2023−24のセリエAを予想するのは、まるで難解なパズルを読み解くようなものだ。移籍市場はまだまだ開いていて、チームの図柄は日々変わっていく。

 理由のひとつは、この夏激しく巻き起こっているサウジアラビアブームにある。ビッグクラブでさえ慣れていないようなとんでもない数字で移籍市場を土台から揺るがし、これまで確実だったものをなぎ倒している。チームが地道に交渉しほぼ決まっていた移籍や契約延長が、たった一夜で変わってしまう。その最たる例はラツィオのセルゲイ・ミリンコヴィッチ・サヴィッチだろう。彼ら(アル・ヒラル)は28歳のトップ選手を、大金で連れて行ってしまった。

 セリエAで優勝を狙える主要7チームのこれまでの動きを見ていこう。

 まずはスクデット(優勝の盾)を胸に新シーズンを戦うナポリ。だが勝利をもたらした監督はもうそこにはいない。ルチアーノ・スパレッティ(イタリア代表監督に就任)はリュディ・ガルシアにとって代わった。ナポリは新体制に慣れるまで多少の時間が必要となるだろう。ナポリのメルカート(移籍市場)での成功は、ヴィクター・オシムヘンとフヴィチャ・クヴァラツヘリアという、昨シーズンのベストプレーヤーを手放さなかったことだ。一方、補強では22歳のブラジル人DFナタン(バイエルンに行ったキム・ミンジェの後釜)、スウェーデン代表MFイェンス・カユステを獲得したが、知名度は低い。スクデットを守るのはかなり難しそう、というのが私の正直な感想だ。

 インテルのこの夏の補強は、イタリア最高の若手MFと呼び声の高いダビデ・フラッテージに、リリアン・テュラムの息子マルクス・テュラムと、華々しく始まったが、その後は一気に減速した。

 インテルが何を置いても目指していたのは、チェルシーからレンタル中のロメル・ルカクの完全移籍だった。しかしルカクはまず「イエス」と答え、次に「ノー」、また「イエス」と、さんざんインテルを翻弄した挙句、ユベントスに「浮気」しようとしている。この態度はインテルの怒りを買い、すべての話はご破算になった。

【顔ぶれが変わったミラン】

 おかげでインテルはラウタロ・マルティネスとコンビを組むCFのレギュラーを必死で探すことになった(ジェコはフェネルバチフェに移籍)。そんななか、ボローニャから移籍してきたのは34歳のオーストリア人FWマルコ・アルナウトヴィッチだった。要するに、インテルが当初描いていた青写真に比べると、かなりお粗末な攻撃陣になりそうなのだ。これが新シーズンにも大きく影響することになるだろう。

 一方、ミランはかなり顔ぶれが変わった。元イングランド代表のMFルーベン・ロフタス・チーク、オランダ代表MFのタイアニ・ラインデルス、そしてナイジェリア代表のアタッカー、サムエル・チュクウェゼの3人が加入した。

 インテル同様、ミランもアキレスの踵はCFだ。オリビエ・ジルーとは1年契約を更新したが、彼に何かがあった時の代わりがいない。ミランのようなビッグチームでCFという重要なポジションが人材不足とは由々しき問題である。ミランにしろインテルにしろ、チャンピオンズリーグ(CL)を戦ううえで、小さな問題ではないだろう。

 今度は首都の2チームを見てみよう。

 まずはローマ。やる気がないような気の抜けたメルカートでの動きに、ジョゼ・モウリーニョ監督は不満げだ。主要選手のネマニャ・マティッチ(レンヌ)とロジェール・イバニェス(アル・アハリ)が出て行っただけでなく、ジョルジニオ・ワイナルドゥムもパリ・サンジェルマンに帰ってしまった。マティッチはチームでも最も経験のある有能な中盤の選手。またイバニェスはセンターバックだが、攻撃時の彼のヘッドに助けられることは少なくなかった。

