牝馬クラシック第一弾のGI桜花賞(4月9日/阪神・芝1600m)は、リバティアイランド(牝3歳)が断然の人気に応えて見事に戴冠を遂げた。驚異的な末脚を繰り出しての差しきりは、戦う相手の戦意を喪失させる、まさに"黙らせる"勝ち方だった。

 おかげで、関西の競馬専門紙記者によれば、第二弾のGIオークス(5月21日/東京・芝2400m)を目前にしたこの時期、例年であれば活気にあふれる栗東の競馬サークルも、そうした高揚感とは裏腹の"厭戦ムード"だという。

 厩舎関係者だけでなく、騎手たちも、リバティアイランドにはお手上げ。「あの馬にはどうやってもかなわない」というムードが充満し、オークス当日の関東での騎乗を思案していたジョッキーもいたらしい。

 敢闘精神は競馬の基本とはいえ、リバティアイランドのあの強さを目の当たりにしたら、ライバル陣営の多くが諦めに近い気持ちになるのも理解できる。


桜花賞でライバル陣営の戦意を喪失させるほどの強さを見せたリバティアイランド

 桜花賞当日の阪神・芝コースは、前・内有利のトラックバイアスがかかっていた。それゆえ、ゲートが開くと各馬が一斉に好位置を取りにいった。

 しかしそんななか、リバティアイランドは位置を取りにいく素振りさえ見せずに後方待機。この日の馬場を考えると、それは明らかに"禁じ手"であり、スタート直後には「リバティアイランド、危うし」と見たファンも少なくなかったに違いない。

 ところが、である。

 リバティアイランドは最後の直線を迎えても16番手という位置にありながら、鞍上の川田将雅騎手がゴーサインを出すと、出走メンバー最速にして唯一の上がり32秒台の末脚を炸裂。それも、不利な大外から一気に脚を伸ばして、真っ先にゴール板も駆け抜けた。

 トラックバイアスも、位置取りも、ペースもまったく問題にしないこの勝ち方は、一頭だけ異次元の競馬をした、といっても過言でない。

 前出の専門紙記者が言うには桜花賞のレース後、川田騎手は「ついに出ました」と語っていたという。その意味について、同記者はこう解説する。

「武豊騎手にとってのディープインパクト、福永祐一元騎手にとってのコントレイル。そういう馬たちと同じように、自分にも自らの代名詞となるような怪物級が『ついに出た』という意味だったのではないかと思います」

 いずれにせよ、それはリバティアイランドに対する最大級の賛辞であり、川田騎手は桜花賞でそれぐらい確かな手応えを得た、ということだろう。

 となると、オークスもリバティアイランドがテッパン。二冠馬誕生は間違いないといったところか。専門紙記者が言う。

「もちろん競馬ですから、泥んこの不良馬場になった時にどうか、道中不利を受けた時にどうかなど、不確定要素はあります。でも、ふつうに走ってくれば、この馬は負けません」

 距離が800m延びる点についても、「心配はない」と専門紙記者は語る。

「この時期の3歳牝馬に距離適性はあまり関係がない。それ以上に大事なのは、ポテンシャル。オークスは、ポテンシャルが距離適性を凌駕するレースです。距離延長には何の問題もありません」

 まさしく「死角なし」である。

 だが、そこまで"万全"を強調されると、気になるケースを思い出してしまう。ハープスターのことである。

 2014年の桜花賞、後方一気の競馬で鮮やかな勝利を飾ったハープスターは、続くオークスでも単勝1.3倍の圧倒的な支持を集めた。しかし迎えた本番、再び後方待機から自慢の末脚を駆使したものの、勝ち馬にクビ差届かずの2着に終わった。

 あの時も、鞍上は川田騎手だった。レースぶりも似ているし、人気が過熱気味なところもよく似ている。

 よもや、あのハープスターの二の舞、ということはないのか。

「ハープスターのあの位置取りは、厩舎サイドの指示によるものだったと聞いています。後方一気はハマるとカッコいいんですが、ペースや、何かの要件による影響があれば、脚を余して負ける――つまり、取りこぼすことがある。あのオークスも典型的な取りこぼしでした。

 翻って、今回のリバティアイランドは本来、自在に動ける馬ですからね。ハープスターのようなことはないと思います」

 専門紙記者はそう言って、一笑に付した。だが、「リバティアイランドは本質的にはマイラー。2400m戦となれば、それを利してより力を発揮する馬がいたとしてもおかしくない」といった競馬関係者の声もある。

 はたしてリバティアイランドは、アーモンドアイ、デアリングタクト、スターズオンアースに続いて二冠を達成するのか。それとも、ハープスターのように取りこぼすのか。注目のゲートインまで、まもなくである。