「母の日」インタビュー
潮田玲子さん 編

ゴールデンウィークが明けて、少しずつ暖かくなる5月の第2日曜日に、毎年「母の日」は定められている。成人しても、離れて暮らしていても感謝を伝える日として、カーネーションやお菓子を贈る人も多いだろう。そんな日に、現在は2児の母として奮闘する元バドミントン選手の潮田玲子さんに、母親としての自分と、ご自身のお母様との関係性についてお話を聞いた。


長男・長女と一緒に笑顔の潮田玲子さん/写真:本人提供

――「母の日」ということで、お子さんとの「母の日」の思い出を教えてください。

「子どもたちは、まだ7歳(息子)と5歳(娘)なので保育園や小学校で似顔絵を描いて持ってきてくれたり、折り紙でお花を折ってデコレーションしたものをくれたりしますね。だんだん絵のレベルが上がってきて、そういうところで成長を感じています」

――2012年に引退をして、アスリートの頃に比べると今は穏やかな生活なのかな?なんて思ったりするんですが、実際はいかがですか?

「全然違うものなんですよね。確かにアスリートの時は勝つか負けるかみたいなところもあったんですけど、逆にすべての時間を自分のために使えたので、楽というか、自分軸で動けていたんです。今は、子どもたちのスケジューリングや、やらないといけないことがたくさんあるので、そういった意味では今でもプレッシャーはあります。何時までに迎えに行かないといけないとか、違った意味での大変さがありますね」

――出産をされてから自分の性格が変わったなとか、丸くなったなって感じることはありますか?

「それはあります。出産してからというよりは、引退してからの方が大きいかもしれないです。現役の時はピリピリしていたと思うんですけど、今は丸くなったなって思うこともあります。年齢を重ねたっていうのもあると思うんですけど(笑)」

――それは、どんな時に感じますか?

「沸点が低くなった感じがしますね。子供が産まれてからは、自分の思いどおりに行かないことってたくさんあるじゃないですか。そこにいちいち腹を立てていても、しょうがないよなって、いい意味で諦めるみたいな。そういう状況が多くなった気がしますね」

――先ほどおっしゃっていた、自分軸じゃなくなったっていうのが大きいかもしれないですね。

「それは大きいと思います。小さい子に怒ったからといって、できるようになるものでもないですよね。最初に息子を妊娠した時、産休中に育児セラピストっていう資格を取ったんですね。初めての子育てで、知らないよりは知っておいた方がいいんじゃないかと思って取ったんですが、そこで『3歳まではそんな怒っても、なんで怒られているかわからないまま、恐怖心として子供に残ってしまう』って習ったんですよね。そういう情報を知ることができたことで、穏やかになれた部分はあると思います」

――潮田さんも6歳からバドミントンを始めていますが、お子さんたちは今スポーツをされていますか?

「習いごと程度でやっていますよ。息子はタグラグビーとか、水泳とか。娘はテニスもやっています」

――バドミントンやご主人の職業であるサッカーは?

「両方やっていないんです。指導者と選手って関係性になると、親子の関係性が変わってきてしまうじゃないですか。自分たちが指導者になってしまうと、子どもたちの逃げ場がなくなってしまうと思うんですよね。自分自身、スポーツを長くやる上でよかったなって思うのが、競技を離れた時の家族との場所が唯一オアシスで癒しだったんですよね。バドミントンとかサッカーを一緒にやったりすることはありますけど、子どもに『今のショットはママが悪い』とか言われると、腹が立つじゃないですか(笑)」

――スポーツに限らず、子供たちには何か打ち込んでほしいなっていう思いはありますか?

「それはすごくあります。私自身は競技を通じていろんなことを学ぶことができたので、好きなことに打ち込むっていうのは大事なことだと思っていて。必ずしもスポーツで、トップアスリートにつながらなくてもいいと思っています。例えば、中学の3年間だけ、高校の3年間だけ、とかでもいいんですけど、情熱を注いだことって大人になっても覚えているんですよね。部活動であれだけツラい思いをしたからこそ、大きな壁にぶつかったときに、『あの時の練習に比べたらこんなの大したことない』って思えたり。そういうのを含めて何かに打ち込んでほしいなって思いはあります」

――子育てをされているなかで、スポーツに本気で打ち込んできた経験が生かされているなと思うことはありますか?

