今季開幕から絶好調の久保建英がラ・リーガ第5節の古巣レアル・マドリード戦でも本領を発揮し、敗れはしたもののサンティアゴ・ベルナベウで輝きを放った。今回はスペインのラジオ局「カデナ・コペ」でレアル・マドリードやスペイン代表の番記者を務めるミゲル・アンヘル・ディアス氏に、この試合での久保のパフォーマンスを振り返ってもらい、さまざまなメディアで報じられている古巣復帰の可能性について分析してもらった。

【誰もが白いユニフォームを纏う姿を想像し始めた】

 久保建英は今、ラ・リーガのスター選手の一人と言っても過言ではない。将来有望な存在から、22歳にしてすでにラ・リーガを代表する選手にまで大きな変貌を遂げたのだ。第5節終了時点で3ゴールを決めている9人のうちの1人となり、それを上回るのは5得点のジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)のみである。


久保建英はレアル・マドリード戦の前半に鮮烈な活躍を見せた photo by Nakashima Daisuke

 サンティアゴ・ベルナベウで見せた前半のパフォーマンスは、眩いものであった。久保はドリブル、突破力、フィニッシュワーク、シュートなど、プレーに関与するたびに危険なシーンを作り出し、対峙するフランシスコ・ガルシアを翻弄し続けた。前半5分にはボールを左足で巧みに運び、中に切り込んで鮮やかなパスを入れ、アンデル・バレネチェアの先制点をお膳立てしたのだ。

 その数分後、もしミケル・オヤルサバルのオフサイドがなければ、久保はその地位をさらに高めていただろう。またもやトレードマークとも言える動きでDF陣のギャップを見つけ、GKケパ・アリサバラガを打ち負かす冷淡かつ強烈なシュートを放ってみせた。この時、サンティアゴ・ベルナベウの観衆は久保が才能を発揮する様を、ただ眺めるしかなかった。

 この日の久保の閃きに気づいたチームメイトたちは、常に右サイドで彼を探し求めた。そして前半の半ば、トニ・クロースとガルシアを抜き去って再びシュートを打ったプレーにはスタンドも記者席も驚きに包まれ、誰もが白いユニフォームを纏う久保の姿を想像し始めたはずだ......。

 久保はその直後、ボールをコントロールしながら選ばれし者だけが持つような"自分だけの間"を見せた。焦らずにタイミングを計り、ミケル・メリーノの頭にボールを合わせたのだ。その芸術的なプレーはスペインの闘牛士を連想させるものであり、そのような落ち着きと状況判断の巧みさに、対峙した相手はまるで催眠術にかかっているようだった。

 そして、試合を中継していたカデナ・コペ(スペインのラジオ局)の伝説的ナレーターのマノーロ・ラマとレアル・マドリードの永遠のキャプテン、マノーロ・サンチス(1983年から2001年までレアル・マドリード一筋でプレー)はこのシーンについて、「久保がエミリオ・ブトラゲーニョ(レアル・マドリードのレジェンド)を彷彿とさせるアクションの主人公となった」とコメントしていたのも印象的だった。

 後半はレアル・ソシエダも久保も、前半と同じレベルを維持できなかった。久保は大胆なプレーを見せ続けたものの、パフォーマンスが著しく低下していた。

【レアル・マドリードとレアル・ソシエダの契約関係】

 レアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督は、今年5月にサン・セバスティアン(レアル・ソシエダの本拠地)で対戦した際、久保の将来について、「今後数カ月のうちに話し合うことになると思うが、チーム内での競争が激しいため、あのレベルの選手が出場時間を見つけるのは容易ではない」と復帰が困難であることを示唆。しかしこの試合後、「とても良いプレーをやり、非常に危険な存在だった」と実力を認める発言をしていた。

 一方、レアル・ソシエダのイマノル・アルグアシル監督はこの日の久保のパフォーマンスに特に驚いた様子はなく、「タケはサイドでプレーすることが多く、相手のバランスを崩すのが得意な選手で、チームメイトとの連係もいい。今さら彼の才能について話す必要などないが、彼があのようなパフォーマンスを発揮するためにはいい選手に囲まれている環境が必要であり、レアル・ソシエダにはそれがある。彼が際立つ活躍ができているのはそのためだ」と言及していた。

