栗原恵さんインタビュー 後編

(前編:課題だったミドルブロッカー陣など新戦力が躍動も「パリ五輪の予選でも活躍できるのか」>>)

 栗原恵さんに聞く今年度の女子バレー日本代表。後編はバレーボールネーションズリーグ(VNL)での各ポジションの選手たちのプレー、9月16日に開幕する「パリ五輪予選(OQT)/ワールドカップバレー」に向けた課題と収穫を聞いた。


9月16日からパリ五輪予選に臨む女子バレー日本代表

【アウトサイドヒッター陣は苦戦した選手も】

――アウトサウドヒッター陣では、昨年の世界選手権で大活躍した井上愛里沙選手の得点が少し伸びなかった印象があります。

栗原 確かに昨年の世界選手権での爆発力は印象的でしたからね。特にタイラウンドは少しもがいているように見えましたが、単純なコンビの問題だけではなかったと思います。OQTを見据えてさまざまな選手が起用されるなかで途中からゲームに入ることも増え、そこで求められる役割を必死に果たそうとしているように感じました。

 スタートから出ることに慣れている選手は、コンディションの持っていき方やリズムの作り方、「中盤でこういうプレーして、後半でこうプレーする」といった流れがあるものです。なので、試合中盤の大事なところでポンっと出されると、考えることが多いだろうなと思いながら見ていました。

――同じく昨年の世界選手権で活躍した林琴奈選手も、相手チームに研究されていたように感じました。

栗原 彼女は代表チームで担っている部分が大きいですからね。守備では広い範囲を守り、攻撃では技術のあるスパイク、サーブでも貢献できるので、コートにいる時間が長い状況が続いていた。だから海外チームもデータを集められたでしょうし、VNLで対応してきたんじゃないかと。ただ、これがオリンピックの舞台じゃなくてよかったですね。今の段階で認識できて対策ができるということは、ポジティブに捉えていいと思います。

――最後の試合になったファイナルラウンドのアメリカ戦で、エースで主将の古賀紗理那選手がオポジットとして起用されたのは予想外でした。

栗原 私も驚きました。眞鍋政義監督は攻撃力を上げることを狙ったんでしょう。それも含め、いろんなことをVNLで試しましたね。

 今大会は男子の日本代表が銅メダルを獲得しましたが、メンバーをある程度固定して戦い方も統一した中でチーム力を高めている。「それに比べて女子は大丈夫かな」と不安を抱いているファンが多いことは私も感じていますが、今回の経験をどう生かしていくのか注目したいです。

――OQT後、今シーズンからイタリア・セリエAのフィレンツェでプレーする石川真佑選手のプレーはいかがでしたか?

栗原 石川選手はサーブが大きな武器ですね。無回転のサーブを相手もすごく嫌がっていましたし、そこからの連続得点も多かった。今大会は2段トスをブロックされる場面もありましたが、イタリアではそういう場面が多くなると思うので、その部分も成長することができると思います。

――栗原さんも海外でのプレー経験がありますが、その経験はどのように生かされましたか?

栗原 私は海外で長くプレーしたわけではないですが、移動の多さなど、まったく日本と勝手が違うので、いろんなことに動じなくなると思います。日本では当たり前だと思っていたことがすごく恵まれていることに気づくでしょうし、バレーボールでもそれ以外の部分でも、ひと回りもふた回りも大きくなって帰ってきてくれることを期待しています。

【速いバレー完成のカギを握るセッターは?】

――続いてセッターに関しては、関菜々巳選手の起用が多かったと思います。彼女の速いトスは、第1次政権時の眞鍋監督、前監督の中田久美さんも目指してきた速いバレーの完成のカギを握りそうですね。

栗原 完成させてほしいですね。ただ、昨年よりもトスが速くなり、2段トスまで速くなっているので、なかなか打ち切れないボールも多いように感じました。世界を相手にするとブロックが高いので、2段トスをあえてネットから離してアタッカーに選択肢を与えようとする意図も見えました。ただ、そういった意図があるトスと、アタッカーの助走の入りの"呼吸"が合ってないのかなという場面が何度か見られましたね。

 これまでだと、2段トスは高くフワッと上げたボールを強打で打ち切るという共通認識があったと思うのですが、そういった約束がチームで確立されてなかったのかもしれません。2段トスはただでさえ打つ際の体勢がよくないですし、トスが速くなると準備する時間もなくなる。その中で相手の状況、ブロッカーを見て打つとなると、より判断力や体のコントロール、精密さが問われることになります。

