パリオリンピック出場を決めた男子バスケットチームの興奮冷めやらぬなか、9月8日からラグビーワールドカップ2023フランス大会が開幕。プールDに入った日本代表(世界ランク14位)は、10日に行われたチリ(同22位)との初戦を42ー12で制した。6トライを決めボーナスポイント(4トライ以上取れば勝敗に関係なく与えられるポイント)も獲得し、理想的なスタートを切ったといっていいだろう。

 今回は、そんな日本代表の戦いを6年間、取材し続けてきた日本テレビの笹崎里菜アナウンサーと、大学時代にラクロスに打ち込むなど競技経験が豊富な忽滑谷(ぬかりや)こころアナウンサーに話を聞く。チリ戦を振り返りながら、"ブレイブ・ブロッサムズ"について熱いラグビートークが繰り広げられた。


日本テレビの笹崎里菜アナウンサーと忽滑谷こころアナウンサー

──いよいよラグビーワールドカップ2023が開幕しました。おふたりは、どのようなお気持ちで今大会を迎えましたか?

笹崎:今年は自国開催ではないというところで、大変な部分も大いにあると思いますが、私としては何より楽しみな気持ちで迎えました。

 思い返すと、前回の19年日本大会では予選プール4戦全勝で、初めてベスト8に進出することができましたよね。その時に印象に残っているのが、準々決勝の南アフリカ戦直前の国歌斉唱で、選手の皆さんが涙を流していたこと。私自身、選手一人ひとりがこの舞台に立ち、ベスト8を目標に努力を重ねている姿を、少しですが間近で見させていただいていたので、あの瞬間はグッとくるものがありました。

 今大会は優勝を目標にしているので、今度は同じ景色を優勝で見たい。そのシーンを思い浮かべながら、一戦一戦、楽しみたいと思います。


前回大会前の2017年からラグビー班に

忽滑谷:私としては、つい先日FIBAバスケットボールワールドカップ2023が閉幕し、そこから流れるようにラグビーワールドカップが始まった、このスポーツ盛りだくさんな時期にスポーツキャスターとして携われていることをとても光栄に思っています。

──忽滑谷さんは大学時代にラクロスでチームスポーツを経験していますが、ラグビーという"ワンチーム"を心がけるスポーツをどのように見ていますか?

忽滑谷:ひとつのボールを全員でトライまでつなげていく、という流れや競技性はラクロスと共通すると思っていて。誰かひとりでもフィールドで全力を出さなかったら、絶対に最後までつながらない。15人全員が100%の力を出してこそ、15×100以上の結果が付いてくると思っていますし、それがチームスポーツのすばらしさだと感じています。今大会も選手全員がフィールド上でひとつになる、そんなプレーをたくさん見たいですね。


大学時代にはラクロスに打ち込んだ忽滑谷アナウンサー

──日本代表は新キャプテンにFL(フランカー)姫野和樹選手を任命し、新体制で臨む大会となりました。

笹崎:姫野選手は本人も話していますが、背中で引っ張るタイプ。もともと大学卒業後、トヨタヴェルブリッツ加入1年目からキャプテンを任されていますし、自分の中にしっかりとしたキャプテンシーを持っているので、頼れるチームリーダーだと思います。

 ただ、これまで自由に思い切ってプレーをしている姿を見てきた、いちファンとしては「プレッシャーはないのかな」と少し不安に思っていました。先頭に立つことに対して重みを感じ、自身のプレーに支障が出ないか心配だったからです。しかし、日本代表には姫野選手をはじめ、副キャプテンのSH(スクラムハーフ)流大選手、HO(フッカー)堀江翔太選手、HO坂手淳史選手など同じ帝京大学出身者が計7名います。みんな学生時代から仲が良く、「自分たちが姫野キャプテンを支えよう」という話をよくしているので、とても心強いなと思いました。

 それに姫野選手が社会人になるタイミングで、私もちょうどラグビー班に加わったので、年齢的には私の方がお姉さんなんですけど、彼が海外や代表で活躍する姿は本当に感慨深くて。いまはお母さん、いえ、おばあちゃんぐらいの気持ちで見ています(笑)。


姫野選手を孫のように思って見守っているという笹崎アナウンサー

──では、日本代表の推し選手を教えてください。

忽滑谷:SO(スタンドオフ)松田力也選手です。日テレに入社してからスポーツキャスターとして初めて一対一で取材させてもらったラグビー選手が松田選手だったんです。今年4月から担当している『news every.』のスポーツキャスターとしてお話を聞いた時に、「19年大会でラグビーが日本全体で盛り上がったのは、いち競技者として本当に嬉しかった。でも、自分が10番を背負って日本のために戦えなかったことに対する悔しさの方が大きかった」と4年越しの思いを話してくれました。

 それを聞いたとき、改めて前回大会で巻き起こったラグビーブームの一方で、悔しい思いをバネにして、4年間、努力を続けてきた人たちが、きっとたくさんいたんだな、と。そんな選手たちが日の丸を背負って戦ってくれる、この日本代表は本当の意味で強いチームなんだと感じ、より応援したい気持ちが強くなりました。


忽滑谷アナの推しはSOの松田力也選手

──表側だけでは読み取れない、さまざまな思いや感情が裏側にはあるわけですね。笹崎さんはどうでしょう?

