バイエルンは「ほぼドイツ代表」日本代表の9月欧州遠征に向けて注目の陣容だ
1965−66シーズンにスタートしたブンデスリーガ。昨季までの57年間でバイエルンは32回優勝を飾っている。2012−13シーズン以降はなんと11連覇中だ。向かうところ敵なしの状態である。
またチャンピオンズリーグ(CL)の優勝回数の6回は、レアル・マドリード(14回)、ミラン(7回)に次ぐ3位タイの成績だ。
レアル・マドリード、アヤックスと並んで、CLで3連覇(1973−74、1974−75、1975−76シーズン)を達成したチームのひとつでもある。1975年1月。バイエルンはその3連覇の最中に初来日を果たしている。国立競技場に満員の観衆を集め、日本代表と2試合を戦った。
西ドイツが自国開催の1974年W杯で優勝を飾った半年後でもあった。主将を務めたフランツ・ベッケンバウワー、オランダとの決勝戦で決勝ゴールを叩き出したゲルト・ミュラー、ゴールを守ったゼップ・マイヤーなど、決勝戦に先発した11人中6人がバイエルン所属の選手だった。
ドイツといえばバイエルン。欧州各国の国内リーグでバイエルンほど突出したチームはない。言い換えれば、バイエルンはドイツ臭いチームだ。けっしてイングランド臭くない、どこか無国籍的な雰囲気がする7月26日の対戦相手、マンチェスター・シティとの違いでもある。
マヌエル・ノイヤー、ヨシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカ、ジャマル・ムシアラ、レロイ・ザネ、トーマス・ミュラー、セルジュ・ニャブリ。
2022年カタールW杯のドイツ代表メンバーにはこの7人が選ばれている。このうち日本戦にはザネを除く6人が出場。まさかの敗戦を喫することになった。ノイヤーとトーマス・ミュラーはケガのため今回の来日メンバーに含まれていないが、それでもドイツ臭はぷんぷんと漂う。彼らがカタールW杯の結果を引きずっていて、日本を少なからず意識するならば、2戦目の川崎フロンターレ戦(7月29日)は手の抜けない試合になる。
2、3年前ならともかく、現在の川崎は日本代表に迫るチームではなくなっているが、日本の代表として最大限の善戦を期待したい。
【マンチェスター・シティとの違い】
代表チーム的な視点で現在のバイエルンを眺めたとき、羨むべき存在にとして映るのが、今季ナポリからやってきた韓国代表のCBキム・ミンジェだ。昨季はチームの主力としてセリエAを制し、CLでも準々決勝を戦っている。韓国の欧州組は日本人に比べると、数では大きく劣るが、マックス値では勝っている。
韓国人選手としてパク・チソン(当時マンチェスター・ユナイテッド)、ソン・フンミン(トッテナム・ホットスパー)に続く、3人目のCLファイナリストになる可能性を秘めている。マタイス・デ・リフト、ダヨ・ウパメカノというスタメン候補を抑えて出場することは簡単ではないが、アーセナルの冨安健洋より視界は良好と見る。
ナポリからバイエルンに移籍した韓国代表のキム・ミンジェ(右)とマタイス・デ・リフト
バイエルンは監督もドイツ人だ。昨季3月、解任されたユリアン・ナーゲルスマンの後任としてその座に就いたトーマス・トゥヘルである。CLではちょうどマンチェスター・シティと準々決勝を戦うタイミングだった。初戦0−3、第2戦1−1。合計スコア4−1でバイエルンは準決勝進出を逃した。
両者を眺めたとき、一番の違いは、両ウイングの位置取りにあった。マンチェスター・シティのベルナルド・シウバ(右)とジャック・グリーリッシュ(左)が左右のタッチ際に、迫り出すように構えたのに対し、バイエルンはザネとキングスレイ・コマンの両ウイングが左右非対称に構えた。左のザネが1トップ下然と内に入り込むようにポジションを取ったのだ。
その結果、左からの攻撃が滞った。左SBアルフォンソ・デイヴィスも、攻撃参加する場合は単独突破になるため、リスクを考えたのだろう、後方待機を強いられた。一方、マンチェスター・シティはサイドの深い位置にボールが納まるので、そのウイング攻撃には安定感があった。ボールを奪われても自軍ゴールまでの距離が遠く、反転速攻を浴びにくい体制にあった。
CL準決勝初戦ではこの差がスコアに直結した。サイドアタックをきれいに決めたマンチェスター・シティに対し、バイエルンは真ん中に入り込んだザネが、四方をプレスの網に囲まれ、ボールを奪われたことで決定的となる3点目を献上することになった。マンチェスター・シティが深々と攻めたのに対し、バイエルンは浅かった。今回はどうなのか。両軍のウイングのポジショニングを注視したい。
【臨機応変型のトゥヘル監督】
マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督が、攻撃的サッカーの崇拝者であることは言うまでもない。ブレることなく追求しているのに対し、バイエルンのトゥヘル監督は臨機応変型だ。攻撃的かと思えば守備的に戦うこともよくある。布陣もオーソドックスな4バックから、守備的な5バックになりやすい3バックまで、相手に合わせて使用する。
想起するのは、グアルディオラと一時、ライバル関係にあったジョゼ・モウリーニョだ。勝ちにこだわるサッカーである。カタールW杯本番でカメレオンのように豹変した森保一監督と同じタイプと言えるのかもしれない。
バイエルンのサッカーを攻撃的にしたのは、他でもないグアルディオラだ。2013−14から3シーズン、監督の座に就くと、ドイツサッカーは少なからずその影響を受けた。右SBのフィリップ・ラームを守備的MFとして起用するアイデアを、時の代表監督ヨアヒム・レーヴもそのまま取り入れ、2014年ブラジルW杯を戦った。ドイツ優勝の背景にバイエルン監督の姿がのぞいたものだ。
昨季終盤、けっして攻撃的とは言えないトゥヘル監督を迎えたバイエルン。そのサッカーはどう変わるのか。「代表チームのサッカーはクラブからの借り物だ」とは欧州サッカー界の常識だが、バイエルンとドイツ代表の関係はさまざまな意味で濃密だ。代表チームの主力を7人も抱えるクラブチームは、いまどきそうザラにないのである。
そのドイツ代表と日本代表は9月にアウェー戦を行なう。今回のバイエルンの2試合は、そのスカウティングにも適した試合となるだろう。とくと目を凝らしたい。