甲子園強豪校に共通するヒト・モノ・カネとは…「監督は現任校で指導歴11年以上」「部員数は61~100人」「専用グラウンド、留学生あり」

甲子園出場の切符を手にするための熾烈な地方大会を突破するには、技術力だけでなく野球部に携わる指導者のチームマネジメント力も問われる。国際武道大学・大西基也准教授らが、甲子園出場校に行ったアンケート調査などから、強豪校の意外な共通点を浮き彫りにする。

甲子園で勝ち上がるチームの共通点

夏の甲子園で勝ち上がるチームは何が違うのでしょうか? 私たちは国際武道大学でそんな調査・研究をしています。

昨夏も研究に基づき、「理想は11年以上!? 甲子園で監督をコロコロ代える学校が勝てない理由」

「甲子園は“初出場校が初戦で負けるのが最も儲かる”は本当か?」と2本の記事を公開させていただきました。今年は「強豪高校野球部のマネジメント」というテーマで、数々のデータをご紹介します。

私たちは「甲子園ベスト16以上」の成績を収めた経験がある高校にアンケート調査を行い、46校から回答を得ました。とくに私たちが着目しているのは、「ヒト・モノ・カネ・情報」の4項目です。

●ヒト……人的資源=監督の指導歴や指導者の人数、部員数、県外部員数など

●モノ……物的資源=グラウンドや室内練習場、照明、合宿所・寮の有無など、おもに施設や環境面

●カネ……金銭的資源=学校からの年間予算や部費徴収の有無、部費や寮費など。おもに野球部の予算に関わる内容

●情報……情報的資源=練習時間やチームの目標、年間練習試合数など部としての活動情報

ヒト・モノ・カネ・情報の経営資源を見ていくと、甲子園で勝てる強豪校の条件が見えてきます。前編では「ヒト」と「モノ」、後編では「カネ」と「情報」に分けて、項目ごとに見てみましょう。

2023年夏の甲子園はベスト16すべてが私立高

多くの野球ファンがご存知の通り、現在の高校野球界は「私立高校優位」の状況にあります。

私たちがアンケートを回収した甲子園ベスト16経験がある46校のうち、7割近くが私立高校でした(私立 67.4%、公立 32.6%)。優勝校で見ると、春のセンバツは2009年の清峰(長崎)、夏の選手権は2007年の佐賀北(佐賀)以来、公立校の甲子園優勝はありません。

2023年夏の甲子園では、出場した49校のうち、私立高校は41校、公立高校は8校。そしてベスト16に進出した全校が私立高校でした。

私立優位の背景には、「特待生制度やスポーツ推薦生制度によって能力の高い選手が入学する」「豊富な資金力がある」「充実した施設がある」といった要因が考えられます。

監督の指導歴(現任校)は11年以上が8割

次にチームを率いる監督の指導経験についてみていきましょう。

▼監督の現任校での指導歴

11~20年 45.7%

1~10年 23.9%

21~30年 19.6%

31~40年 8.7%

41~50年 2.2%

▼監督の甲子園(春夏含む)出場回数

1~ 5回 54.3%

6~10回 21.7%

11~20回 13.0%

21~30回 4.3%

データを見ると、監督が11年以上務めているチームは8割近くにのぼります。数年単位で監督がコロコロ替わるチームではなく、1人の監督が腰を据えて強化しているチームが結果を残しているのです。

今夏の甲子園出場校での最年長監督は79歳の阪口慶三監督(大垣日大)。他にも75歳の持丸修一監督(専大松戸)のような大ベテランも健在です。

監督の指導歴が長ければ、豊富な経験に基づいた確固たる指導論を持っていることは明らかでしょう。また、選手を供給する中学野球チームとの信頼関係ができ上がっているのも、長期政権を可能にするポイントです。

とはいえ、指導歴が短くても甲子園で勝っている監督もいます。

昨夏、東北勢として初の全国制覇に導き「青春って密なので」の名言も話題になった須江航監督(仙台育英)は、2018年に就任したばかり。他にも森大監督(浦和学院)や旅川佑介監督(東京学館新潟)も、監督歴は浅いものの今夏の甲子園に出場しています。

既存の高校野球チームとは一線を画す、斬新な発想でイノベーションを起こそうと奮闘している監督もたくさんいるのです。

野球部の適正部員数は何人か?

調査したなかには3学年合わせて150人前後の部員を抱える大所帯もありましたが、強豪校の部員数はおおむね1学年あたり20~30人程度のようです。

▼部員数

61~ 80人 26.1%

41~ 60人 23.9%

81~100人 23.9%

101~120人 10.9%

21~ 40人 6.5%

121~140人 6.5%

141~160人 2.2%

部員数が多すぎると、練習の効率が悪くなるという問題点があります。1人当たりの打撃練習で打てる本数、守備練習でノックを受ける本数が減るようなリスクがあるのです。その一方で、大勢の部員で練習に取り組むことで一体感が高まり、チームワークが生まれるメリットもあります。

部員数が少ないチームでは練習が効率的に進められるメリットがある反面、競争が生まれにくくなるデメリットもあります。人数に関係なく、選手が集中して質の高い練習ができるよう環境を整備・工夫しているチームもあります。

それぞれの練習環境、指導者の人数、指導者の理念によって、チームに合った適正部員数が見えてきます。

強豪校に女子マネは少ない?

