有名企業の多くはすでに″外資系″。日本は米中経済戦争や「中国資本」とどう向き合うべきか?
台湾の半導体大手TSMC社が熊本県菊陽町に建設中の新拠点。本格稼働は来年末からの予定だ
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「外資」について。
* * *
「これ、単なる仕返しでしょ?」。
サプライチェーン関係者のなかでちょっとした話題になった。今年5月、中国がサイバーセキュリティ上の問題があるとして、米マイクロン・テクノロジー社の半導体のインフラ設備への使用を禁止。そして立て続けに8月、ガリウムとゲルマニウムの輸出規制に踏み切った。希少金属のゲルマニウムはLEDやパワー半導体に使用されるが、コストが見合わず他国は生産を中国に依存していた。
では、なんの「仕返し」か。昨年10月、米国は高度なスーパーコンピュータや半導体製造装置と関連品目に中国への輸出規制をかけた。さらに、マイクロンのライバルとして知られる中国のYMTC(長江メモリ)社製品を禁輸リストに入れた。そして先日、かねて予定されていた、AIや先端半導体分野での中国への投資規制を発表した。
米中の経済戦争のなかで、こうした戦略物資は「軍事転用を防ぐため」という名目で事実上、政治化している。
その流れにおいて、台湾の半導体ファウンダリー大手TSMC社が熊本県に拠点を構えることを歓迎する向きがある。ただ、半導体の製造には前工程(書き込み)と後工程(切断やパッケージング)があり、後工程のうち少なくとも一部は台湾に戻すといわれる。
つまり熊本だけで半導体が完成するわけではなく、中国の台湾侵攻に際しどこまでリスク分散になるのか。いっぽうで、台湾は先端半導体の洗浄、露光などの技術を日米蘭に頼っている。つまり台湾だけでも生産できないから、すぐには侵攻しないはずだ。――このあたりが、生産面からのリアルな見方だ。
同様にサプライチェーンの現場では、中国が仕返しを"やりすぎる"とも思っていない。マイクロン製品は完全禁輸ではないし、ゲルマニウムにしてもあくまで輸出申請が厳しくなっただけだ。メンツがある国だから一定の嫌がらせはあるだろうが、ひどすぎるとWTO(世界貿易機関)に訴えられるリスクをはらむ。
またロシアと違って、加工貿易を営む国家は相互依存が激しい。日本企業がサプライチェーンを辿(たど)っていくと、どこかで中国に突き当たるし、中国企業もどこかで日米欧の企業が生産する商品にあたる。
それだけ網の目のように連関している。中国は技術の開放を訴えているが、自由主義を謳(うた)う米国がグローバル閉鎖を主導し、社会主義国家の中国が開かれた経済を掲げるとはなんたる皮肉か。こういうと批判されるが、日本は高度な二枚舌で、ヘラヘラと中国、欧米のどっちにもつかず現実主義で歩むしかない。
本来、海外からの投資を呼び込むのは良いことのはずなのに、日本では中国資本がくると大批判にさらされる。最近では、東京のトップ葬儀関連企業が中国資本に買われたことで炎上した。
しかし冷静に考えてほしい。たとえば「外国人株主 比率」で検索してみると、相当数の日本企業は外国人株主が大半だ。株式比率が33%超なら、重要な特別議決を否決できる。つまり日本の有名企業の多くはもう"外資系"だ。
今や外資の襲来を恐れるような時代ではなく、外資はすでに浸潤している。企業は自らの商圏をリアルに考えて生き残り策を見つけねばならない。中国からカネだけ出させて籠絡する日本企業の出現に期待したい。
●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI)
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
写真/時事通信社