藤浪晋太郎が「一番いい形」と望む、オリオールズの世界一と阪神の日本一 抑えの選手が離脱中でプレーオフでは重要な存在に
「日本でもビールかけをしたことがなかったんで、めちゃくちゃ興奮しました。もう最高でしたね。喉がガラガラになるくらい騒ぎまくりました(笑)」
人生初のシャンパンファイトを終えた藤浪晋太郎の声は途切れがちだった。
プレーオフ進出を決めたオリオールズで、信頼される中継ぎ投手になった藤浪
9月17日(日本時間18日)、藤浪が所属するボルチモア・オリオールズは本拠地でのタンパベイ・レイズ戦に勝利し、プレーオフ進出を確定させた。 2016年以来となるビッグステージへの帰還を決め、チームのクラブハウスで行なわれた盛大な祝祭。輪の中心にいたのは、仲間たちとともに「TAKE OCTOBER」(10月へ行こう)とプリントされたTシャツを着た藤浪だった。
「すごくいいチーム。オークランド(・アスレチックス)もいいチームでしたけど、このチームも自分が入りやすいように話しかけてくれたり、いい環境作りをしてくれた。溶け込みやすかったですし、いい環境でやらせてもらっていると思っています」
藤浪は謙虚にそう語ったが、人種、国籍を問わず、力を見せれば仲間として認めてもらえるのがアメリカ社会である。新天地ボルチモアで、藤浪が自身の力で居場所を手にしたのも紛れもない事実だろう。
ここに辿り着くまで、波乱の道のりだった。シーズン最初に所属したアスレチックスでは先発で4試合連続の黒星を喫し、防御率14.40という不振で中継ぎに転向。そこで結果を残すと、7月に強豪のオリオールズにトレードで移籍した。
徐々に制球難を解消していった藤浪は、100マイル(約161キロ)の速球とスプリットを武器に好結果を出し続けた。プレーオフ進出を決めた日の2/3イニングも含めて、メジャー自己最長の7試合連続無失点。今では、登場時に「フジ!フジ!」とチャントが沸き起こるほどの人気者となった。【古巣・阪神のリーグ優勝は「シンプルにうれしい」】
運命的な巡り合わせもあって、今季は日本人選手の中でポストシーズン進出一番乗り。大乱調のスタートを切ったはずが、メジャー6年目の大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)も経験していないプレーオフでも活躍が期待されるようになったのだから、人生はわからないものである。
時を同じくして、日本では藤浪の古巣・阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を決めた。自身が味わえなかったビールかけを楽しんだ元チームメイトたちのことを問われると、藤浪は微かに表情を崩した。
「(阪神優勝には)刺激を受けているというよりも、単純にうれしいなと思います。刺激とはちょっと違って、ファン目線というか......。ビールかけをしているのを見て、その場に自分がいれなかった寂しさはちょっとありますけど、本当にシンプルにうれしいという思いが一番大きいですかね」
元同僚たちが日本一に向かってまい進するのと同時に、自身も世界一に向かって突っ走ることが"恩返し"になる。実際に、藤浪とオリオールズの秋はまだ始まったばかりなのかもしれない。
プレーオフ進出に向けたマジックが1となった前日の時点では、広報部から「行なわれない方向」と伝えられていたシャンパンファイト。それが当日にあっさりと変更され、ダイナミックな大宴会が実に約1時間にわたって継続したことも、"優勝慣れしていないチームらしさ"を感じられた。
ただ、慣れていく時間は十分に残っている。現在、ア・リーグ最高勝率で突っ走るオリオールズはプレーオフでも注目チームになりそう。そして上記通り、オールスターにも出場した抑えのバティスタが右肘靭帯損傷で離脱中(8月26日に故障者リスト入り)なため、藤浪はブルペンでも重要な存在になりそうだ。
「私はフジを左打者相手にも快適に送り出せる。彼は左右両方の打者をアウトにできるが、それは特に終盤のイニングでは重要なことだ。フェリックス(バティスタ)は左右両方をアウトにできる稀有(けう)な投手だったから、彼には価値があった。フジもその能力を持っている」
そんなブランドン・ハイド監督の言葉を信じるなら、プレーオフ中も接戦の終盤イニング、ヒリヒリするような場面で藤浪がマウンドに立つ可能性は十分あるだろう。そこで今季中盤以降のような支配的な投球ができれば......。
「(勝ち進んだ場合、シャンパンファイトは)あと何回できるんですかね。3、4回はできると思うので、全部できるように頑張りたいと思います。ポストシーズン進出が決まっただけでもすごいことなんですけど、これから地区優勝、リーグ優勝、ワールドシリーズ優勝へと試合が続くので、気を引き締めていい結果を出せるように頑張りたいです」
本拠地の通路でシャンパンの匂いを濃厚に漂わせながら、藤浪は凛々しい表情で前だけを見据えた。そして、最後に「藤浪投手が世界一、阪神が日本一となれば最高の結果になりますね」と問うと、答えはすぐに帰ってきた。
「それが一番いい形かな、と思いますね」
アップダウンが激しかった藤浪のメジャー1年目だが、クライマックスはまだまだこれから。紆余曲折を経て成長を遂げてきた豪腕が、今季のポストシーズンが終わる頃、オリオールズ躍進の立役者のひとりと認識されるようになっていても、もう驚くべきではない。