪神に次ぐ2位。いい投手陣がいるのに、なぜ勝てないかだ。これはすべて監督の責任だ」
※成績は9月20日現在、以下同

 今季もBクラス決定の中日だが、クライマックス・シリーズ(CS)は2012年以来、12球団最長の11年間も出場できていない(※)。チームが低迷すると、雑音が多くなるのは勝負の世界では当たり前のことだ。それにしても「令和の米騒動」といった通常ではありえない事態が格好のネタとなってネット上を賑わせたのは事実だ。
※2020年の与田剛監督時代に3位に入ったが、コロナ禍の影響でCSは中止

 ネットを賑わせた「令和の米騒動」を簡単に説明すると、夏場に入って調子を落とした細川成也を見て、立浪監督は「ご飯の食べすぎで動きが鈍くなった」と解釈。そこで細川の白米断ちを命じたところ調子が戻ったので、選手全員に号令を出し、食堂から炊飯ジャーが撤去された。ところが、抑えのマルティネスが反旗を翻したため、投手陣だけは白米OKとなったというものだ。この件に関して、広岡は呆れ口調で次のように語った。

「立浪には、自分が正しいと思ってやったのなら、ひとりの選手が言ってきたからと言って撤回するなと言いたい。要するに信念がなく、思いつきでやっているからそうなるんだ。選手起用にもそれが表れている」

 そう語る広岡も監督時代、選手たちに玄米を勧めていた時期があった。

「白米断ちをやろうとする意図はわかる。オレも監督時代、1970年代後半から80年代前半にかけて、春季キャンプ、遠征での食事で玄米を推進した。なぜ玄米かというと、野菜に多く含まれるビタミンとミネラルが補給できる。それと玄米に含まれるγ−オリザノールの働きによって、脂肪の多い食事を欲っしなくなるというデータがある。野菜を摂らず、肉ばかり食べる選手にとって効率よくビタミンが摂れるから玄米食を採り入れたんだ。

 それと試合前の食堂には、バナナ、オレンジ、グレープフルーツといった果物と野菜スティックしか置かなかった。試合前にたくさん食べることがなぜいけないかというと、食べたものを消化しようとして、内臓に血液が集まるから、筋肉の絶対量が減る。そういう状態でプレーすると血流が悪くなり、ケガをしやすくなる。だから、お腹は空かしておいたほうがいいのだ」

 玄米食については、ただの思いつきで始めたことではないと広岡は言う。

「こういった食事管理を採り入れる前に、オレは勉強したし、大学の先生を呼んで選手の前で講義してもらった。あと、選手の奥さんを呼んで勉強会を開いたこともあった。最初は思いつきかもしれないが、それを確証するためにまず自分で勉強して、問題点をあぶり出し、専門家にレクチャーしてもらう。それを踏まえて、選手にストレスなく納得して食べてもらえるように指導法を考える。オレの場合も、選手たちは納得せず、ストレスが溜まっていたようだけど、結果が出てくると文句を言っていた選手たちも食べるようになった。

 別に自分を正当化しようと言っているのではない。あのまま勝てなかったら、もっとひどいバッシングを受けていただろう。それでもやめない覚悟と信念があった。選手とのコミュニケーションの問題もあるが、まずは自分自身が納得するまで勉強して、それをコーチ陣たちと共有し、しっかり議論できたかどうかが問題なのだ。首脳陣が一丸となっていないから、こういった情報が外部に漏れ、騒ぎも大きくなるのだ」

【管理野球を遂行した理由】

 広岡はヤクルト、西武の監督時代、あまりにも選手がやりたい放題だったため、禁酒、禁煙、炭酸飲料水まで禁止するなど、徹底した管理で締めつけた。当然、選手たちからは猛反発を食らった。西武の東尾修、田淵幸一はヤカンにビールを入れ、食事中にこっそり飲むなど、裏では徹底抗戦していた。だが、広岡はすべてお見通しだった。

「隠れて飲んでいることぐらい知っていた。休み前以外は絶対禁酒と言っておけば、多少は飲むかもしれんが、今までみたいに焼肉を食べながらビールをガバガバ飲むことはなくなるものだ。それが狙いだった。それに、選手があれこれと悪知恵であろうが頭を使うことは、とても大事なことなんだ」

 とにかく、今シーズンの中日は1948年、64年にマークした球団ワーストの83敗に迫ることもあってか、ネガティブな話題が提供されることが多く、迷走しているのは手にとるようにわかる。

 たとえば、WBCで優勝した栗山英樹氏は日本ハムの監督時代、選手がアドバイスを求めてきやすいように監督室のドアを開放していたと聞くし、元中日監督の落合博満氏は遠征での食事の際、選手が気を遣わないように首脳陣と選手を別テーブルにしていたそうだ。だが、立浪監督にはそういった話がいっさい聞こえてこない。

「練習中に立浪が『水を飲むな!』と声をかけたら選手が萎縮してしまったので、コーチが気を利かせて水分補給させたとか......そんな冗談だと思うような話ばかり耳に入ってくる。それは、コーチは気を利かせたんじゃなく、選手と首脳陣に距離があるという話だ」

【10失点続投の本質的な問題】

 そして話は、近藤廉の1イニング10失点に及んだ。

「あれだってマウンドに集まったのは一度だけで、内野陣はその時以外、声すらかけていなかった。そもそも今シーズン、マウンドに立浪やコーチが行く場面が極端に少ないように思う。ピッチャーはただでさえ孤立するポジションだし、今の選手はアフターケアが大事。これだけ負けているチームなんだから、きちんとフォローしてあげないと先がなくなるぞ。

 近藤は育成上がりで、2年ぶりの一軍登板だったと聞いた。世間では晒し投げと話題になったそうだが、3点目以降は2アウトから点をとられており、ああなってしまったら止められない。立浪は『勝ちパターンの投手しか残っていなかったので酷なことをした』とコメントしていたが、だったらなぜ出迎えてあげなかったんだ。投手コーチの落合(英二)はケツを叩いていたが、ベンチの端っこに座っていた近藤に声をかける首脳陣はいなかった。あんなことをやっていたら選手はつぶれるし、ほかの選手も首脳陣と距離を置いてしまう」

 そして広岡はこう続けた。

「気の毒な場面で投げてもらうのも時には必要なのなら、きちんと首脳陣が出迎えて、叱咤激励の声をかけるべき。ほったらかしが一番いけない。10失点まで投げさせたことがいけないのではなく、その後の対応がまさに低迷するチームの象徴だった。指導者のくせに、厳しさと情けの違いがわからないバカばかりだ」

 今シーズンの中日を見ていると、投手陣だけでなく、野手陣も岡林勇希、石川昂弥といった若手が育ってきており、戦力的に決して劣っているわけではない。来季も続投が決まった立浪監督に、広岡はこうエールを送る。

「要は、どうやって今季の失敗を糧にして、立て直すのか。残りの試合からすでに来季の展望を見出さないと、また同じことの繰り返しになるぞ。誰もが『来年こそは』と思っているはず。もう来季の戦いは始まっているぞ」