セ・リーグ新人王レースは阪神・村上頌樹がリード 巨人勢の逆襲は? 笘篠賢治が予想
熾烈な優勝争いを繰り広げているセ・リーグだが、新人王レースも目が離せなくなってきた。阪神・村上頌樹は開幕から好投を続け、オールスターにファン投票、選手間投票どちらも1位で選出されるなど存在を示している。また打者では、中日のドラフト7位ルーキー・福永裕基が開幕スタメンを勝ちとり、3年目の巨人・秋広優人は規定打席には到達していないものの打率.301(成績は7月11日現在/以下同)と奮闘している。1989年に新人王に輝いた笘篠賢治氏にセ・リーグ新人王の行方を占ってもらった。
プロ3年目のブレイクを果たした阪神・村上頌樹
── セ・リーグの新人王の本命は、やはり阪神の村上頌樹投手でしょうか。
笘篠 そうですね。村上投手は、まず4月12日の巨人戦で7回までパーフェクトのまま降板して話題になりました。プロ初勝利は4月22日の中日戦、9回を2安打、無死球、10奪三振で飾り、あとはトントン拍子で勝ち星を積み重ねました。5月9日にドミンゴ・サンタナ(ヤクルト)にソロ本塁打を浴びたのが初失点。開幕から31イニング連続無失点の最多タイ記録を達成するなど、強烈なインパクトを残しました。
── 村上投手のいいところはどこでしょうか。
笘篠 コントロールが抜群で、三振もとれる。ストレートの質がいいし、同じ腕の振りから投じられるフォークもすばらしい。セ・リーグの各打者に「村上はいい」という先入観を抱かせているのは、彼にとって大きいと思います。
── 新人王を獲るためにクリアしなければならない数字はなんでしょうか。
笘篠 先発投手なら「規定投球回(143イニング)と10勝」、打者なら「規定打席(443打席)と打率3割」がひとつの目安になるでしょう。私の場合は、「新人で30盗塁」がアピールポイントになりました。
── 村上投手はここまで6勝をマークしていますが、2ケタ勝利を達成できそうですか。
笘篠 このままケガなくシーズンを終えることができれば、12、13勝はいけるのではないでしょうか。一昨年は栗林良吏(広島)投手、昨年は大勢(巨人)投手と2年連続抑え投手が新人王に輝きましたから、村上投手が受賞となれば2020年の森下暢仁(広島)投手以来の先発投手の受賞になりますね。
【ドラフト最下位指名選手も奮闘】── では、村上投手の対抗馬は誰になりますか。
笘篠 秋広優人(巨人)選手と福永裕基(中日)選手です。昨年の秋広選手は手打ちで、ボール球にも手を出していたのですが、今年は重心が下がって、下半身をうまく使えるようになっています。残り試合で規定打席に到達し、印象深い活躍をして、打率3割近く。現時点では村上投手が圧倒的にリードしていますが、もしそれくらいの成績を挙げるようだと、記者票は割れると思います。
── 福永選手はドラフト7位指名ながら開幕スタメンを勝ちとりました。
笘篠 先述した村上投手のプロ初勝利の試合で2安打を放ったのが福永選手でした。昨年の(支配下)ドラフトでは最後となる69番目の指名でしたが、プロに入ってしまえば順位は関係ありません。今年27歳、「このチャンスを逃してたまるか」という覚悟とハングリー精神がプレーに現れています。
── 村上投手の高校(智辯学園)の後輩にあたる前川右京(阪神)選手も、2年目ながらスタメンで起用され活躍しています。
笘篠 シーズン途中から起用されたこともあり、規定打席到達は厳しいかもしれません。それでも6月6日のプロ初安打から3打席連続安打。また6月27日の中日戦では3番に座り、柳裕也投手から3安打したのは立派です。176センチ88キロの前川選手は、打撃ではどっしりしていて、タイプ的にはオリックスの森友哉選手を彷彿とさせます。
── では、新人王レースの大穴は誰でしょうか。
笘篠 横川凱(巨人)投手ですね。5年目の今季、育成からはい上がって開幕ローテーション入りを果たしました。(クラブをはめている)右腕を高く上げる投球フォームは、打者からは見づらいと思います。本人は「任された場所でチームに貢献する」と語っているようですが、ここまで60イニング以上投げています。今後、自分の投げるポジションを確立していくと思います。
── シーズン前は、ルーキー・吉村貢司郎(ヤクルト)投手あたりがセ・リーグ新人王レースを引っ張ると予想されていました。
笘篠 鳴り物入りでプロ入りしても、1年目から活躍できないのは球界のレベルが上がっているからだと思います。吉村投手は独特な"振り子投法"で、オープン戦では好投しましたが、他球団の打者も研究したのでしょう。ただ、持っているものはすばらしいですし、ここからどう巻き返していくか楽しみです。
── 笘篠さんは、打者では野村謙二郎(広島)さん、投手では加藤博人(ヤクルト)を抑えての新人王受賞でした。経験者目線で、新人王争いでポイントになるところはどんなところだと思いますか。
笘篠 アマチュアの選手は、長丁場の戦いを経験したことがありません。それがプロに入ると約半年間試合が続き、とくに毎日試合に出る野手は、オールスター以降、体力面で疲労が蓄積してきます。また前半戦のデータを分析させ、弱点、欠点があればそこにつけ込まれます。そんななかで結果を残せたら自信になるでしょうし、さらにチームの勝利に貢献できればポイントも上がるはずです。
最後にひとつ、受賞者の立場から提案があります。私は新人王をいただいたことで自信がつき、それ以降のプロ生活において糧となりました。新人王は一生に一度、リーグでひとりしか受賞できません。しかし、投手と野手の比較は一概にできません。ならば、投手、野手とそれぞれひとりずつ選んでもいいのではないでしょうか。いなければ「該当者なし」でもいい。受賞によって自信をつける人がひとりでも増えたほうが、球界の発展につながります。時代も変わってきましたし、一考の価値があると思いませんか。
笘篠賢治(とましの・けんじ)/1966年10月11日、大阪府出身。上宮高から中央大に進学し、大学時代の1988年ソウル五輪の代表に選ばれ、銀メダル獲得に貢献した。同年ドラフト3位でヤクルトに入団。1年目からセカンドのレギュラーを獲得し、俊足を生かして32盗塁をマーク。セ・リーグ新人王に輝いた。その後もユーティリティプレーヤーとして活躍。しかし94年からケガの影響もあって出場機会を減らし、98年広島に移籍する。99年引退、そのまま広島一軍守備走塁コーチを3シーズン務めた