連日のように活躍が報じられるロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平。2022シーズンから、その全試合を現地で観戦する「ミニタニ」という男の名前を聞いたことがある野球ファンも多いだろう。

 今年3月のWBCの影響もあり、日本のメディアでも姿を見ることが多くなったその正体は、芸人のアキ・テリヤキ。身長159cmと小柄で、身長差約40cmのダルビッシュ有に扮する「ミニビッシュ」としてもアメリカではお馴染みだ。

 そんなミニタニに、アメリカでの活動、大谷の試合をすべて観ることになったきっかけや費用などの観戦裏話を聞いた。


2022シーズンにエンゼルスの全試合を観戦し、表彰されたミニタニ(写真/本人提供)

【野茂の活躍に刺激されて渡米】

 高校時代、日本テレビ系『天才・たけしの元気が出るテレビ‼』の企画「お笑い甲子園」で関東代表に選ばれたのをきっかけに、お笑いの世界へ(同期は劇団ひとり)。コントを中心にピンで活動していたミニタニだったが、日本人メジャーリーガーのパイオニアの活躍を見て渡米を意識するようになったという。

「野茂英雄さんがメジャーで活躍しているのを見て、『一回きりの人生、俺も大舞台で自分を試してみたい』と思ったんです。そこから英語を勉強して、2006年に海を渡りました。行き先は、野茂さんが活躍していた地で、ハリウッドもあるロサンゼルス。最初は語学学校に通い、アメリカの文化も学んでいきました。

 日本である程度資金は貯めていましたが、まったく贅沢はできませんでした。本来は2人で住むアパートに無理やり3人で住んだりして、当時の家賃は350ドル。ちなみに、語学学校も授業料が年間20万円くらいの格安の学校でした(笑)。同時に、コメディショーをやっている劇場にも通い詰めて、アメリカのお笑いも勉強しましたね」

 そこで生まれたのは、「アメリカでやっていけるかもしれない」という自信だった。

「もちろんすべてのショーを見たわけではないですが、『アメリカのお笑いには成長がない』と感じたんです。みんなが一様にマイクを持って、ひとりで政治のことや下ネタを話すことで笑いを取っていました。それに対して日本のお笑いは、コンビやトリオもたくさんいるし、さまざまな種類があって新たなキャラクターも次々に生まれる。アメリカに合わせるのではなく、日本で培ってきたものを生かせれば絶対にウケる、と思いました」

【大谷、ダルビッシュ本人には「あまり近づかない」】

 考えた自分の武器は「カタコトの英語を話す小柄な日本人」。アメリカのコメディアンがやっていなかった"小柄あるある"などを披露しながら反応を探り、ネタを磨いていった。

「最初にハウアーユー(How are you)というカタコト英語で挨拶すると、失笑が起きて笑いのハードルが下がるんです。そうして肩の力を抜いてもらう、お客さんの懐に入るという方法は今でも変わらないですね」

 それが、後のモノマネへとつながることになる。

 2012年、「日本にいる時から顔が似ていると言われていた」というダルビッシュ有が日本ハムからテキサス・レンジャーズに移籍したことを機に、ミニビッシュとしての活動がスタート。本物より約40cmも身長が低いキャラクターが受けてブレイクを果たした。

「レンジャースのスプリングトレーニングなどは見に行っていて、『ご挨拶したほうがいいかな』とも思いましたが、少しでもプレーの邪魔になることはしたくなかった。映像などで間接的に見てもらうことはあるでしょうが、ダルビッシュ選手本人との距離感は近くなりすぎないようにと思っています。

 ダルビッシュ選手は僕のことを認識してくださっているようで、何年前だったか知人づてに、冗談っぽく『挨拶がない』と話していたそうなのですが機会がなく......それで、当時の所属チームのブルペンキャッチャーに手紙を渡しました(笑)。それを読んでくれているかはわかりません。

 大谷選手には日本ハムがアリゾナでキャンプをやっている時に、ミニビッシュの格好でサインをもらいに行ったりしていましたね。ただ、モノマネをやるようになってからは、やはりあまり近づかないようにしています(笑)」

