高木豊が選ぶ「グラブさばきがうまい」内野手 

現役選手編

 野球の守備、特に内野守備で大事な技術のひとつに「グラブさばき」があるが、それが"うまい"選手は誰なのか。長らく大洋(現DeNA)の中心選手として活躍し、二塁手部門でダイヤモンドクラブ賞(1983年/現ゴールデン・グラブ賞)を獲得した高木豊氏に、グラブさばきの定義と、それがうまい現役の内野手、守備の名手が減った原因などを語ってもらった。


2020年に守備率10割を記録した広島の菊池

【現役選手で「一番うまい」のは?】

――高木さんが考える、グラブさばきの定義とは?

高木豊(以下:高木) 僕にとってグラブさばきとは「ボールに対するグラブの当て方」のことで、ボールにグラブの面がしっかり向いていることが"うまいかどうか"の基準になります。グラブさばき=ハンドリングという捉え方もありますが、僕はハンドリングは「手首や腕の使い方」だと思っていて。グラブさばきがそこまでうまくなくても、ハンドリングの柔らかさでカバーすることができます。

 グラブでうまくさばくためには、球際の判断力や打球に対する足の運びが連動しなければいけません。「連動性があるからこそグラブさばき」と言えるわけで、連動性がない選手はうまくないですよ。

――連動性という面も含め、現役選手でグラブさばきがうまいと思う選手はいますか?

高木 今季は一軍での出場機会が少ないですが、藤田一也(DeNA/二塁手、遊撃手、三塁手)はめちゃくちゃうまいです。打球に対してのグラブの合わせ方がいいですし、ハンドリングも柔らかい。肩はそこまで強くないですが、どんな体勢からも正確なスローイングができるんです。現役選手では一番うまいんじゃないですか。

 あと、藤田ほどではないですが、柴田竜拓(DeNA/二塁手、遊撃手)もうまいと思います。球際に強く、捕球が正確ですね。

――パ・リーグではいかがですか?

高木 今宮健太(ソフトバンク/遊撃手)のグラブさばきも安定しています。1歩目のスタート、打球への入り方、捕球後にボールを投げるためのステップワークという流れがしっかりとできています。一連の流れがスムーズなので、ボールにうまくグラブを合わせられますし、強い送球ができる。

 身体能力も優れていますが、それを生かすも殺すも大事なのは1歩目のスタートから、ステップワークまでの連動性。今宮が長けているのはそこでしょうね。

【源田と菊池は守備の考え方が似ている】

――WBCでも活躍した源田壮亮選手(西武/遊撃手)はどうですか?

高木 源田のグラブさばきは、とにかく柔らかくて無駄がないです。それと彼の場合、"ボールを早く離せる(瞬時に投げられる)場所に入る"ことを意識しているタイプで、菊池涼介(広島/二塁手)も似ています。一方で今宮の場合は、"ボールを捕るためにスタートを切る"んです。考え方の違いを感じますね。

――源田選手と菊池選手の考え方が似ている?

高木 似ています。菊池の守備を見ると、例えば一二塁間に飛んだ打球に対して、あえて体を回り込ませるようにスライディングしているんです。捕った後、体をすぐに一塁側に向けるためだと思います。スライディングをしなくても捕れる打球もあるでしょうが、それだと体が流れてしまってスローイングの動作が難しくなる。なので、速い送球ができるようにわざとスライディングをしているんじゃないかと。それを立ったままやっているのが源田です。

――源田選手や菊池選手がいかに素早く送球できる体勢を整えるかを重視している一方、今宮選手はボールを捕ることを最優先している?

