2022年4月からパワハラ防止措置の義務化が大企業だけでなく、中小企業にも適用され1年が経った。

普段、職場上司の指示・指導方法に抱く不満。

それが果たしてハラスメントに当たるのかどうかの判断は難しい。

第6回は、職場である食べ物を食べたらパワハラと言われた案件を取り上げる。

休憩中に好きなものを食べてはいけないと言われたら…、どうする?

取材・文/風間文子

前回は:「私の企画書のほうが良くないですか?」指示に従わない新人に、困り果てたOJT担当女性がとった行動




ケース6:健康に気を使うブライダルコーディネーター・菅野宏樹(29歳)の場合


結婚式は、良くも悪くも、一生残る思い出だ。

ブライダルプロデュース会社に勤務する菅野宏樹(29歳)は、自分の仕事にやりがいを感じていた。

結婚式を挙げたいと考えている客との面談や問い合わせに対応し、ヒアリングを通して自社プランの提案を行う。

また、ブライダルフェアと呼ばれるイベントを企画し、挙式会場や披露宴会場を案内したり、料理の試食会を行いながら、自社会場の魅力を体験してもらうことも重要な仕事だ。

新型コロナの影響もようやく落ち着き、客からの問い合わせが殺到し、菅野のテンションは上がっていた。

この日も、具体的に話を進めたいというカップルとのアポイントメントを済ませ、意気揚々とオフィスに戻ってきたところだった。

「お疲れさまです!」
「菅野くん、お疲れ。打ち合わせ、どうだった?」

声をかけてきたのは先輩社員の小柳美雪(33歳)だ。

「感触は良かったです。とくに表参道の会場プランは新婦が気に入ってくれて」
「やったじゃん、頑張ってプランを練った甲斐があったね。じゃあ、今のうちに昼食を食べてきたらどう?」

多忙なのはありがたいことだが、おかげで休憩時間も定時に取れず、昼食は空いた時間を見つけて各々で食べることが当たり前になっていた。

その際、外に食べにいく社員もいれば、弁当を持参する社員もいる。この弁当派が使うのが、オフィス横にある休憩室だ。




もとより弁当派である菅野は、誰もいない休憩室のテーブルに腰を下ろした。

「やばい、美雪先輩に褒められちゃったよ〜」

浮かれる彼が弁当袋から取り出したのが二段重ねの弁当箱と、パックに入った納豆だ。

「納豆に入っている納豆菌には整腸作用や免疫力アップの効果があって、継続して食べることが重要なんだよな」

そんな独り言をつぶやきながら、菅野が納豆をかき混ぜていると、誰かが休憩室のドアを開けた。

背後に立っていたのは、菅野の後輩社員・横田明日香(25歳)だ。

彼女は、菅野が苦手とするタイプだ。彼にはもちろん、大先輩である小柳美雪に対しても、時々タメ口をきいたり、舐めたような態度をとったりする。おまけに、挨拶もろくにできない。

「おお、お疲れ」

この時も、菅野が声をかけたにもかかわらず無視だ。


後輩社員が突然怒り出した、その理由は?


横田は休憩室に入ってきたものの、仁王立ちしたまま動こうとしなかった。

「どうした、座らないの?」

菅野は、いつまでも自分の真後ろに人が立っているのが気になって仕方がない。

しかし、それでも彼女は動こうとしない。挙げ句、これでもかというくらいに大きな声で叫んだのだった。

「ちょっと、この匂い、なに!?」




突然の大声に驚く菅野だったが、一方の横田は彼が手に持っている納豆を見た瞬間に険しい表情を浮かべた。

「…先輩、何を食べてるんですか?」
「え?納豆だよ。健康にいいんだ」

横田は、まるで汚物を見るかのような視線を菅野に向けた。

「なんで、職場に納豆を持ち込んでるわけ?先輩、自分がやってることが周囲の人に迷惑になるかもって、考えたことあります?」

その声は明らかに不機嫌そうだった。

「もしかして、臭う?」
「臭う!とても不快なので、早く何とかしてください!」

悲鳴にも似た声をあげる横田に対し、菅野は大袈裟だなと思いつつ、仕方なく納豆を口にかき込んだ。それがまた、彼女には気に食わなかったらしい。

「先輩、聞いてますか?」
「いや、ちゃんと後で歯を磨くし、ブレスケアだってやるよ」
「先輩ってバカでしょう?…私、もう一生、先輩と話をしたくないです!」




「さすがにそれは言い過ぎだろ」と菅野が反論しようとするも、横田は「やめて、喋らないで!ほんとキモい!!」と距離を置くのだった。

そして、何事かと休憩室の周囲に集まってきた小柳美雪や他の先輩らの前に駆け寄って助けを求めている。それはまるで、菅野が「悪者」という構図だ。

さらに、横田が発した次の言葉に、菅野は自分の耳を疑った。

「ほんと、信じられない。これって先輩という優位性を利用した嫌がらせですよ。…私、パワハラで会社に訴えます!」

「…ただ納豆を食べていただけなのに、俺がパワハラ?」

臭いが苦手だという人もいるが、勤務中に納豆を食べるのは果たしてパワハラだろうか。貴方のジャッジはいかに!?


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オフィスのデスクに家族の写真を飾っていたら…



監修:株式会社インプレッション・ラーニング
代表取締役 藤山 晴久

全国の上場企業の役員から新入社員を対象とした企業内研修や講演会のプランニング、講師を務める。「ハラスメントに振り回されない部下指導法」 「苦手なあの人をクリアする方法」などテーマは多岐にわたる。