FCバルセロナが欧州チャンピオンズリーグ(CL)を席巻した時代は、過去のものになろうとしている。

 2008−09シーズンからジョゼップ・グアルディオラ監督が率いたバルサは、リオネル・メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタなどを中心に、圧倒的な攻撃力で2度の欧州王者に輝いている。その前後を含めても、CLは6シーズン連続でベスト4以上。驚異的な強さを誇った。ルイス・エンリケ監督が率いた2014−15シーズンにもMSN(メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)で欧州を制したが、それが栄光の時代の最後だった。

 終わりの始まりは2017−18シーズン、準々決勝でローマに、ファーストレグの4−1の勝利をセカンドレグで逆転されたゲームだろうか。もはや、メッシの神通力だけでは勝てなくなっていた。2018−19シーズンも、準決勝でリバプールに、ファーストレグで3−0と勝ったが、終了間際、明らかな決定機を軽い気持ちで外したウスマン・デンベレに怒るメッシの姿が象徴的だった。セカンドレグは4−0とひっくり返されて敗退した。

 その後、メッシは退団を余儀なくされ、バルサは現実をさらけ出した。過去2シーズンはグループリーグ敗退である。

 今シーズン、最強時代を知るシャビが采配を振るバルサは、グループリーグでポルト、シャフタール・ドネツク、ロイヤル・アントワープと同組になった。順当に行けば、ベスト16には勝ち上がれるだろうが――。バルサは欧州王座を取り戻せるのか。

 バルサの希望は、「メッシ以来の輝き」と言われる16歳、ラミン・ヤマルである。

 今シーズン、先発に抜擢されたビジャレアル戦で、試合の趨勢を決めている。まず先制点のところで、右サイドから左サイドに落とし込むようなボールを蹴り、ガビのヘディングを演出。さらに逆転された後にも、右サイドからカットインし、左足でゴールを狙い、ポストに跳ね返ったところをロベルト・レバンドフスキが押し込んだ。

 カモシカのように滑らかな体の動きで、一気にスピードアップし、ブレーキもかけられる。相手が触れない間合いでボールを動かし、たとえ阻まれてもプレーキャンセルし、ベターなプレー選択ができる。一流の選手が持つパウサ(一時停止)を操るのも特徴で、ダンスを踊っているような優雅なプレーだ。

【リーグ戦は好スタート】

「判断のところでほとんど間違えない。とても賢くすばらしいよ。これで16歳になったばかりなのは本当に驚きだ」

 シャビ監督も手放しの称賛だ。素行に問題を抱えていたウスマン・デンベレをパリ・サンジェルマンに売り払ったが、悪くないセールスだった。

「(プレーすることに)怖さはないよ。それを忘れるようにプレーしている。フットボールは、楽しい感じなんだよ。母さんは先発すると怖いらしいけど、助けてもらっているよ」

 スペイン代表にも選出されたヤマルの言葉は初々しいが、相手にとっては悪夢だろう。

 王座奪還に向け、戦力は整っている。

 GKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンは健在、ジュル・クンデも自身が切望していたセンターバックで、ハイレベルなプレーを見せる。「セルヒオ・ブスケッツの後継者」として迎え入れたオリオル・ロメウが上々のプレーメイクで、すでに計算できる戦力になった。フレンキー・デ・ヨング、イルカイ・ギュンドアンの関係も良好で、能力の違いを見せつけている。

 また、ガビが左サイドで得点力とインテンシティを担保し、攻守のバランスもよくなった。構想外に近かったフェラン・トーレスはプレシーズンからの好調を維持しており、これはシャビ監督にとってはうれしい誤算だろう。


ベティス戦でバルセロナ移籍後の初ゴールを決めたジョアン・フェリックス

 オサスナ戦では、獲得したばかりの2人のポルトガル代表、ジョアン・カンセロとジョアン・フェリックスもデビューした。カンセロはシャビが熱望した右サイドバックで、数回のプレーでもビルドアップで出色の技術を見せた。また、フェリックスはカンセロに出した1本のパスだけでも、ファンタジスタの片鱗を見せた。直近のベティス戦ではふたりともバルサでの初ゴールを決めている。

 主力2人が戦線離脱しているにもかかわらず、ベティス戦は5−0と大勝。ラ・リーガは首位で好スタートを切っている。

 ハムストリングをケガしたウルグアイ代表DFロナウド・アラウホは欠場を余儀なくされているが、守備は大きく崩れていない。アラウホの代わりに起用されたセルジ・ロベルトは"穴"だが、カンセロが埋められるだろう。アラウホがセンターバックに戻ることで、クンデとのコンビは堅牢さを増すはずだ。

【ジョアン・フェリックスに不退転の気概】

 また、癖になっている右太もものケガで戦線を離れたペドリだが、ケガの功名でデ・ヨングが化け、ギュンドアン獲得もヒットとなり、どうにか凌いでいる。ただ、ペドリのプレーメイクは唯一無二で、攻撃にアクセントを与え、ゴールにも迫れる。かつてのイニエスタに比肩する選手だけに、完治を目指したい。

 小さな懸念は、ポーランド代表FWレバンドフスキか。昨シーズン、前半戦は怒涛のゴールラッシュを見せたが、後半戦はペースダウンしたことだ。今シーズンは3得点しているのだが、前線で抑え込まれる時間が長く、それが35歳という年齢によるものか、単なる小さな周期か。

 代案としては、フェリックスのゼロトップ起用もあり得る。

「バルサでプレーすることが夢」と語っていたフェリックスは実際、年俸を40万ユーロ(約6000万円)にまで下げてやってきた。アトレティコ・マドリードでの年俸は最高1200万ユーロ(約18億円)で、プレミアリーグの各クラブからのオファーはさらに好条件。サウジアラビアのアル・ヒラルの提示額は100倍以上だったという。それだけに不退転の気概が伝わる。"戦闘"を求めたディエゴ・シメオネ監督との関係は「牢獄」と風刺されただけに、解き放たれてファンタジーを見せられるか。

 一方、20歳になるFWアンス・ファティはブライトンに期限付きで移籍した。ビジャレアル戦では中途半端にシュートを打つもブロックされ、完全にフリーだったギュンドアンの叱責を買っていた。プレーリズムが狂っていただけに、新天地での覚醒が望まれる。

 バルサがCLを制するには、攻撃の爆発力がいる。その点でのキーマンはヤマルとフェリックスの新鋭ふたりか。守備のめどはついており、未知の2人がそれぞれメッシの半分でも活躍できたら、復権もあり得るはずだ。