高木 そうですが、ボールを早く離せる場所に入ることを考えていないわけではありません。今宮も捕った瞬間に「これは早く投げなきゃいけない」といったことは感じているはず。どちらが正解ということはないですし、それぞれの性格でしょうね。

――高木さんは、以前から源田選手の守備を絶賛されていますね。

高木 プロ入り当初から「うまいな」と思って見ていました。ただ、土のグラウンドの球場でのプレーを見た時には「あれ?(人工芝で守っている時と)少し違うな」と思ってしまうこともあったんです。やはり人工芝と土のグラウンドは別物ですからね。それでも、プロで年数を重ねて自信がついてきたのか、土のグラウンドでも人工芝の時と同様にプレーに柔らかさが出てきましたね。今でも十分にうまいですが、これからどんどん向上していくんじゃないですか。

【守備の名手が少なくなった理由】

――ファーストで挙げるとすれば?

高木 うまいと思うのは中田翔(巨人/一塁手)です。内野手からのショートバウンドの送球を捕る際のグラブさばきは巧みですし、ハンドリングも柔らかい。ライン際の鋭い打球に対する反応も速いです。あと、体が大きいので内野手が送球する際に的が大きくなる。ファーストに求められる守備の要素を多く備えていると思います。

――サードはいかがでしょうか?

高木 グラブさばきは下手ではないんですが、連動する動きに粗さが目立つのが宗佑磨(オリックス/三塁手)です。例えば、踏ん張って投げられるのにランニングスローをしたり、正確性よりも体がラクなほうを選択してプレーしてしまうことが多いです。

 ランニングスローをするから送球が逸れてしまうこともあります。なので、体が少々きつくても一度体勢を作ってから投げるようにすれば、より正確性が向上するかなと。肩もいいですし、身体能力の塊のような選手なのでもったいないです。

――他にグラブさばきがうまいと思う内野手は?

高木 他はパッと名前が出てきません。昔に比べて「守備の名手」と言われる選手は減りましたね。昔は二遊間をしっかり守れれば、打率.250でもいいと言われていて、身体能力に優れた選手が二遊間を守っていました。「守れない選手は打席に立てない」と言われていた時代でしたが、今は「打てれば守備には目をつぶる」時代。そうなると、なかなか名手と呼ばれる選手は出てこないですよね。

――複数のポジションを守らせるケースが増えていることも要因でしょうか?

高木 ひとつのポジションをしっかり守れないのに、あちこち守らせたらミスは生まれますよ。複数のポジションを守れるようになれば出場機会は増えるのかもしれませんが、選手にとっては負担になります。それだけ選手の層が薄くなってきているんでしょうね。あちこち守ると、ひとつのポジションを守る上での感性が磨かれませんし。

 ただ、今はピッチャーの能力が高くなっているので、バッティング優先で選手を起用しないと点が入らないという事情もあるんでしょう。そういう状況を避けるため、バッティング優先でポジションを与えているんでしょうね。

 それと、今はほとんどのグラウンドが人工芝なので簡単にさばけますからね。昔は土のグラウンドで、グラウンド整備も今みたいにやりませんでしたから。相当な技術がないと、荒れたグラウンドでいい守備は見せられません。普通の打球に見えても、実際はイレギュラーしている場合も多いですから。今の選手が、土のグラウンドでプレーしたら下手だった、なんてことも意外と多いかもしれませんよ。

――土のグラウンドがうまい選手を育てる?

高木 そう言えると思います。いろいろな状況を想定して、対応していかないといけませんから。

――守備のスペシャリストのような選手も少なくなった?

高木 昔は木下富雄さん(元広島/二塁手、遊撃手、三塁手)のように、試合終盤の7、8回ぐらいから必ず内野のポジションにつく選手がいましたが、今はそういうスペシャリストがなかなかいません。外野手での守備固めはあっても、内野手でそういう選手はあまりいないですよね。DeNAの柴田はそういう選手かもしれませんし、阪神時代の大和(DeNA)も守備固めで内野に入っていましたけど、それくらいでしょうか。

 昔の広島でいうと、サードを守っていた衣笠祥雄さんはファーストもうまかったので、試合の後半に衣笠さんをファーストに、サードに木下さんを入れるとか、そういう内野の守備固めは各チームでありました。それがなくなったのは、うまい選手が減っているということだと思いますし、守備の重要性を説く人も少なくなりましたしね。もっと、「名手」と呼ばれるような選手を育ててほしいです。

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【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。