遠藤航のリバプール移籍に福田正博が感心 「ビッグクラブへの移籍を見据え、しっかり準備できていたのがすごい」
■遠藤航がリバプールに電撃移籍。早速プレミアリーグデビューも飾った。ブンデスリーガの下位チームからプレミアビッグクラブへの移籍は驚きをもって迎えられたが、それでも遠藤がピッチ内外で「しっかりと準備してきていたのがすごい」と福田正博は感心する。
プレミアリーグのリバプールに移籍した遠藤航
本当に驚かされた数日間だった。遠藤航にリバプールへの移籍話が8月16日に浮上すると、電撃的に交渉がまとまって8月18日に移籍が発表され、翌19日にはプレミアリーグにデビューした。
チーム練習に満足に参加できていない選手をピッチに送り出したユルゲン・クロップ監督の決断もすごいが、スクランブル発進に対応した遠藤もさすがだった。
遠藤ほどの経験があっても、ピッチに送り出された直後は緊張を覚えたようだ。しかし、退場者を出して1人少ない難しい状況でも、随所で遠藤らしいプレーを発揮した。ここからチームにフィットしていけば、さらに遠藤らしいプレーでリバプールを助けていくのではと期待させるものだった。
今回の移籍は、遠藤に強烈な追い風が吹いた側面もある。
昨シーズンまでリバプールの中盤を構成していたファビーニョ(アル・イテハド)とジョーダン・ヘンダーソン(アル・イテファク)が共にサウジアラビアへ移籍。プレシーズンマッチから中盤の守備に不安を抱えていたリバプールは、それに代わる選手としてエクアドル代表の21歳モイセス・カイセド(ブライトン→チェルシー)、ベルギー代表の19歳ロメオ・ラヴィア(サウサンプトン→チェルシー)を狙っていたものの獲得できなかった。
そうしたなかで白羽の矢が立ったのが遠藤だった。
【しっかり能力を高めてきた努力を見逃してはいけない】遠藤は30歳だ。もちろん、年齢的には30歳前後でビッグクラブに移籍する選手もいる。ただし、それはビッグクラブに近いレベルのチームでプレーしていた場合がほとんどだ。
遠藤がプレーしていたシュツットガルトは、プレミアリーグより格の落ちるブンデスリーガで1部残留を争っていたクラブである。それゆえUEFAチャンピオンズリーグ(CL)もヨーロッパリーグ(EL)の出場経験もない。クラブのヒエラルキーがはっきりしているヨーロッパサッカーの世界で、ビッグクラブへのステップアップが難しい現状は遠藤も理解していた。
それでもブンデスリーガで存在感を放っていたデュエル王に声がかかったのだから、すばらしい話だ。
ここで見逃してはいけないのが、遠藤は訪れないかもしれないその時に向けて、ピッチ内外で準備をしっかり進めてきたという点だ。
デュエルも含めたプレーの部分もそうだし、コミュニケーション能力もしかり。ひと昔前までなら「ボールがあれば、言葉ができなくても通じる」という考えが海外組の日本人選手にはあったが、いまやそういう時代ではない。長谷部誠や吉田麻也、三笘薫など、海外でバリバリプレーする選手は、きっちり現地の言葉を操っている。遠藤もしっかりと英語をマスターして準備してきた。
もちろん、海外クラブと言ってもレベルはさまざまなため、下位クラブならプレー面でお山の大将的な存在になれれば、言葉が不自由でもやれるだろう。だが、そこからのステップアップを視野に入れるなら、やはりコミュニケーション能力は不可欠なもの。また前線の選手と違って、守備側の選手は周囲とのコミュニケーションは避けられない。
そこを見据えて、遠藤がしっかり能力を高めてきた努力を見逃してはいけない。プロ選手を目指している子どもたちには、遠藤のこうした準備の部分を見習ってもらいたいと思う。
【プレミアの舞台でどうやってボールを奪うか】プレー面でリバプールでの遠藤に期待しているのは、デュエルのところだ。遠藤がブンデスリーガで活躍する以前、日本人選手はデュエルに弱いと言われてきたが、その評価を覆したのが遠藤だった。彼が球際での強さを発揮したことに触発され、ほかの日本人選手たちも力強くなった。
その部分が、プレミアリーグでどうなるかは気になっている。ブンデスリーガのフィジカル強度が低いわけではないが、プレミアリーグはさらにその上を行く。その舞台で178cmと決して大きくはない遠藤が、どうやって相手ボールを奪うのか。
彼がプレミアリーグのレベルでも存在感を発揮できれば、日本代表はさらにスケールアップするはずだ。同じプレミアリーグのブライトンで輝きを放つ三笘薫、スペインのレアル・ソシエダで躍動する久保建英がいて、遠藤もさらなる飛躍を遂げれば、3年後のワールドカップへの期待は膨らむばかりだ。
そのためにも遠藤はプレミアリーグのリーグ戦でポジションをつかむ必要がある。クロップ監督の傾向として、新戦力を獲得してもすぐに先発で起用することは少なく、時間をかけながらチームや戦術に慣らしていく。南野拓実の時もそうだったし、攻撃的なポジションに比べて、守備的な選手はなおさら顕著だ。
しかし、こうした前例はあくまで新戦力が若い場合のことが多い。つまり、30歳で経験を買われて獲得した遠藤の場合、そこまで時間的猶予は与えられないかもしれない。
前節は中盤のアレクシス・マック・アリスターが退場したことで、出場の機会が巡ってきた。ただ、この退場処分が取り消しとなり、マック・アリスターは次節以降も出場可能となった。9月の日本代表戦の前に、8月27日にニューカッスル戦、9月3日にアストン・ビラ戦と2試合あるが、ここで出場機会を得られるか。
チャンスの数は限られているだろうが、出場機会が来たら遠藤にはしっかりと存在感を発揮してもらいたい。それが可能なほど、遠藤には追い風が吹いているし、しっかり遠藤ならその風をつかまえてくれると信じている。
福田正博
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。