あわや大事件...U−22日本代表が薄氷を踏む思いでつかんだ最終予選(U−23アジアカップ)への切符
薄氷を踏む思いでつかんだ、予選突破だった。
日本代表(A代表)がドイツとトルコを相手にゴールラッシュを演じていたのと同じ頃、U−22日本代表は中東・バーレーンに乗り込み、U−23アジアカップ予選を戦っていた。
そこで対戦したのは、パキスタン、パレスチナ、バーレーン。A代表の華やかさに比べ、試合会場も、スタンドの雰囲気も、対戦相手も、すべての要素があまりにも地味な戦いだった。2勝1分けの勝ち点7で予選グループを首位通過という成績も含め、何ということはない結果である。
U−23アジアカップ予選を突破したU−22日本代表
とはいえ、U−23アジアカップの、それも予選と聞けば、勝って当然の注目するに値しない試合と思われるかもしれないが、これがパリ五輪へとつながる道の第一歩。
開催国ゆえ、予選免除で本大会に出場できた東京五輪とは違い、次回のパリ五輪はこの予選を突破したあと、U−23アジアカップでベスト4に残らなければ、メダル獲得はおろか、本大会に出場することさえかなわない(アジアの出場枠は3.5)。
勝って当然。負ければ事件。そんな目で見られる予選3試合を、日中の気温が40度を超え、日が落ちたあとも熱せられたままの湿った空気が体にまとわりつく環境で戦うことは、選手たちにとって相当に過酷なものだったに違いない。
実際、最初のパキスタン戦こそ6−0で大勝したものの、パレスチナには1−0の辛勝。地元バーレーンとの最終戦は、0−0の引き分けで終えている。
とりわけバーレーン戦は、中東勢らしい狡猾さに手を焼いた。
ホームアドバンテージも味方につけ、日本に勝って予選突破を狙うバーレーンは、試合序盤から5バックで徹底して守備を固めて失点を防ぎ、試合途中は大げさに痛がって時間を稼ぐ。そうやって体力の消耗を最小限にとどめながら0−0で試合を進め、ラスト5〜10分で勝負をかけるというのが、明らかな狙いだった。
そして、日本はまんまと敵の術中にハマったと言っていい。
「なかなか(相手守備を)崩せへんなか、前半はちょっと停滞する時間が多かった。後半の最初に立ち位置とかいろいろ変えて、シュートに持っていける回数は増えたかなと思うけど......。そこを決めきらないと、こうやってズルズルと0−0のまま苦しい試合になってしまう」(MF山田楓喜/京都サンガ)
「(ゴール前に)相手の人数が多くて、(サイドからドリブルできれ込んでも)本当に相手しか見えなかった。どこに(クロスを)出したらいいんだろうって、ちょっと投げやりになってしまった部分もある」(MF三戸舜介/アルビレックス新潟)
それでも、日本は得点こそ奪えなかったものの、最後まで失点せずにスコアレスドロー。引き分けでも自力突破が決められる状況だっただけに、最低限必要な結果を死守することに成功した。
「結果はどうあれ、僕たちが目指しているパリに向けて、最初のところを突破できたっていうのは非常に大きな部分。次の最終予選(U−23アジアカップ)につながってくると思う」(GK鈴木彩艶/シント・トロイデン)
試合内容や試合運びに目を向ければ、正直、物足りなさがなかったわけではない。引き分けでもよしの立場にありながら、軽率なミスや1対1の局面での緩い対応でボールを失い、危ういカウンターを受けるシーンは何度か見られた。
特にバーレーンが勝負に出た試合終盤は、焦りからか不用意なファールが目立ち、さらに相手を勢いづけてしまった感は否めない。
しかしながら、ほとんど事前の準備期間がないまま臨んだ7日間での3試合。座っているだけでも体中から汗が吹き出す酷暑に加え、とても良好とは言い難いピッチ状態。それらの条件を考えれば、及第点を与えていい結果だろう。日本が攻める時間が長かったのは確かだが、それをもって決定力不足と断じるのはあまりに酷というものだ。
U−22代表を率いる大岩剛監督も「エクスキューズではないが」と前置きしたうえで、「選手の疲弊は想定を少し超えていた」と言い、「思いどおりにならなかったが、最低限のタスクを果たすことができてよかった。選手は非常によくやってくれた」とチームをたたえた。
U−22代表は、これでパリ五輪への第一関門を突破。10月には海外遠征、11月には国内でアルゼンチンとの親善試合が予定されており、来年4月にカタールで開催予定のU−23アジアカップへ向けて、今後もチームとしての強化が進められる。
「最終予選でも、(日本を)リスペクトをして(守備的な戦い方を)やってくるチームが必ずあると思うので、こういったゲームをしっかりここで経験できたことはプラスの材料かなと思う」(MF松木玖生/FC東京)
その一方で、パリ五輪でのメダル獲得を目指すなら、選手個々のレベルアップがこれまで以上に求められることは言うまでもない。所属クラブでの活躍はもちろんのこと、ドイツ、トルコを連破したことで俄然注目度が高まるA代表にも、割って入っていくことが期待される。
大岩監督も「我々はA代表がスタンダードだとずっと言っている。向こう(のレベル)がどんどん上がっていくが、それが目指すべき指標になっている」と、その難しさを指摘しながらも、「A代表のあのパフォーマンスを見て、選手は相当刺激を受けている」と目を細める。
6月シリーズでA代表に初招集されたMF川粼颯太(京都)は、「(一度)A代表に選んでもらったのだから、ここに来た時は自分がただU−22の一員というだけでは物足りないと思っている」と自覚の言葉を口にし、こう続ける。
「この(バーレーンでの)試合(の出来次第)で、A代表に選ばれることも絶対あると思う。目の前の相手に勝つことともに、例えばドイツ代表だったりとかとやってもできるんだぞっていう気持ちは、やっぱり全員が持たなきゃいけないと思うし、自分としても持っていきたい」
まばゆいスポットライトを浴びるA代表の陰で、あまりに地味で過酷な戦いを強いられていたU−22代表。だが、吹き出す汗をしたたらせながら薄氷を踏んだ経験は、必ず次につながるはずである。