パ・リーグ新人王は4年連続投手が受賞しており、今年もオリックスの山下舜平大を筆頭に投手陣の活躍が目立つ。その山下は新人王どころか、最多勝争いを繰り広げるなど、現時点では独走状態にある。はたして、山下を追う逸材は誰なのか。新人王受賞歴のある攝津正氏に、パ・リーグ新人王レースの行方を占ってもらった。


プロ3年目のオリックス・山下舜平大

【大本命・山下舜平大の対抗馬は】

── まもなく前半戦が終了しますが、今シーズンのパ・リーグ新人王争いをどう見ていますか。

攝津 新人王の本命は、やはり山下舜平大(オリックス)投手ですね。WBCに出場した影響で山本由伸投手や宮城大弥投手が登板を回避したとはいえ、プロ初登板での「開幕投手」から5連勝。ここまで(7月11日現在/以下同)7勝をマークし、最多勝の可能性もあります。しかも防御率は1点台。この調子が続けば、15勝しても不思議ではないと思います。

── 山下投手のいいところはどのあたりでしょうか。

攝津 190センチの長身から投げ下ろすストレートは、角度があって力もある。実際、回転数は多いようですね。変化球もブレーキの効いたカーブ、フォークがすばらしい。じつは、高校時代(福岡大大濠高)からテレビの特集で取り上げられることがあって、その頃から注目していました。下半身が使えなくて上半身だけで投げていた当時と比べると、かなりよくなっています。

── 新人王に向けて、これからどんなところに気をつければいいでしょうか。

攝津 新人王レースという観点からすると、高卒3年目ということもあり、体力もまだまだでしょうし、1シーズンを通して投げた経験がありません。今後、先発ローテーションをどうやって守っていけるかが課題となるでしょうね。

── 山下投手の対抗馬となるのは?

攝津 ソフトバンクの大津亮介投手は6月18日の阪神戦で、わずか1球でプロ初勝利を挙げた"持っている男"です。ストレートは150キロを超えますし、ワンシーム、カットボール、スライダー、カーブ、チェンジアップ、スプリットなど変化球が多彩で、コントロールもいい。完成度が高く、ドラフト2位とはいえ、選手層の厚いソフトバンクでリバン・モイネロ投手、津森宥紀投手、ロベルト・オスナ投手らにつなぐ中継ぎを任されているだけのことはあります。

── 大津投手は、今季のNPB支配下登録選手のなかで体重は最軽量の63キロ。スタミナ面の不安は大丈夫でしょうか。

攝津 体重は軽いですが、大学、社会人を経由していますので体力はあると思います。

── 大津投手が新人王を獲得するのに必要なことは何だと思いますか。

攝津 昨年、プロ2年目の水上由伸(西武)投手が60試合に登板して35ホールドポイントを挙げて最優秀中継ぎのタイトルを獲得して、新人王に輝きました。セ・リーグでも湯浅京己(阪神)投手が59試合登板の45ホールドポイントで最優秀中継ぎのタイトルを獲得。新人王こそ37セーブの大勢(巨人)投手に譲りましたが、最後まで争いました。数字的にはこのあたりが目安になるのではないでしょうか。

 私も2009年に70試合に登板して39ホールドポイント(最優秀中継ぎ投手)、防御率1.47で新人王を受賞しました。ただ、先発投手が2ケタ勝利をマークすると、印象度としてはそちらのほうが強いかもしれませんね。

── 中継ぎ投手では、オリックスの宇田川優希投手も新人王の有資格者です。

攝津 昨年の日本シリーズやWBCの活躍で、新人王の資格があるとは思えないほど貫禄があります。ただ、昨年の日本シリーズで今年3月のWBCの時ほど状態がいいとは言えません。もちろん、後半戦の活躍によって十分チャンスはあると思います。

【打者は打率3割が最低条件か】

── 打者で注目する選手はいますか。

攝津 茶野篤政(オリックス)選手は独立リーグから育成4位でのプロ入りにもかかわらず、開幕戦でスタメン出場を果たしました。育成入団の選手が1年目の開幕戦で先発出場するのは史上初です。

 また6月1日の広島戦では、満塁弾を含む6打点の活躍。身長175センチとプロでは小柄なほうですが、高めのストレートにも力負けしないし、変化球にもしっかり対応できています。打率が3割に到達すれば、新人王レースの「大穴」として浮上すると思います。

── 日本ハムのドラフト3位、メジャー経験のある加藤豪将選手はいかがでしょうか。

攝津 キャンプからケガで出遅れたことは残念でしたが、デビューから10試合連続安打や1試合2本塁打をマークするなど、存在感を示しています。スイングはコンパクトですが、スイングに強さがあります。アメリカでプレーしただけあって、強い球への対応力を感じました。

── 当初、パ・リーグの新人王争いを牽引すると思われていた、大卒ドラフト1位の荘司康誠(楽天)投手、曽谷龍平(オリックス)投手はどう見ていますか。

攝津 荘司投手は「同じ立教大の楽天の長身投手」ということもあって、戸村健次(2009年ドラフト1位)投手を彷彿とさせます。いい投手だと思って見ていました。投球フォームに力感はあまりありませんが、球威があります。打線との兼ね合いで、ここまで9試合に先発してまだ1勝ですが、何かのきっかけで勝ち出すと思います。

── 曽谷投手はいかがですか。

攝津 曽谷投手は私の高校(秋田経法大付→現・ノースアジア大明桜)の後輩ですので、気にかけていました。ストレートとスライダーが中心ですが、まだ投球スタイルが確立していない印象を受けます。オリックスは投手陣の層が厚いので、曽谷投手もかなりいい投球をしないと一軍で投げられません。即戦力というより、"素材型"かもしれませんね。逆に言えば、オリックスは毎年好投手が育つ環境にあるので楽しみです。

── 近年の傾向も鑑みて、新人王を手にする選手の特徴はありますか。

攝津 ここ数年、高橋礼(ソフトバンク)投手、平良海馬(西武)投手、宮城大弥(オリックス)投手、水上由伸(西武)投手とピッチャーが続いています。野手は、2018年の田中和基(楽天)選手以来、出ていません。しかも田中選手を含め、5年連続で入団2年目の選手が受賞しています。つまり最近の傾向として、即戦力よりも素材型の選手が新人王を獲得しているように思えます。

── 最後に、いま新人王を争っている選手にアドバイスをお願いします。

攝津 シーズン後半は疲れてくると思いますが、自分の個性を生かしここまで活躍してきたのです。もしこれまでのような活躍ができなくなったとしても、いま持っているものを変える必要はないと思います。それよりもどのようにして対応されてきたのかを把握することが大事です。たとえば、ウイニングショットを研究されて狙われたとします。その際、新たな球種を増やすのではなく、投げるボールの割合を変えてみる。そうしたちょっとした工夫が、効果的に働くと思います。


攝津正(せっつ・ただし)/1982年6月1日、秋田県出身。秋田経法大付高(現・ノースアジア大明桜高)3年時に春のセンバツに出場。卒業後、社会人のJR東日本東北では7度(補強選手含む)の都市対抗野球大会に出場した。2008年にソフトバンクからドラフト5位指名を受け入団。抜群の制球力を武器に先発・中継ぎとして活躍し、沢村賞をはじめ、多数のタイトルを受賞した。2018年に現役引退後、解説者や子どもたちへ野球教室をするなどして活動。通算282試合に登板し、79勝49敗1セーブ73ホールド、防御率2.98