【全試合の観戦は「意外と安く回れる」】

 現在は主にテレビ出演と、自身のYouTubeチャンネル「TERIYAKI TIMES」で収入を得ているという。ただ、2022年シーズンから大谷の試合を全試合観戦しているとなると、仕事の機会が限られてしまいそう。大谷を追いかけて全米を飛び回り、シーズン162試合を観戦する費用は確保できているのだろうか。

「確かに『すごくお金がかかるんじゃないの?』と言われることが多いんですけど、いくつかの条件が重なってのことですが、思っているより手頃なんですよ。

 エンゼルスタジアムで試合がある時は車で行き、球場まで徒歩15分くらいのところにある無料の駐車スペースに停めます。また、エンゼルス主催の81試合の年間シートも、750ドル(約10万9500円)と購入しやすい金額です。これがドジャースだと軽く1000ドルを超えますから、『チケットを安くしても多くお客さんを入れたい』というエンゼルスならではですね。

 アウェーでの試合も、ロサンゼルスは大都市ですから飛行機も多く飛んでいるので、深夜や早朝の便であれば安くチケットが手に入ります。遠征先の空港に着いたら約2、3ドルのバスで移動。宿泊先も、ひと部屋で6、7人くらいが泊まる1泊20、30ドルくらいのところを探します。そうして出費を抑えていくと、意外と安く回れるものなんです」

 それゆえ、結局残留は決まったが、大谷にトレードの噂が広まった時には「大変なことになる」と思っていたようだ。

「移籍先の候補が挙がるたびに、そのチームや本拠地の街、試合日程などをとことん調べましたよ(笑)。試合や飛行機のチケット、宿泊先も直前に予約するとなると料金が高いですし、トレードが決まっていたら大きな出費もあったかもしれません。

 ただ、ミニタニの活動という点では新たな可能性も生まれます。大谷選手が移籍すれば大きな話題となり、テレビ出演のオファーが増えるかもしれないし、僕のYouTubeチャンネルを見に来てくれる視聴者も多くなるかもしれない。大谷選手にとっても、プレーオフ進出のチャンスが大きくなるのであれば、いい面もあると捉えていました」

 2022年に大谷が出場する全試合を観戦したことが日本のテレビでも取り上げられ、今年3月のWBCの熱狂に伴ってオファーが増大。今年のMLB開幕戦の直前には、エンゼルスタジアムで始球式を行なった。

 もちろん芸人として、知名度を上げてメディア出演を増やすことは大事なことだが、全試合の観戦を続けてそれを発信することには別の目的もあるという。

「コロナ禍などもあって、なかなかアメリカまで野球を観戦に行こうと踏みきる方が少なくなっているかもしれません。そんな今だからこそ、MLBの試合の観戦はそこまでハードルが高くない、ということを日本のみなさんにお伝えできたらと思っています。

 いざこちらに来たら、球場の迫力やイベントなどエンターテイメント性の高さに驚くと思いますし、大谷選手をはじめとした日本人選手たちが、アメリカのファンたちを熱狂させている興奮も直に感じることができます。だから日本のテレビでの中継などでは、現地の臨場感や『観戦を楽しむこと』を伝えられるよう意識しています。こんな僕でもアメリカで活動できて、全試合を見ることもできているわけですから、もう少しMLB観戦を身近に感じてくれたらうれしいですね」

 MLBの今シーズンも終盤戦。大谷らの活躍から目が離せないが、それを追い続けるミニタニにも注目すると楽しみが増えるかもしれない。

(「ミニタニ」現地レポート:大谷翔平チーム残留までの緊張感とその後の「地獄絵図」>>)

【プロフィール】
◆ミニタニ/ミニビッシュ(アキ・テリヤキ)

茨城県出身。米ロサンゼルス在住。身長159cm、体重54kg。モノマネ芸人&ユーチューバーとして活動し、ダルビッシュ有の「ミニビッシュ」、大谷翔平の「ミニタニ」のほか、DA PUMPのISSAのモノマネ「ChiSSA(ちっさっ)」も有名。日米のテレビ出演多数。今季は日本のテレビ局でエンゼルス大谷の現地リポーターとしても活動。