鎌田大地、アトレティコの老獪さに嵌まる CL開幕、ラツィオは劇的弾でドロー発進
チャンピオンズリーグ(CL)は面白い。2023−24シーズンの開幕節、ローマのオリンピコで行なわれたラツィオ対アトレティコ・マドリードは、あらためてそう言いたくなる一戦だった。
ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコがCLの常連であるのに対し、ホームのラツィオは2007−08シーズン以来16年ぶりの出場だ。またシメオネ監督のサッカーが守備的であるのに対し、マウリツィオ・サッリ監督のサッカーは攻撃的。布陣で表わすなら4−3−3(ラツィオ)対5−3−2(アトレティコ)の対戦である。
イタリア対スペインと言えば、かつてのコンセプトは真逆の関係にあった。攻めるスペイン、守るイタリア。イタリアが強かった時代はそのカウンターが冴え、スペインが強くなるとイタリアは守りきれなくなった。
アトレティコは守りきれるのか。試合は「4分」と表示された後半の追加タイムを迎えて0−1。老獪な守備的サッカーを展開するアトレティコがラツィオをリードしていた。
後半47分、交代で入ったラツィオのイタリア人MFダニーロ・カタルディが放ったミドルシュートを、スロベニア代表のGKヤン・オブラクがスーパーセーブ。アトレティコの勝利はこの瞬間、動かぬものになったかに見えた。
後半49分。ラツィオはCKを獲得するも、カタルディのキックはクリアされる。終了の笛が鳴ってもおかしくないタイミングだったが、スロベニア人のスラブコ・ヴィンチッチ主審は、自国の名GKオブラクの活躍をまだ拝みたかったのか、プレーを続行した。
カタルディはその跳ね返りを受けると、ルイス・アルベルトにパス。元スペイン代表MFは、すかさず中央にクロスボールを送った。ここで活躍したのはオブラクではなかった。ひとり黄色のユニフォームを着たラツィオのイタリア人GKイヴァン・プロヴェデルだった。突如、ゴール前に現れ、ドンピシャのタイミングでヘディングを叩き込んだのだ。
1−1。最後の最後に劇的な瞬間が訪れた。オリンピコで16年ぶりに勝ち点をゲットした喜びに浸るラツィオイレブンと、呆然と立ち尽くすアトレティコイレブン。地力に勝るかに見えた後者にとって、痛恨の引き分けとなった。
【大きなミスはなかったが...】
1−0は、かつてのイタリアがそうであったように、守備的サッカーが追求する理想的なスコアだ。しかし同点に追いつかれ1−1で終わると、なぜもっとちゃんと攻めなかったのかと、一転、後悔の念に駆られることになる。アトレティコはいまその状態にある。
もっとも前半29分に挙げたその先制点も、少々ラッキーなゴールだった。立役者は皮肉にも鎌田大地だった。右ウイングバック、ナウエル・モリーナ(アルゼンチン代表)が中央に折り返したボールを、スペイン期待の若手MFパブロ・バリオスがミドルシュート。その瞬間、鎌田の差し出した足にヒット。コースが変わりボールはゴールに吸い込まれていった。日本人的には少々、残念な光景だった。
チャンピオンズリーグで対戦した鎌田大地(ラツィオ)とアントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)
ここまで国内リーグで4試合続けて、右のインサイドハーフとしてスタメンを飾っていた鎌田。CL出場は昨季に続いてこれが通算9試合目となるが、活躍度で見るならば、この日は決して高くはなかった。シュートは2本放っている。大きなミスをしたわけでもない。ただ、これは他の選手にも言えることだが、老獪なアトレティコの守備的サッカーに嵌まってしまったという感じだ。目を引く活躍ができぬまま、鎌田は後半17分という早い時間に、フランス代表のマテオ・ゲンドゥージと交代でベンチに下がることになった。
少なくとも前半、ラツィオは6割方ボールを支配していた。不運なゴールを食らったものの、攻撃的サッカーを貫くことはできた。ただ、俗に言う「持たされた」状態にも見えた。アトレティコは、正攻法で戦えばラツィオと互角以上に渡り合えそうな戦力を備えているにもかかわらず、後方に待機しているという感じで、そうした底力の程は、少人数で攻撃に出た際に見て取ることができた。
その中心になっていたのが5−3−2の2トップを、アルバロ・モラタ(スペイン代表)とともに張ったアントワーヌ・グリーズマン(フランス代表)だ。両軍のなかで最も優れた選手であることは言うまでもない。
【アトレティコはグリーズマン頼み】
正確にはモラタが1トップで、グリーズマンはその周辺を左右に動き回る1トップ下という役回りだ。鎌田にもグリーズマン級の活躍を望みたいところだったが、こちらの頭をよぎったのは、日本代表でその鎌田と1トップ下のポジションを争う恰好になっている久保建英だ。
左利きのアタッカーという点で両者は一致するが、グリーズマンの魅力は左利き選手にありがちな身体の開きがない点だ。右でも左でも、もちろん真ん中でも進行方向を読まれない。言い換えれば、苦もなくプレーする。適性エリアが広いのだ。
たとえば先日のフランス代表とドイツ代表の一戦では、グリーズマンは4−2−3−1の右ウイングとしてプレーしている。1トップ下でも、左ウイングでも、さらに言えば1トップでもプレー可能だ。相手を背にしたプレーも普通にこなす臭みのなさが最大の特徴で、アトレティコの攻撃はそのグリーズマンの個人能力頼みになっていた。くどいようだが、キチンと攻めれば、ラツィオゴールをもっと脅かすことができたはずなのに、だ。
90分プラス4分まで、そのシメオネの守備的な省エネサッカーはうまくいっていた。ラツィオGKプロヴェデルが最後の最後に決めたヘディング弾は、サッカーの神様がシメオネに据えたお灸のように見えた。
シメオネのサッカーは年とともに守備的になっている。2019−20シーズンの決勝トーナメント1回戦でリバプールに劇的な逆転勝ちを収めた頃までは、いわゆる好チームに見えたが、それから重心は下がるばかりだ。勝ちたい気持ちがそうさせているのかどうかは定かではないが、CLの決勝トーナメントでは曲者ぶりを発揮できなくなっている。
土壇場で許したこの同点弾を良薬とできるか。第三者的に見てもったいない気がする。一方、ラツィオは逆に強さはないが好チームといった印象だ。鎌田の頑張りとその成績は比例すると見た。次節のセルティック戦(現地時間10月4日)が楽しみだ。