キーンランドCはタフな馬場の札幌での台頭が見込める「追い込み馬」に要注意
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――夏の札幌開催も残り2週。今週行なわれる重賞は、サマースプリントシリーズ第5戦のGIIIキーンランドC(8月27日/札幌・芝1200m)です。例年、馬場状態がレースの行方を左右するポイントとして挙げられます。
大西直宏(以下、大西)洋芝の競馬場はひとたび雨が降ると、途端に時計のかかる馬場状態になりますからね。先週の札幌も、朝方にひと雨あった日曜日はかなりタフな条件となりました。
GII札幌記念も勝ちタイムこそ2分1秒5でしたが、出走馬全頭の平均走破タイムは2分3秒9。その数字からも、馬場発表(やや重)以上に過酷なコンディションだったことがうかがえます。
――先週の馬場の悪化を考えると、「雨が降ったり、やんだり」といった天気予報となっている今週も、重い馬場状態が続くかもしれません。
大西 開催も終盤になってきていますし、雨が降るかどうかにかかわらず、今週も時計のかかる馬場になることは変わらないと思います。そうなると、馬場適性はもちろんですが、枠順やポジション取りなどが及ぼす影響も大きいでしょう。
昨年のキーンランドCでは、勝負どころでほとんどの馬が荒れ始めてきた馬場の内側の進路を避けていったのですが、結局は馬場の最内を突いた馬が3着に粘って、4コーナーで外側に大きく膨らんでいった馬群の内側にいた馬が勝ち負けを演じました。
こうした馬場状況になると、騎手にとっても、コース取りの判断などが難しくなってきます。距離損を覚悟してでも、外側のいい馬場を求めるのか。多少馬場が悪くても、距離ロスをなくして内側を突いていくのか。
最終的には札幌競馬場での経験がモノを言うかもしれませんが、騎手としてはレース直前まで、馬場状態に気を配っておくことが重要だと思います。
――大西さんは現役時代、福島開催などでの荒れ馬場での騎乗に定評がありました。そういった馬場では、どんなタイプの馬に乗りたいものなのでしょうか。
大西 好位から安定したレースをする、いわゆる優等生タイプの馬は、実は乗りにくいかもしれません。他馬の目標になりますし、馬群に閉じ込められる可能性も高いからです。
そういう意味では、思いきった騎乗ができる馬のほうが、荒れた馬場では乗りやすいかもしれません。具体的に言えば、逃げるタイプか、追い込み型か、極端な脚質の馬ですね。
逃げ馬ならば、内ラチ沿い(1頭分だけ比較的馬場のいいところ)をピタリと徹底先行するでしょう。昨年のこのレースで3着に粘ったヴァトレニが、そうした乗り方を選択していました。先週の札幌記念でも9番人気の伏兵トップナイフが、勝負どころで同様の進路を取って2着と健闘しました。
一方、追い込み型の馬の場合は、とにかく終(しま)い勝負にかけるだけ。道中は色気を持って動こうとせず、死んだふりを装って直線で(末脚を)爆発させます。
このタイプは展開次第となりますが、うまくハマれば3年前のこのレースを勝ったエイティーンガールのように、直線一気の追い込みが決まる可能性があります。
――そうした極端な脚質の馬は、あまり人気にならないことが多いですが、特殊な馬場状態であれば、一発が期待できる魅力的な存在になりそうです。今年のメンバーのなかにそういった存在、大駆けが見込める穴馬候補はいますか。
キーンランドCでの一発が期待されるナランフレグ
大西 最も面白いのは、ナランフレグ(牡7歳)ではないでしょうか。この馬は説明不用の追い込み馬。大外一気もできれば、器用にインを突くこともできます。
春のGI高松宮記念(中京・芝1200m)は2年連続で道悪となりましたが、昨年が1着、今年も4着と奮闘。馬場を問わないのも魅力です。
何より鞍上の丸田恭介騎手が、この馬のことを熟知しています。どんな展開になっても、臨機応変に対応できるのは心強い限りです。
今回は、調教段階からブリンカーを着用。「効果てきめん」といった声も聞こえてきており、(レースへの)集中力が一段とアップして臨めるのもいいですね。
GIスプリンターズS(10月1日/中山・芝1200m)に向けての叩き台であること、唯一斤量58kgを背負うことなどが嫌われて、そこまで人気になることはなさそうですが、この相手であれば、八分の仕上がりでも上位争いに食い込んでくることは可能でしょう。
ということで、ナランフレグをキーンランドCの「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。