『ピンポン』/『DEATH NOTE』/『容疑者Xの献身』/『リング』

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漫画や小説などの実写映画化には、どうしても期待と不安が入り混じるもの。あの世界観を実写でどのように表現するのか、誰がどのキャラクターを演じるのかなど、不安要素を挙げたらキリがない。しかし中にはファンの期待を大きく上回り、「原作超え」と評された作品が存在する。

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2008年に公開された映画『容疑者Xの献身』は、まさにその一つといえるだろう。同作はベストセラー作家・東野圭吾の同名小説を映画化したもので、人気ドラマ『ガリレオ』(フジテレビ系)の劇場版第一作目。主人公の湯川学を福山雅治、その友人にして物語のキーパーソン・石神哲哉を堤真一が演じている。

石神は一見陰気な中年男性だが、実は物理学者・湯川が「俺の知る限り本物の天才」と評するほどの天才。しかしある時、隣の部屋に住む母子の事件をきっかけに、その頭脳を誤った方向へ使ってしまう。「僕がこの事件の真相を暴いたところで誰も幸せにはならない」という、湯川の台詞が痛烈に響く傑作ミステリーだ。

そんな同作屈指の名シーンといえば、やはりクライマックスで見せた石神の号泣シーンが挙げられるのではないだろうか。堤の迫真の演技により、石神の様々な感情が混ざった心情が痛々しいほど伝わってくる。原作の時点ですでに評価の高い作品だったが、堤の手によって「原作を超えた」とまで評されていた。

また演技だけでなく、役作りからも堤の意識の高さがうかがえる。というのも石神を演じるにあたり、湯川との肉体年齢差を出すために前部を白髪に染め、さらには髪の毛を薄くし、人とうまく会話できない人間ということを意識していたそうだ。

さえない中年男に見事成り切った堤は、同作で「第32回 日本アカデミー賞」の優秀助演男優賞を獲得。それほどまでに、石神の演技が観客の心を掴んだのだろう。

また、「原作超え」と呼び声高いオリジナルのラストが話題を呼んだのが2006年に公開された映画『DEATH NOTE』。大場つぐみと小畑健による同名コミックスが原作の、名前を書かれた者を死に至らしめるノート、通称“デスノート”をめぐる物語で、実写映画は『DEATH NOTE』と『DEATH NOTE THE LAST NAME』の前編・後編に分かれている。

主人公の夜神月は藤原竜也、ライバルのLを松山ケンイチが演じており、どちらも原作ファンが唸るほどの再現度の高さだった。

さらに容姿だけでなく、両者の演技力も同作を語る上では欠かせない。藤原の野心溢れる月と、松山の冷静沈着なLという、正反対な性格を持つ天才同士の頭脳戦は、まさに圧巻のひと言に尽きる。観ていて誰もが手に汗を握るはずだ。

そして原作とは違う映画オリジナルのラストがまた秀逸。原作では月とLの対決のあと、後継者であるニアとメロが登場し、Lに代わって頭脳戦を繰り広げる展開へ。しかし映画版では最後まで月とLの対決に焦点を当てており、宿命のライバルという構図がより強くなっている。

原作の時点で二人の対決に心惹かれるファンも多かったため、映画版のオリジナルストーリーも好意的に受け入れられたのかもしれない。

映画『リング』といえば、ジャパニーズホラーの金字塔とも言える作品。そして怪現象の元凶・貞子がテレビから這い出てくるクライマックスシーンと、長い髪の間から覗かせるギョロついた目は多くの人々が恐怖したはずだ。

だが実は同作の原作小説は、映画と比べてホラー要素が薄い。どちらかというと貞子にまつわる謎を解き明かしていく、ミステリーに重きを置いたストーリーだった。ちなみに貞子がテレビの中から現れるシーンは、原作にはない映画オリジナルのもの。

同作の監督を務めたのは、1996年公開の映画『女優霊』や2002年の『仄暗い水の底から』など、ジャパニーズホラーを語るうえで欠かせない中田秀夫。『リング』は、そんなホラー映画を作り続ける中田監督の手腕が存分に発揮された作品といえる。

映画化にあたり、ミステリーからホラー路線へと振り切った結果、不気味な雰囲気や数々の名シーンが生まれることに。中田監督のアレンジがなければ、今の『リング』はなかったかもしれない。

また、原作『リング』の続編である『らせん』『ループ』を読むと、貞子にまつわる驚きの事実が明らかになる。気になった人は、ぜひ小説も読んでみてほしい。

2002年に公開された映画『ピンポン』は、『鉄コン筋クリート』で知られる松本大洋の人気コミックスを実写化したもの。卓球を愛する天真爛漫なペコと、幼なじみのスマイルをメインに、卓球に青春をささげる少年たちの姿を描いた作品だ。

映画監督には曽利文彦、脚本を宮藤官九郎が務めており、コミカルでテンポのいいスポ根ものとなっている。またキャスティングも窪塚洋介、ARATA、中村獅童などの個性的かつ確かな演技力を兼ね備える俳優陣が揃っており、ピンポンの癖のある世界を見事に表現していた。

同作の見どころはなんといっても、VFXを駆使した迫力のある試合シーンだろう。実は『ピンポン』に登場する卓球の球は、9割がCGによって作られている。それを知ったうえで観返してみても、全くわからないからなおさら凄い。

そのため試合シーンの収録は、ラケットを素振りして撮影。曽利監督によれば、俳優たちには2カ月ほど素振りの特訓をしてもらったそうで、2002年に掲載された「映画.com」のインタビュー記事で「あの素振りの迫力と美しさがすべてでしたね。球がない中で撮影してたわけですけれど、その時点でほとんど完成品に近い絵ができてました」と語っていた。

また『ピンポン』は映画本編だけでなく、作品とマッチした劇伴や、ロックバンド・SUPERCAR(スーパーカー)による主題歌『YUMEGIWA LAST BOY』なども魅力の一つ。今なお多くの人から支持されている作品で、ファンの間では「漫画実写化の成功例」「実写化映画屈指の出来」として語り継がれている。

現在公開中の映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』や『東京リベンジャーズ』など、漫画や小説を原作とする実写映画が次々と公開されている昨今。次はどのような作品が“原作超え”と評されるのか、今後の映画業界に期待しよう。

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