9月12日に行なわれた日本代表のトルコ戦から中3日。ブライトンの三笘薫は代表戦ウィーク明けの初戦をマンチェスター・ユナイテッドと敵地で戦った。トルコ戦には出場していないので、その前のドイツ戦から数えて試合間隔は中6日だ。しかも舞台はヴォルフスブルクである。代表戦といえばもっぱら日本国内で行なわれ、看板選手をベンチに温存する発想にも欠けたこれまでなら、三笘がこの一戦に体調十分で先発していたとは思えない。

 7万3592人の観衆を飲み込んだオールドトラッフォードで、開始3分、三笘が対峙するポルトガル代表の右SBディオゴ・ダロットにさっそく1対1を仕掛ける姿を見て、代表戦および招集のあり方について考え直す必要があることを痛感せずにはいられなかった。


マンチェスター・ユナイテッド戦にフル出場、勝利に貢献した三笘薫(ブライトン)

 しかし、この試合でまず決定的な突破を披露したのは、マンチェスター・ユナイテッドの左ウイングだった。マーカス・ラッシュフォード(イングランド代表)は外に開いた左SBセルヒオ・レギロン(スペイン代表)からショートパスを内寄りで受けると、ブライトンDF2人を縦にかわし突進。GKと1対1で放った右足のシュートが決まっていたら、試合は違った結果に終わっていた可能性が高い。

 先制点を奪ったのは、それまでどちらかと言えば劣勢だったブライトンだった。ボールは右SBヨエル・フェルトマン(元オランダ代表)から1トップのポジションから降りてきたダニー・ウェルベック(元イングランド代表)を経由して再び右のライン際に出た。これを右ウイング、サイモン・アディングラ(コートジボワール代表)がマイナス気味に折り返すと、1トップ下で構えるアダム・ララーナ(元イングランド代表)がスルー。その背後を走りフリーとなったウェルベックへのアシストプレーとした。

 マンチェスター・ユナイテッドはこの試合、通常の4−3−3ではなく中盤ダイヤモンド型の4−4−2で臨んできた。両サイドアタッカーの人数の関係は、ブライトン2人に対しマンチェスター・ユナイテッド1.5人。数的優位にあるブライトンがサイド攻撃を仕掛けやすい状態にあった。

【フォームがいいので視野が広い】

 マンチェスター・ユナイテッドのエリック・テン・ハーグ監督はブライトンの真ん中を警戒したのだろう。だが、先制点は右のサイド攻撃から生まれた。中盤ダイヤモンド型4−4−2の弱みを突かれる恰好になった。

 三笘にチャンスが訪れたのは前半31分。自陣ハーフウェイ手前20メートル地点の左サイドでボールを受ける。外回りするような素振りを見せながら内を突いた。ボールタッチをする際に前傾姿勢が深くなるとスピードは増す。総距離はおよそ50メートルに及んだ。ここまでドリブルでボールを運べる選手はけっして多くない。だがそれ以上に秀逸なのはワンタッチごとに、少しずつ進路を変える方向性だ。陣形のエアポケットに的確にボールを運ぶ。ドリブルのフォームがいいので視野が広く保てているのだ。

 ドリブルする場所は外のほうがいいと言われる。なにより真ん中のほうが、奪われる恐れがあるからだ。真ん中で攻守が切り替われば、多くの選手が逆モーションになりやすい。ピンチを招く可能性が高い。だが奪われる場所がサイドなら、その様子を真ん中の選手、あるいは逆サイドの選手が見て取ることができる。危険を察知できるので、帰陣の支度を瞬間的に整える時間が生まれる。

 真ん中ドリブルのもうひとつの問題は、次のプレーを周囲の味方選手が予測することが難しいことだ。ドリブルしている選手はコントロールを乱したくないので、目線が下に向きがちだ。周囲とアイコンタクトがとりにくい。その結果、ドリブラーを周囲の選手は傍観することになる。コンビネーションが取りにくいのだ。

 だが、三笘にその癖はない。目線は高く、視野も広いので、周囲と連携しやすい。ドリブルに無理がないのだ。この真ん中を突いた前半31分のドリブルも例外ではなかった。いまにもパスが出そうな、その機会を何度となくうかがいながら、ボールタッチに及んでいた。三笘はこのシーンでは脇で構えるララーナにパスを優しく差し出すように送った。ララーナはそのボールを失うことになったが、得点の可能性を感じさせるパス交換であったのは間違いなかった。

【見られなかった縦突破】

 その10分後、前半41分だった。ラッシュフォードがドリブルで左サイドを突破。ヤンポール・ファンヘッケ(元オランダU−21代表)をかわし、ライン際ギリギリからマイナスに折り返すと、ラスムス・ホイルンド(デンマーク代表)がこれを決め同点ゴールとしたかに見えた。

 だがVARの結果、ラッシュフォードの折り返しがラインを割ったと判定され、ホイラントのゴールは取り消しになった。ブライトンは命拾いした。だが、このファンヘッケを縦にかわしたラッシュフォードのウイングプレーは圧巻だった。三笘に披露してほしいプレーでもあった。

 三笘は後半4分、左ウイングの位置から中を冷静に見て、グラウンダーのアウトでラストパスを送っている。後半8分にはパスカル・グロス(ドイツ代表)が決めた追加点に2つ前のプレーで絡んだ。左ウイングの位置でボールを受けながら、攻め上がった左SBタリク・ランプティ(ガーナ代表)にパスを預けている。

 結局、対峙する相手のSBを縦に突破し、マイナスのラストパスを折り返す、自慢のプレーを見ることはできずじまいだった。この試合に限れば、それはラッシュフォードにあって三笘にない魅力となった。

 さらに言えば、先の日本代表のドイツ戦でも拝めなかったプレーである。前で述べたように、三笘は真ん中を行くドリブルで決定的なプレーができる。しかし、相手GKにとっては、その動きを早い段階で視界の正面に捉えることができることも確かである。GKにとってどちらが守りにくいかと言えば、マイナスの折り返しだ。やはり得点の確率はそのほうが高い。シューターにとってイージーなのはこちらである。

 縦と内と。要はバランスの問題だが、1試合に1、2本は決定的な縦突破を見たいとは、筆者の願望である。

 ブライトンは1−3でこのアウェー戦に勝利。三笘はまたしてもフル出場を飾った。アンス・ファティ、エバン・ファーガソン、ジョアン・ペドロら有力選手が終盤、次々投入されたが、三笘は交代の対象にはならなかった。ウインガーでありながらムラッ気がない安定性抜群の好選手。ロベルト・デ・ゼルビ監督が三笘に厚い信頼を寄せていることがわかる。

 この勝利で、ブライトンの順位は暫定ではあるがチャンピオンズリーグ出場圏内の4位に上昇した。モイセス・カイセド、アレクシス・マック・アリスターが抜けても快進撃を続けるブライトン。その中心に三笘はいる。