東京ヴェルディが「聖地」で躍動 30年前の主役が節目の年にJ1復帰を決められるか
ヴェルディが"聖地"国立に帰ってきた。
J2第25節、東京ヴェルディは国立競技場で町田ゼルビアと対戦。前半に2点をリードされる苦しい展開になりながらも、終盤に2点を奪い返し、2−2で引き分けた。
J2のリーグ戦として初めて国立で行なわれたこの試合は、あくまでも町田のホームゲーム。それでも、スタンドで"数的優位"に立っていたのは、むしろ緑のユニフォームのほうだった。
東京Vはサポーターの声援量でホームチームを上回り、ピッチ上でも、特に後半は町田を圧倒。かつて国立で何度も勝利の美酒に酔った"緑の勇者"は、"聖地"での試合を謳歌していた。
今年で創設30周年を迎えたJリーグ。30年前を振り返れば、ヴェルディは国立競技場で行なわれた記念すべきオープニングゲームを戦い、同じく国立競技場で行なわれたシーズン最後のチャンピオンシップを制した。
彼らは当時、間違いなくJリーグの主役だった。
しかし、それから30年が経過した現在、川崎から東京へとホームタウンを移し、東京ヴェルディに名前を変えた初代王者は、Jリーグの主役になるどころか、2009年以降はJ1で戦うことすらできずにいる。
ここ数年、東京Vの育成力には目を見張るものがあり、自前のアカデミー出身の選手を次々と他のJ1クラブへと送り出しているが、裏を返せば、毎年のように主力選手が引き抜かれていくということでもある。
今季開幕前にしても、東京Vの評価は決して高いものではなかった。客観的に見て、J1昇格候補と見る向きは少数派だっただろう。
ところが、「(試合の)ピッチでは練習でやっていることしかできない。日頃のインテンシティが一番大事」と語る城福浩監督に率いられた選手たちは、指揮官が求める強度の高いプレーをピッチ上で体現。スター軍団だった時代とは異なり、若く、経験に乏しい選手が多い現在のチームは、華麗さよりも愚直さを際立たせながら、今季開幕から着実に勝ち点を積み重ねていった。
第25節終了時点でJ1自動昇格圏内の2位は、その成果である。
町田戦で0−2の悪い流れを変えたのも、今季途中で補強されたふたりの若手、鹿島アントラーズから期限付き移籍で加わったFW染野唯月と、東洋大学から強化指定選手として加わったMF新井悠太である。
町田ゼルビア戦で試合の流れを変える活躍を見せた東京ヴェルディの新井悠太
とりわけ新井は、昨季も東京Vでプレーしていた染野とは違い、まだ大学在学中の20歳で今回が本当の新加入。城福監督も「(合流して)4、5日の選手を使うことは緊急事態ではある」と、苦しい台所事情を認めている。
しかし、4日前の前節(V・ファーレン長崎戦)で、いきなりデビュー戦初ゴールを決めた小兵は、キレのいいドリブルを武器に町田の守備網を次々に切り裂いた。
後半66分の交代出場からわずか4分後の70分、まずは、左サイドをドリブルで突破し、狭いスペースから強引にニアサイドを狙ったシュートを放つと、ボールはゴールポストを直撃。本人は「欲を言えば、流れが変わる得点になればな、と思って(右足を)振った」と言い、「そんなにうまくいかなかった」と苦笑したが、流れを変えるという意味でなら、十分に効果あるひと振りだった。
「ヴェルディは両サイドから仕掛けていく選手が多いので、ヘディングが多くなってくる。何回も繰り返して、諦めずに狙い続けた結果」
そう振り返った染野が73分、83分と、いずれもヘディングシュートを決め、同点に追いついた東京Vだったが、城福監督によれば、「彼の決定力はすばらしいが、重要なのはそれだけサイドを崩していたということ」。そのサイド攻撃において強力な武器となっていたのは、間違いなく新井だった。
「合流してから、みんなが温かく迎えてくれて、自分のドリブルをうまく引き出してくれる」
謙虚にそう語る現役大学生は、「前節(長崎戦)は自分のポジショニングが低すぎて(自分をマークする)相手が2枚になってしまったので、今回は高い位置をとって、相手のサイドバックと1対1で勝負ができるようにした」と、冷静に自身のプレーを分析。
値千金の同点ゴールも「相手のパワーの方向を利用できた」という新井が、うまく相手DFと入れ替わるように背後を取ってパスを受け、ゴール前の染野にクロスを送ったことで生まれている。
「正直、勝ちたかった」(城福監督)
「結局のところ、2対2で勝ちきれずに終わってしまった」(新井)
監督や選手からそうした言葉が聞かれたように、東京Vが首位・町田との勝ち点差を縮められなかったことは確かだが、内容的に見れば、意味ある引き分けだったこともまた間違いない事実だろう。
この日の東京Vは、単に愚直なプレーを繰り返すだけでなく、かつての"らしさ"、すなわちパスとドリブルを組み合わせながら、相手ディフェンスを破っていく攻撃的なスタイルを見せてくれた。
「GKからつないでいくのが我々のサッカー」と語る城福監督の言葉は徐々に形となり、堅守で鳴らす首位の町田を相手に、2点のビハインドをはね返すまでになっている。
「2失点はしたが、焦れずにやり続けた結果が同点になったのかなと思う」
小学生時代からヴェルディで育ち、現在はキャプテンマークを巻くMF森田晃樹が、そう話しているとおりだ。
国立に帰ってきたヴェルディは、新たな魅力にかつてのエッセンスをまとわせながら、16シーズンぶりとなるJ1復帰を狙っている。