映画「国葬の日」の一場面。大島新監督の最新作で、9月16日から順次上映が始まる (C)「国葬の日」製作委員会

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安倍晋三元首相の国葬が行われた2022年9月27日の様子を全国10都市で記録したドキュメンタリー映画「国葬の日」が23年9月16日から順次公開される。

衆院議員の小川淳也氏を追ったドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」などで知られる大島新監督の最新作だ。事前の世論調査では反対が賛成を上回っており、世論が割れる中で行われた国葬だった。作品で収められた人々の中には、国葬に対する賛否を語る人もいれば、無関心な人もいる。大島氏が宣伝資料に寄せたコメントは「完成版を見てたいへん困惑しています」の1文で結ばれる。8月30日に関係者向けに行われた試写会で、大島氏がその「困惑」の理由を語った。

「唯一、どの立場の方も、きっと『いい』と思ってくれているはず」の場面は...

撮影対象の10都市のうち5都市は「すんなり決まった」という。国葬が行われた東京、安倍氏の選挙区がある山口(下関市)、銃撃事件が起きた奈良、政権の政策に翻弄(ほんろう)された沖縄(名護市辺野古)と福島(南相馬市)だ。残り5都市は、当初は国外での公開も視野に入れていたことから、国際的にも知名度が高い広島、長崎と京都、それに地理的なバランスを考えて、北の方にある札幌を入れた。最後に決まったのが静岡。静岡市清水区は国葬直前の9月23日から24日にかけて、台風15号による大雨に見舞われて大きな被害が出た。豪雨災害は忘れられやすいこともあり、「2022年9月27日の記録として意味があると思った」という。

清水では、清水東高校のサッカー部員が、浸水被害を受けた家をボランティアで片付ける様子が描かれる。大島氏によると、これが「唯一、どの立場の方も、きっと『いい』と思ってくれているはず」の場面だ。逆に言えば、その他の場面は多くの人にとって「モヤモヤするんじゃないか」。「困惑」の理由を大きく2つ語った。

リベラル、左派の言葉が届かない

ひとつが、想像以上に賛否についてあいまいな人が多かった点だ。国葬前の世論調査では、大筋で反対60%に対して賛成40%。ただ、その中でも確固たる反対や賛成は少なく、60%と40%の間には

「グラデーションがすごくあって、『どちらかといえば賛成』とか『どちらかといえば反対』という層も含まれていて、割と空気を読んで、そのときのどちら側にも行くだろうな、というのを何となく想像していた」

という。だが、実際に町の声を聞いてみると、

「思っていた以上に、曖昧な答え、元々関心がなかったりとか、『どっちの気持ちも分かる』みたいな...。本当に日本的な答えというか、そういうものが多かった。ある程度想像していたが、改めて『日本人って何なんだろう?』みたいな、そこに対する困惑というものがある」

という。

もうひとつが、大島氏を含む「リベラル、左派の言葉がまだ届いていない」という点だ。銃撃事件が起きた大和西大寺駅前では、若い男性が安倍氏へのあこがれを熱弁する。国葬に反対してきた大島氏にとって、この場面は

「私は彼に対して何か説得力のある言葉を持っているだろうか、そこは結構、困惑の原因のひとつ」

でもある。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)