笹崎:全選手について魅力や期待を語れるぐらい"箱推し"なので、ひとりには決められないんですけど......(笑)。

──では、チリ戦で印象に残った選手は誰ですか?

笹崎:流選手、坂手選手、堀江選手、FL/NO.8(ナンバーエイト)リーチ・マイケル選手、LO(ロック)ワーナー・ディアンズ選手、LO/FLアマト・ファカタヴァ選手。

忽滑谷:多い(笑)。

笹崎:やっぱりすごいなと思った選手たちなのですが、強いて挙げるとすれば......流選手ですかね。

──それはなぜですか?

笹崎:彼は国内リーグでもずっとキャプテンとしてチームを引っ張ってきて、本当に頼りになる選手なんです。今回、姫野選手が新キャプテンに就任し、流選手が副キャプテンに決まった時も「姫野は少し頼りないんで、俺がサポートします」なんていじったりもしますし、よく「ご飯奢ってます」って言ったりしています。

忽滑谷:仲良いな〜。

笹崎:だよね(笑)。でもそういう先輩がひとりでも同じチームにいるっていうのはすごく大きくて。より頑張らなきゃっていう気持ちにもなるだろうし、心の拠り所にもなってくれるだろうなって。試合でも100〜120%の力を出せると思うんです。姫野選手はチリ戦、相当出たかったと思いますけど、流選手がいることで安心して試合を任せることができた。それだけ彼はチームになくてはならない存在だと思うんです。

 それに強気な性格なのも私は好きで、弱気になったり、諦めたりしている姿なんて今まで見たことがありません。8月に開催された壮行会の時も、「日本のみなさんは、目標は優勝と言っていることについて、現実的ではないと思っているかもしれない。でも僕たちは自分たちのことを信じているし、やります。だから見ていてください」とハッキリ決意を口にしたんです。やっぱり言ったことには責任を持たなきゃいけないじゃないですか。それをプレーで実現させるって、相当プレッシャーもあるはず。それでも、あえて、あの場所で言えるメンタルの強さ、本当にものすごい人だと思うんです。

 あと、流選手は今大会を最後に代表のジャージを脱ぐと明言されていますから、個人的にも同い年ですし、より長く代表としてプレーしている姿が見たい。優勝する瞬間まで流選手の勇姿を目に焼き付けたい。そういう意味でも、とても推しています。


──ここからはチリ戦について振り返っていただきます。日本代表の勝利につながったポイントはどこでしょう?

笹崎:挙げたらキリがないのですが、まずFW(フォワード)の選手がとてもよかったです。前半はほとんどミスもなかったですし、反則も少なく規律が守れていました。セットプレーも安定していて、とてもFW陣が頑張っていたな、という印象です。それによって、BK(バックス)陣はプレーしやすくなっていたと思うので、体格のいいチリ選手相手によく対応できていたのかなと思います。

 得点に関しても、要所でトライもたくさん決まっていましたし、何より松田選手のコンバージョンキック(トライを決めた後に得られるゴールキック)がかなり効果的でした。

忽滑谷:6本中6本、100%決めるところがさすがですよね! 本番直前の強化試合ではキックの精度で苦しんでいたように見えたのでいちファンとして安心しましたし、ますます推しの気持ちが強くなりました。

笹崎:加えてロックの選手たちもすばらしかったです。これまでロックの人材難が問題視されていたんですけど、ワーナー選手とファカタヴァ選手が見事にカバーしていました。2人で3トライ(ワーナー1、ファカタヴァ2)奪ってくれて、「最高!」って思って(笑)。あとは坂手選手がジャッカル(タックルで倒れた選手からボールを奪うプレー)を2回決めたのも個人的には熱かったですね。

忽滑谷:エモポイント!!

笹崎:本当にエモかった。出場できない姫野選手に代わって、彼の代名詞であるジャッカルを決めてくれた。しかも2回も。「さすが!」って思いました(笑)。

 ちなみに以前、坂手選手の取材で姫野選手についてお聞きしたら、「彼を自由に動かせるようにすることが僕たちの役目」と言っていて。前述でも話しましたが、姫野選手は背中で見せるタイプ。ベテラン勢は彼が自分のプレーに集中できるよう、つねに周りからサポートしているんです。チームとして本当に素敵な関係性だなって、つくづく思います。

 坂手選手に流選手、リーチ選手に堀江選手、さらにPR(プロップ)稲垣啓太選手とCTB(センター)中村亮土選手など。彼らベテラン勢が「姫野選手に(責任が)集中しないよう、分散するように心がけている」という日本のカタチ、「Our Team」の姿が、次戦のイングランド戦でも見られたらいいなと思いますね。

(つづく)

【プロフィール】

笹崎里菜 ささざき・りな
日本テレビアナウンサー。2015年入社。
2017年からラグビー班に所属。同社のYouTubeチャンネル「日テレスポーツ【公式】」にて公開中の「日テレ女子アナラグビー部」にも出演。現在の担当番組は「スポーツ中継(ラグビー)」、「日テレNEWS」など。

忽滑谷こころ ぬかりや・こころ
日本テレビアナウンサー。2020年入社。
学生時代はラクロスやダンスなど様々なスポーツに打ち込んだ。先日まで開催されていたFIBAバスケットボール・ワールドカップ2023も担当。現在の担当番組は「Going! Sports&News」、「news every.」など。