2021年の夏にヴィッセル神戸からスコットランドへと旅立った古橋亨梧は、わずか2年間でセルティック・ファンの心を完全に虜(とりこ)にしてしまった。

 1シーズン目はケガもあり12得点にとどまったものの、2022-23シーズンは驚異的なペースでゴールを量産。27ゴールを挙げて欧州主要リーグでは日本人初となる得点王に輝くとともに、3冠達成の立役者としてMVPにも選出されている。


スコットランドで昨季得点王とMVPに輝いた古橋亨梧

【170cmながら特別な存在】

 しかし、セルティックのアイドルは日本代表ではもどかしい時間を過ごした。代表のスタイルになかなかフィットできず、有力視されていたワールドカップのメンバーからも落選。それでも今年6月に代表復帰を果たすと、エルサルバドル戦では久しぶりにゴールを決めている。

 その代表戦からおよそ1カ月、束の間のオフを経てリフレッシュした古橋は、セルティックの一員として日本へ凱旋した。

 前田大然、旗手怜央、岩田智輝、小林友希と、セルティックのスタメンには4人の日本人選手が名を連ねた一方、古橋はベンチスタート。出番が訪れたのは3-4と1点ビハインドで迎えた68分のこと。屈強な選手たちが居並ぶセルティックのなかで、170cmの小柄なストライカーはひと際小さく映った。

 神戸に在籍していた頃、古橋は筋トレをしないと話していた。大事なのはパワーではなく技術であり、相手のパワーにはポジショニングや動きの質で対抗すればいいだけだと。

 その言葉どおり、古橋の特長はやはり、その動き出しにある。チャンスと見るや瞬間的に加速し、一気にエリア内へと入っていく。

 この日のチャンスは数えるほどで、ゴールは生まれなかったが、一瞬でフリーになるその動きには目を見張るものがあった。古橋亨梧というプレーヤーがこのクラブにおいて、特別な存在であることがうかがえた。

【ロジャース新監督の意向は?】

 古橋の主戦場であるセンタフォーワードとしてスタメン出場した前田が、古巣相手にハットトリックを達成したのに対し、古橋は無得点に終わった。時間は限られ、主力が退いたあとでの出場という状況の違いはあったとはいえ、常に結果が求められる立場であることを理解する古橋は、悔しさを隠さなかった。

「流れを作れた部分もありましたけど、悪い流れになり、失点も重ねてしまってよくなかった。そのなかで何かしないといけなかったんですけど、何もできなかった。負けてしまったのは悔しいですし、僕もチャンスは何個かあったので決めきりたかった」

 得点王であり、MVPでもある古橋だが、新シーズンの立場は決して安泰ではない。なぜなら理解者であるアンジェ・ポステコグルー監督がイングランドへと去り、新監督の下でスタートを切るからだ。

 2度目のセルティック監督に就任したブレンダン・ロジャーズは、かつてはリバプールで指揮を執り、昨季はレスターを率いた実績十分の指揮官である。監督が代われば、立場や役割が変わるのは、プロの世界では当然のこと。古橋にも小さくない危機感が備わっているに違いない。

 実際に古橋の役割は、昨季とは違っているように見えた。最前線で相手DFと駆け引きするのではなく、ポジショニングはやや低め。トップ下、あるいは2トップの一角としてボールに絡んでいった。

 指揮官とすれば多くのことを試したいプレシーズンの試合であり、1点を追いかける状況だったこともあるのだろう。強さと高さを備えた韓国人ストライカーのオ・ヒョンギュが最前線に位置取り、その後方から飛び出していく役割を担っていた。

 もっとも、この新たな役割に、古橋は手応えを得られなかったようだ。

「お互いの位置を見て、バランスを取りながらやっていました。自分も(ボールを)引き出すようにとは言われていましたけど、なかなかいい形で前にボールが来なかったなかで、うまく引き出せなかった。

 もう少しいいポジションを取りながら、ボールをつなぎながら、中継役というのもこなしながら、前に仕掛けられたらと思いましたけど......」

【4年契約を結んだ古橋の覚悟】

 裏抜けだけではなく、ライン間でボールを引き出し、時には出し手としての役割も求められる。その仕事をまっとうするのは決して簡単ではなさそうだが、とはいえ、まだ新チームは始動したばかりである。試行錯誤を繰り返しながら、アジャストしていくのだろう。

「監督がやりたいサッカーに、自分たちがやってきたことを混ぜながらちょっとずつやっていければ。今日も結果的に4点も取れたので、これからも継続してやっていきたい。

 いかに組織的に守ってゼロで抑えるか。そのなかでチャンスを作って、決めきる力をつけていけるか。チャンピオンズリーグに出る意味でも力をつけていかないといけないので、そういうところをみんなで頑張っていきたい」

 ステップアップの可能性もありながら、新たにセルティックと4年契約を結んだ古橋には、相当の覚悟があるはずだ。無敵を誇る国内での戦いはもちろん、昨季は1勝も挙げられずグループステージ敗退に終わったチャンピオンズリーグでの活躍も思い描いているだろう。

 それが実現すれば、日本代表にも不可欠な存在となる。まだ28歳──。昨季、日本人で最もゴールを奪ったストライカーの伸びしろは、十分に残されている。