「たくさんあります。例えば、感情のコントロールですね。競技中ってすごく腹が立ったり、いろんな感情が生まれるんですが、それをいかに冷静に保つかというのを選手時代にコントロールしていました。子育て中は、思いどおりに行かないこととか、すごく子供に対して腹が立つことは親としてあると思うんですが、そこでうまく気持ちを切り替えたりとか、自分の感情をそのまま子供にぶつけないとか、そういうのは競技人生のなかで学んだことが生かせていると感じますね」

――わかっていても難しいことですよね。

「それでもやっぱり、忙しくてイライラしている時に子どもにわがままを言われると『はぁー?』ってなっちゃう時もありますし、反省することもたくさんあります。ただ、自分の機嫌で接し方を変えるのはやめようと決めています。昨日許せたことが今日許せないみたいなことは子どもからすると、『昨日許されたのに今日はなんでダメなんだろう』って矛盾に感じると思うんですよね」

――夫の増嶋竜也さんの子どもに対する接し方はどうですか?

「子どもたちのやる気を出させるのがうまいなと思います。声かけだったり、遊ぶことに関しても子どもたちを夢中にさせるのがうまいと感じます。引退してからは、小さい子たちにサッカーを教えたり、若い選手に指導しているっていうのもあると思いますけど、そう感じますね」

【出産後に感じた母親の偉大さ】

――妊娠された時に理想の母親像はありましたか?

「完全に自分の母親が理想でした。自分が母親になってお母さんのすごさを感じますよね。もちろん母のことは大好きですし、昔もすばらしいお母さんとは思っていたんですけど、より一層お母さんってすごいなって自分が母親になってなおさら感じますね」

――どんなお母様ですか?

「うちの母親は、明るくて、おおらかです。先ほども言いましたが、自分が競技をやっている時は、とにかくオアシスな存在だったので、特に苦しい時は母親に電話をして、吐き出させてもらったりとか、元気付けてもらったりしていました。もちろん仲がいい分、ケンカも多くてぶつかることも多かったんですけど、最後まで味方でいてくれる人っていうのは現役の時も今も変わらないです」

――ふだんはどんな話をすることが多いですか?

「今は、どういう子育てをしてきたのかをすごく聞きますね。自分がどうっていう訳ではなくて、単純にオリンピアンを育てた人っていうことで、いろんなアドバイスとか、こういう時ってどういう声かけをすればいいの?とか。子どものことで悩んだりすると、母はハッとするようなアドバイスをくれるんですよね。人間って問題が起こるとひとつの面からしか見られなくなったりするじゃないですか。そういう時に違う角度からアドバイスをくれるので、ありがたいなと思っています」

――お母様との関係に限らず、いい親子関係ができている要因ってなんだと思いますか?

「否定をしないってことじゃないですかね。私は今まで一度も『だからあなたはダメなのよ』と、否定的な言葉を言われたことがないんです。幼少期から、いい時も悪い時も常に母はフラットでいてくれたので、たとえ自分が大きな間違いをしても味方でいてくれるんだろうなって思えるんです。そういう感覚が両親に対してあるので、それが信頼関係につながっているのかなって思います。もちろん『それは玲子が間違っているよ』と怒られることもありますけど、根本的に人として否定するってことはなかったです」

――最初から否定せずに一度受け入れるってことは、できそうで意外と難しそうですよね。

「そうですね。例えば、これをやったら転びそうだなって思っていてもわからなさそうなら、一度転ぶことを経験させようみたいに、自分で学んでいきなさいって言われている感じはありましたね」

――これからもお母様との関係性は変わらなさそうですね。

「大人になってから、さらに母との距離が近くなった感じがします。高校を卒業をして親元を離れてからはバドミントンで忙しくて一緒にいられなかった分、今、近くに住んでもらえているので、母親に子育ての部分で甘えていますね。昔よりもさらに、お母さんのことを尊敬しています。ママたちはみんな言うと思うんですけど、母親ってやっぱりすごいです(笑)」

Profile
潮田玲子(しおた れいこ)
1983年9月30日生まれ、福岡県出身。
女子ダブルスで小椋久美子と「オグシオ」ペアを組み、全日本総合選手権を5連覇、2008年の北京五輪では8位入賞を果たした。女子ダブルスのペアを解消後、混合ダブルスで池田信太郎とともに2012年ロンドン五輪に出場し、その年のヨネックスオープンを最後に引退。同年の誕生日にサッカー選手の増嶋竜也さんとの結婚を発表した。2015年に第1子男児を出産し、2017年に第2子の女児を出産。現在は、テレビを中心に活躍している。