 久保の活躍がレアル・マドリードで注目されていないわけがない。レアル・ソシエダは移籍金として600万ユーロ(約9億6000万円)を支払って5年契約を結び、契約解除金を6000万ユーロ(約96億円)に設定した。

 一方、レアル・マドリードは先買権(※将来、レアル・ソシエダが他クラブから久保へのオファーを受けた場合、レアル・マドリードが同条件で優先的に買い戻せるというもの)と、レアル・ソシエダが将来、久保を他クラブに売却した場合、キャピタルゲイン(※購入価格と売却価格の差による収益)の50%を受け取る権利を2024年まで保有している。

 これは何を意味しているのか?

 つまり、レアル・ソシエダは他クラブから久保に対する魅力的なオファーを受けた場合、まずはレアル・マドリードに先買権を行使するかどうかの確認をしなければならない。またレアル・マドリードが獲得を希望する場合、支払額が来夏まで半額で済むことを覚えておく必要がある。とはいえまだ先の話であり、この件については何も決定していない。

 両クラブの関係はMFアシエル・イジャラメンディやDFアルバロ・オドリオソラが行き来した最近の移籍を見てもわかるとおり、契約解除金として設定された金額に達したことはなく、交渉を通じて取引を成立させており、至極良好である。

 しかしレアル・ソシエダに久保を売却する意思は全くない。それどころかレアル・マドリードから1500万ユーロ(約24億円)程の金額でキャピタルゲインの残り半分の権利を買い戻し、契約解除金を引き上げる可能性もあるのだ。

【復帰したとしてもロドリゴの控えか】

 FWマルコ・アセンシオ(パリ・サンジェルマン)とMFエデン・アザール(無所属)の退団後、レアル・マドリードにはサイドアタッカーがFWヴィニシウス・ジュニオール、FWロドリゴ、MFブラヒム・ディアスの3人しかいない。

 しかしアンチェロッティが今シーズンに向けて考案した新システムで彼らはよりインサイドでプレーする傾向があるため、その位置でより攻撃的なプレーをするのはサイドバックとなっている。またMFフェデリコ・バルベルデもウイングとしてプレーできるが、彼本来のポジションではないため、選手層の薄さは否めない。

 もし2024年にFWキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)の加入が実現した場合、システムが4−3−3に戻る可能性が高い。そのため4人目のウインガーの存在は、来季もアンチェロッティが指揮を執るかどうかに関係なく、どの監督にとっても魅力的なことになるだろう。

 今のレアル・マドリードの未来はヴィニシウスとロドリゴにかかっており、どちらも絶対的なレギュラーである。左ウイングはヴィニシウスの聖域であり絶対に侵すことはできない。となると、エムバペがやって来た場合、より多くのポジションでプレーできるロドリゴが右ウイングとしてプレーするのが理にかなっている。そこはレアル・ソシエダで久保が活躍しているポジションである。

 久保がレアル・マドリードに加入すると仮定した場合、EU圏外の選手は現在、イギリス人のベリンガムしかいないため登録面に問題はない。過去、久保にとってそれは大きな問題だったが、昨シーズン、ヴィニシウス、DFエデル・ミリトン、ロドリゴが二重国籍を取得しており、その点で今は復帰の道が開けていると言える。

 しかしレアル・マドリードにはすでに、プレシーズンをトップチームで過ごしたラ・ファブリカ(※レアル・マドリードの下部組織の愛称)の宝の一人であるMFニコ・パスの将来に大きな期待を寄せているという事実もある。また来夏、エムバペに約2億ユーロ(約320億円)を投資した場合、それ以外に出費することはないだろう。

 いずれにしても、久保がどう考えているかを知る必要がある。久保はこれまでビジャレアル、ヘタフェ、マジョルカ、レアル・ソシエダと、すでにラ・リーガの4チームでプレーした経験を持ち、今やスター選手としての地位を確立している。そんな彼が主力選手になっているレアル・ソシエダのサッカーを観るのは楽しいものだ。

 しかしレアル・マドリードに行くということは、おそらく控え選手になることを意味する。それは彼のキャリアを後退させることになりかねない......。