江坂任は今。韓国で奮闘するチャンスメーカーの苦悩「100%にはほど遠いパフォーマンス」
昨季まで浦和レッズでプレーしていた江坂任の移籍が発表されたのは、昨年12月のこと。
一昨季には28歳にして初めて日本代表にも選ばれるなど、遅咲きながら優れた才能を開花させていた江坂だったが、昨季は浦和での出場機会を減らしていたことを考えれば、移籍を決断したこと自体に特別な驚きはなかった。
とはいえ、意外だったのは、その移籍先。江坂が新天地として選択したのは、Jクラブではなく、韓国1部リーグの蔚山現代FCだったからだ。
「新たな地、そして誰も知らないところで、自分がサッカー選手としても、人としても、まだ成長できるのではないかと思い、決断しました」
自身初の海外移籍に際し、そうコメントしていた江坂は現在、どんな思いでプレーしているのだろうか。
2021年3月には日本代表入りを果たした江坂任。現在はKリーグで奮闘中
韓国での新たな挑戦がスタートして、およそ5カ月。未知の世界で、苦悩や葛藤を抱えながらも前へと進み続ける"アタル"(Kリーグでの登録名)が、胸の内を明かす。
「やっぱり(韓国のサッカーは)日本のサッカーとは違うし、難しい部分ももちろんある。そこにうまく順応しなきゃいけないなっていうのは、こっちに来てから思っています」
そう語る江坂が所属する蔚山現代は、昨季のKリーグ王者であるばかりでなく、今季(第23節終了時点。以下同じ)も2位に勝ち点差12をつけて首位を独走中。そんな圧倒的な強さも、日本からやってきた新戦力の適応を難しくさせる側面があるという。
「チームの調子がいいので、変えなくていい部分もあれば、内容のところでは押されているゲームが何試合もあるので、変えなきゃいけない部分もある。でも、勝っているからガラッとは変えづらかったり......。そこは難しいところです」
隣国のサッカーに順応することの難しさを口にする江坂が、「日本との違い」として挙げたのは、主に2点。
まずは、「日本よりはロングボールが多いので、そのなかで自分のよさを理解してもらって、そのよさを出していかなきゃいけない」ということ。
そして、「他のチームはわからないけど、蔚山に関しては(プレーの約束事に)そこまで細かいディテールはないので、うまく選手同士で合わせていくしかない」ということだ。
いずれにしても、ひとたびパスを受ければ、時にワンタッチで、時にタメを作って、多彩なキックを駆使してビッグチャンスを作り出す。そんなプレーを得意とする江坂にとっては、自身の特長を発揮できるかどうかを左右する重要なポイントである。
江坂が続ける。
「言葉の壁だったり、文化の違いもあるので。そこをうまく理解して、理解してもらって、というのが難しい部分かなと思います」
しかしながら、試合中の江坂を見ていると、しばしば前線の選手やDFラインの選手と言葉をかわす様子が見てとれる。背番号31が言葉とともに繰り出す大きな身振り手振りを見ていると、スタンドの記者席からでも彼が何を伝えたいのかがおおよそわかるほどだから、きっとチームメイトも理解できているに違いない。
「一応(コミュニケーションは)とれてはいるんですけど、ゲームのなかで流れや状況が変わるので......。でも、自分が伝えたいことは伝えようと思っています」
そんな前向きな姿勢がひとつの結果となって表れたのは、6月に行なわれた第18節の済州ユナイテッドFC戦。江坂はこの試合で、記念すべきKリーグ初ゴールを決めている。
「だいぶ時間はかかりましたけど、それはよかったかなと思います」
そもそも江坂は、チームのなかでも明らかにボールを扱うテクニックに優れているうえ、ボールを止めたり、蹴ったりする時のちょっとしたフェイントで相手選手の逆をとる技術にも長けている。周囲との連係さえとれてくれば、ゴールが生まれるのも時間の問題だったのだろう。
もちろん、江坂本人は自身の出来について、「まだまだ全然。自分の100%には程遠いパフォーマンスだなって感じます」と辛口評価。ケガの影響もあったとはいえ、12試合出場1ゴールという成績に、満足しているはずもない。
しかし、初の海外暮らしにも「生活はもうだいぶ慣れたし、言葉もプレーに関しては問題ないぐらいにはしゃべれるようになった」と江坂。
だからこそ、「やっぱりプレーをもうちょっと充実させたいなっていうところが一番なので。チームは首位に立って(2位との)勝ち点もだいぶ空いているので、そこで(調子のいいチームに)自分をうまく融合させられればなと思います」と、シーズン後半でのさらなる活躍を期している。
Kリーグ王者のトップ下として、徐々に持ち前の攻撃センスを披露し始めたアタル。本領発揮はまもなくである。