予選Q1のタイムシートの最上段に、「TSUNODA」の文字が光った。

 もちろんまだ、アタックするマシンは何台もいる。しかし、そのラップタイムを上回る者はなかなか現われない。そしてランス・ストロール(アストンマーティン)の大クラッシュによる赤旗提示。

 角田裕毅は、シンガポールGPの予選Q1でトップタイムをマークした。

 赤旗の恩恵を受けたとはいえ、20台中12台がすでにアタックを終えていた。つまり、残り8人全員に上回られたとしても、最低でも9位につける速さを持っていたことになる。


角田裕毅が予選Q1でトップタイムをマーク

 アルファタウリがシンガポールGPに持ち込んだアップグレードパッケージは、非常によく機能した。角田が記録したQ1のトップタイム1分31秒991は、Q2でも6位で通過できてしまうほどの好タイムだった。

「改善できているのは間違いないと思います。特にリアサポートに関してはそうですね。コーナーのエントリーでより高いスピードをキャリーできるようになっていますし、そこでラップタイムをゲインすることができています。コーナリング中のマシンバランスもよくなっていると思います」

 事前のシミュレーションでは0.2〜0.3秒というゲインを見込んでいたが、実際にドライブした角田は「期待値よりもちょっと上」と語った。

 予選Q3進出は間違いない。その手応えがあったからこそ、ソフトタイヤを残すべくQ1では2セットしか投入しなかった。

「マシンは想定どおりに機能していましたし、Q1はとてもよかったと思います。なのでQ3に行ける自信もかなりありました。でも自分のアタックラップのせいで、それができませんでした」

 Q2最初のアタックは、前でアタックを終えたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とラインが交錯するかたちになり、タイム計測を断念。

 残る1セットで確実にアタックを決めればQ3進出は可能な情勢だったが、ターン14でブレーキをロックアップさせてしまい、コースオフ。

【多少タイムを落としてもQ3進出は可能だった】

「あそこでアタックをやめたせいで、マシンバランスがどうなっていたか、トラックエボリューションがどうだったかを確認することができませんでしたから。あそこで(Q3進出できる)タイムを残せなかったとしても、そのままアタックし続けるべきでした」

 Q1からQ2へは、ラップタイムが0.4〜0.6秒も向上するほど路面のグリップが上がる。その変化に合わせてマシンのセッティングとドライビングを合わせ込んでいき、マシンの100%を引き出すのがドライバーの仕事だ。どのドライバーもQ1からQ3までアタックを続けることで、そのアジャストを進めていくのだ。

 Q2最初のアタックを途中でアボート(中断)してしまった角田は、その代償を2回目のアタックで支払うことになってしまった。フェルスタッペンに妨害されてそのコーナーではタイムロスを喫しても、そのまま走り続けてそれ以外のコーナーの路面コンディション変化を掴んでいれば、最終アタックのミスも防げたかも知れない。

 そしてもうひとつが、自己ベストタイムとの比較だ。

 アタック中のステアリングホイール上には、自己ベストタイムとのタイム差が常に表示される。角田の場合、途中まではQ1トップタイムの1分31秒991より速いペースできていたが、直前のターン13でロスして自己ベストよりわずかに遅れを取ってしまった。その結果、角田はタイムを削り取るべくプッシュして、ロックアップという結果につながったものと思われる。

 ただし結果論ではあるが、Q1のタイムは6位でQ2を通過できるほど圧倒的に速いものであったため、そこから多少遅れるくらいのタイムでもQ3進出は可能だった。だが、それを知らない角田はプッシュしすぎてしまった。

 Q1で記録した自己ベストが速すぎたがゆえの悲劇だった。

「Q3に行ける速さがあったのに、行けなかったのは僕のミスのせいです」

 チームにぶつけたい不満もあっただろうが、角田は予選Q2敗退の全責任を自分で背負った。チームメイトのリアム・ローソンが、最終的に一度も角田のQ1タイムを上回ることなくQ3進出を決めて10位となっただけに、悔しさと自分への腹立たしさとチームへの責任感はなおさらだった。

【タイムで下回るリアム・ローソンが9位入賞】

 決勝は15番グリッドから、ソフトタイヤを選択。オーバーテイクが難しいサーキットだけに、1周目にひとつでも多くポジションを上げてレースを有利に進めたいという思いが見て取れた。

 好発進でターン1までにふたつポジションを上げ、さらに前のローソンに襲いかかっていく。しかし、ターン5でインに飛び込んできたセルジオ・ペレス(レッドブル)と接触し、サイドポッドに穴が空いた。マシンがスライドし、角田はパンクかと疑ったが、実際にはマシン右側のラジエターから冷却水が漏れてリアタイヤを濡らしていた。


ペレスに追突されなければ入賞は間違いなかった

 冷却性能の低下によってパワーユニットに深刻なダメージをきたす恐れがあるため、チームはすぐさまマシンを止めるよう角田に指示を出さざるを得なかった。

「ターン5で無理矢理インに入ってこられて、(接触で)完全にマシンの右サイドを失い、ダメージがラジエターまでいってしまいました。あそこでわざわざノーズを入れてくる意味がわかりません」

 誰に非があろうと、角田がレースを失ったことに変わりはない。失ったレースは戻ってこない。

 大きなチャンスがあると感じられるほど、マシンには手応えがあった。事実、僚友ローソンは初挑戦のシンガポールでミスなく淡々と走った結果、9位入賞を果たした。

 角田が予選からすべてをクリーンにまとめていれば、今回のマシン性能からすればそれなりの結果が手にできていた可能性が高い。

「スタートもよかったですし、マシンにペースがあっただけに、こんなかたちで終わってしまったのは本当に残念です。いいレースはできたんじゃないかなと思いますし、マシンのポテンシャルと自分にできることをすべて試したかったですね......」

 ただ、これは不運とか試練といったものではない。自らの未熟さが招いた負の連鎖だ。

 だが、そこで学んで改善できれば、次はプラスの連鎖に変えることができる。それだけの力が、今のAT04と角田にはあるはずだ。

 いよいよ迎える地元日本GP。最高のサーキット・鈴鹿を気持よく走ることができるマシンに仕上がったAT04で、これまでの学びをすべて成長へとつなげて、最高のレースを見せてもらいたい。

 今の角田裕毅になら、できるはずだ。