 代わりに加入したのはデンマーク代表DFラスムス・クリステンセン、元フランクフルトのDFエヴァン・エンディカ、アルジェリア代表MFフセム・アワール、ポルトガル代表MFレナト・サンチェス。もっとパッとした補強を期待していたローマニスタにとってはどれも残念な名前ばかりだ。トミー・アブラハムがケガから復帰するまで(2024年2月という話だ)、攻撃陣はパウロ・ディバラとアンドレア・ベロッティしかいない。ディバラはすばらしいシュートを放つがケガが多く、ベロッティは黄昏の道を歩んでいる。

【鎌田は右サイドハーフに】

 そして昨シーズン、2位につけたラツィオ。監督のマウリツィオ・サッリは、出足が遅いまま、ついぞ軌道に乗ることがなかったこの夏の補強について公然と嘆いている。オイルマネーに奪われたミリンコヴィッチ・サヴィッチは中盤で重要な役割を担っており、彼の抜けた穴はラツィオに危機をもたらしている。


レッチェとの開幕戦を8月20日に控えた鎌田大地(ラツィオ)photo by PA Images/AFLO

 この穴を埋めるためにラツィオは、まずユベントスから若手有望株のニコロ・ロヴェッラをレンタル。さらにアイントラハト・フランクフルトで好成績をあげていたMF鎌田大地に白羽の矢を立て、獲得に成功した。冨安健洋と吉田麻也が去って以来、イタリアに再び日本人選手が戻って来たのだ。

 鎌田はラツィオで初となるプレシーズンマッチで活躍を見せ、ゴールも決めた。サッリの4−3−3のなかでは、フェリペ・アンデルソンの後方の右サイドハーフに入ることになるだろう。攻撃を担うのはお馴染みのイタリア代表、チーロ・インモービレ(彼は中東からの誘いを断った)とマッティア・ザッカーニだ。だが、リーグとCLの双方で戦うには、まだ何かが足りない気がする。

 スクデットを争うかもしれない6つ目のチームはジャン・カルロ・ガスペリーニ率いるアタランタだ。厳しい今年のメルカートで、それなりの成果を出したチームであると思う。彼らは将来有望な選手(そのうちのひとりがGKのマルコ・カルネセッキだ)と、再起に燃えているジャンルカ・スカマッカやシャルル・デ・カテラーレなどを獲得した。ガスペリーニならきっと彼らを復活させることができるだろう。

 そして最後はユベントス。プレーとは関係ないファイナンシャルフェアプレーの部分でユベントスが大きく影響されていることは、皆さんもご存じのことだろう。UEFAの裁定により、ユベントスは昨シーズン手に入れたヨーロッパのカップ戦の末席のカンファレンスリーグにさえ出場できない。それは同時にセリエAに集中できることも意味するが、制裁により選手の補強が難航しているのも事実だ。

 契約更新をせずにインテルに行ったフアン・クアドラードの後釜には、ジョージ・ウェアの息子、ティモシー・ウェアが入るが、それ以外に目ぼしい補強はない。あとはルカクがどうするかだろう。

 マッシミリアーノ・アッレグリ監督は、ドゥシャン・ヴラホビッチをチェルシーに売却した金でルカク獲得に強く乗り出そうと考えているが、メルカートが閉まる最後の最後まで何が起こるかはわからない。最終日の玉突き移籍はよくあることだ。たとえばずっとサッスオーロを見捨てなかったアッズーリ(イタリア代表)のCFドメニコ・ベラルディが移籍に合意すれば、フェデリコ・キエーザは出ていくことになるだろう。

 こうして見ると、どこも補強はパッとしないというのが正直な感想で、7シスターズのどこが勝ち上がってきてもおかしくない。だからこそスタートダッシュを制したチームはかなり有利になるのではないだろうか。

 残りのフィオレンティーナ、トリノ、ボローニャ、ウディネーゼはEL圏内を狙って戦うだろう。そしてカリアリ、ジェノア、モンツァ、サレルニターナ、エンポリ、フロジノーネ、レッチェ、ヴェローナ、サッスオーロの目標は、一日も早く降格圏内から抜け出すことになる。