――セカンドセッターについてはいかがでしょうか。VNLでは柴田真果選手、松井珠己選手も起用されていましたが。

栗原 セッターは、メンバーチェンジによって最もチームがガラッと変わる重要なポジションです。柴田選手は安定感があって、アタッカーの打ちやすいトスを上げるタイプ、松井選手はチームの雰囲気を盛り上げつつ、ツーアタックやサーブも含めて攻撃的なタイプという印象です。眞鍋監督がどういうバレーを求めていくかで起用法が変わるでしょう。

 最もコートに立つ時間も長かった関選手は、VNLでアタッカー陣とたくさんコンビを合わせられたので強みになりますね。でも、ファーストセッターに固定されたわけではないでしょうし、きっと監督も明言はしていないと思います。

【宮部に感じたミドルブロッカーとしての自覚】

――続いてリベロは、昨年の世界選手権では福留慧美選手が頑張っていましたが、今大会は2021年に一度は引退するも復帰した西村弥菜美選手が目立っていましたね。

栗原 リベロの選手はそれぞれ、大事な場面でいいレシーブを見せて盛り上げていた印象があります。その中でも、やはり長くコートに立っていた西村選手は安定していましたし、セッターに対する返球などを見てもチームに馴染みやすかったんだと思います。

――最後にミドルブロッカーは、荒木彩花選手については先ほど(前編)で評価を伺いましたが、昨年にアウトサイドヒッターからコンバートした宮部藍梨選手、東京五輪メンバーの山田二千華選手についても印象を聞かせてください。

栗原 宮部選手はコンバートで戸惑う部分もあったと思いますが、今年は本人もインタビューなどで語っているように、ミドルブロッカーとしての自覚を持ってプレーしています。VNLでも、昨年よりも速くなったクイック、ブロックの寄りの速さも見せてくれました。代表で"生き抜く"ために準備してきたことを感じましたね。彼女のブロックは手が出ている時間が長くて、海外の選手によくある、"まだ残っていた"というブロック。あれができるのは宮部選手だけだと思いますし、相手のアタッカーにプレッシャーをかけられますね。

 山田選手は移動攻撃など、攻撃の幅が広い選手。特にブロードを上手に使っている選手です。ミドルブロッカーは、どのポジションに入るか(セッターの横か、対角)で機動力が求められるか、コンビネーションが求められるかが変わってくるので、彼女のようなタイプのミドルも外せないですね。

――大会を全体的に振り返って、まずは課題を挙げていただけますか?

栗原 サーブをすごく強化してよくなっている部分もありましたが、その分リスクも増しますし、得点につなげられる場面とミスをする場面の両方がありました。先ほどのトスに関してもそうですが、精度がすごく大切になります。バックアタックも速くなって、いい状態で打ち切れた時には本当にすごいコンビとして成り立っているんですが、それが常に出せるかといえばそうではない。OQTまで時間は短いですが、どこまで精度を高められているかに注目したいです。

―― 一方で収穫は?

栗原 いろんなことを試して、いいところ、悪いところをすべて出し切れたことじゃないでしょうか。ネーションズリーグは期間が長く、国をまたぐ移動や連戦もある厳しい大会です。各国ともデータを集め、同じ相手と2度対戦することもある中で、気持ちが重くなるような課題も出てくると思うんです。ただ、選手たちはそれと向き合ってOQTに向かって準備をしていると思うので、どんな進化した姿を見せてくれるか楽しみです。

【プロフィール】

栗原恵(くりはら・めぐみ)

1984年7月31日生まれ、広島県出身。小学4年からバレーボールを始め、三田尻女子高校(現・誠英高校)では1年時のインターハイ・国体・春高バレー、2年時のインターハイ優勝に貢献。2001年に日本代表に初選出され、翌2002年に代表デビュー。2004年のアテネ五輪、2008年の北京五輪に出場した。2010年の世界バレーでは、32年ぶりに銅メダルを獲得した。その後、ロシアリーグに挑戦したのち、岡山シーガルズ、日立リヴァーレ、JTマーヴェラスでプレー。2019年6月に現役引退を発表した。引退後はバレーの試合での解説をはじめ、タレント活動など幅広く活躍している。