次に「強豪校と女子マネージャー」についてです。甲子園などでもたびたび話題になる女子マネージャーですが、ここでは「0人」というチームが47.8%にのぼりました。

2023年夏の甲子園大会。試合前練習で、ノッカーの尾崎監督にボールを渡す宇部鴻城(山口)の岡野美和さん

▼女子マネージャーの人数

0人 47.8%

1~ 3人 19.6%

7~ 9人 15.2%

4~ 6人 13.0%

10~12人 2.2%

無記入 2.2%

とはいえ、ジェンダーレスが叫ばれて久しい現代では、女子マネージャーのあり方も見直されつつあります。以前まではドリンクの準備、ユニホームや道具の補修、スコアの記入などが女子マネージャーの仕事でした。近年はノックの補助(球つぎ)に留まらず、自らノックを打って話題になる女子マネージャーも出てきました。

組織は全員が華々しい主役になれるわけではありません。たとえ地味な裏方に見える存在であっても、やりがいをもってアクティブに働いてくれる存在が組織を支えています。

「野球留学生」は是か非か?

高校がある都道府県外の地域から越境入学する野球部員は一部で「野球留学生」と呼ばれ、しばしば批判の対象になります。今夏の甲子園では、八戸学院光星(青森)と高知中央(高知)のベンチ入りメンバーで地元の県内出身者が2名ずつに留まりました。私たちの調査では、県外部員数の人数は以下のようになりました。

▼県外部員数

1~20人 50.0%

0人 19.6%

21~40人 15.2%

41~70人 13.0%

無記入 2.2%

甲子園ベスト16経験校のなかで県外出身の部員が在籍するチームは約80%、その中で21名以上在籍するチームは約30%でした。夏の甲子園は地方大会を勝ち抜いた49校が出場する構造になっていることもあり、地元出身選手が少ないと地域のファンから応援されにくい一面があります。ただし、一概に「県外部員」と言っても、自宅が隣県の境にあり、通学しているケースもあります。

近年では、「少子化の影響で都市部から越境入学生を呼ばないと学校経営が成り立たない」「越境入学生であってもその地域を選び、汗を流したのだから問題ない」「地元出身の球児が越境入学生から刺激を受け、地域のレベルを高めている」など県外部員に好意的な見方も出てきています。

また、県外部員にとっても高校生にして故郷を出て、寮で仲間たちと共同生活する3年間は大きな実りとなります。越境した地域を「第二の故郷」ととらえ、愛着をもつ県外生も多いようです。

県外部員の存在が「私立優位」の勢力図を生み出す一因になっている可能性はありますが、過疎化が進む地域の振興を促す側面もあるのです。

専用グラウンドや合宿所は必要か?

続いて「モノ」にまつわるデータです。

▼専用グラウンドの有無

あり 67.4%

なし 32.6%

専用グラウンドを有するチームが7割近くを占めています。それでも30%超のチームに専用グラウンドがなく、他部と共同利用するなど限定された練習環境で高い競技成績を収めている点にも注目したいところです。今夏の甲子園に初出場した共栄学園は、専用グラウンドを持たずして激戦の東東京大会を制しました。

専用グラウンドがないチームには、遠征費や球場使用料が費用としてかかると考えられますが、専用グラウンドを持っている野球部でも、絶えず維持費がかかります。雨でぬかるみ、水たまりができると黒土や砂を入れて整備しますが、その購入費用がかかります。

予算に余裕のあるチームでは、プロの業者に依頼して定期的にグラウンドのメンテナンスをしています。グラウンド整備用のトラクターを所有している野球部もあります。グラウンド整備に必要なトンボ・レーキ・コートブラシなどの道具も修理しながら使用しますが、消耗品ですので定期的に購入が必要になってきます。

周囲に住宅の多い土地では、グラウンドから舞う土ぼこりがトラブルの原因になりかねません。定期的にスプリンクラーなどで水をまいたり、防砂ネットを施工したりする必要が出てきます。

一方、人工芝のグラウンドは土ぼこりが立たず、雨でグラウンドが激しく傷むこともありませんが、施工するには高額な費用がかかります。

「グラウンド整備は野球部員がやるものだから、金はかからない」と思われがちですが、グラウンドのための経費も意外と無視できないのです。

近年、高校球児の体がたくましくなっている背景

近年、高校球児の体がたくましくなっていると感じないでしょうか。トレーニングだけでなく、食事や休養の大切さが現場で周知され、進化した結果だと感じますが、背景には寮や合宿所の整備もあげられます。

▼寮・合宿所の有無

あり 69.6%

なし 30.4%

寮で食事を出す高校の場合、入寮前に部員に食物アレルギーの有無を確認し、部員に応じて適切なメニューを組む必要が出てきます。

また、部員に栄養価の高い食事をとらせるために、クオリティーの高い食材を使い、食べ盛りの球児を満足させるだけの量をつくりたいところ。でも、それを実現するには当然ながらコストがかかります。

一番簡単なのは寮費を高くすることですが、家計が圧迫されるため、敬遠されるリスクがあります。一般的な寮費の金額に設定し、不足分を学校が補う、もしくは後援会やOB会にバックアップしてもらうケースもあるようです。

取材・構成/大西基也 百武憲一 菊地高弘

写真/shutterstock

引用・参考文献

大西基也,百武憲一,岩井美樹(2018)高等学校硬式野球部の経営に関する研究-甲子園ベスト16経験のある硬式野球部を対象として-.国際武道大学研究紀要,34:21-27.