昨年の夏の終わり頃だったと思う。門脇誠(現・巨人)の取材で東京・八王子にある創価大学野球部・ワールドグラウンドを訪れた。

 部の都合で、グラウンドに部員ひしめく全体練習日ではなく、取材をお願いしていた門脇と篠田大聖(現・BCリーグ新潟アルビックス)の練習を手伝っていた何人かの選手とスタッフだけ。いつもの気合いのこもった爆音響くグラウンドとは対照的な雰囲気だったが、それはそれで新鮮だったのを覚えている。


5月9日のDeNA戦でトレバー・バウアーから3安打を放った巨人・門脇誠

【遠投120メートル級の強肩】

 このふたりの4年生が「プロ野球を熱望している」ということは、すでに佐藤康弘コーチ(現・監督)から聞いていたから、こちらの向き合い方も「ドラフトに挑む本気すぎる心境吐露」......その一点に絞られていた。

 その前に、まず"実技"を間近で見て驚いた。

 アップもそこそこに、ショートの守備位置について、同僚選手が放つ打球をさばいていく。大きなストライドで動き出しても、捕球点に近づくと細かなステップに切り替えてバウンドを合わせる。内野手としての所作ができている選手だと思った。

 捕球も、バウンドの頂点かショートバウンドのタイミング。一塁への送球は、"華麗"というより力強いスナップスローで投手が投げたボールのような捕球音を轟かせる。

 三遊間の深い位置からも、当たり前のようにダイレクトで一塁に投げられる鉄砲肩。なのに、強肩を見せつけるように強く投げすぎないのがいい。強く投げたがる内野手は、大きく上にふかすか、指先に引っかけてライト方向に逸れてしまう。

 門脇の送球は、いつも一塁手の肩よりも低い。ただボールにシュート回転がかかり、三遊間の深い位置からのロングスローになるほど、その傾向は増す。背筋の強い選手のロングスローは、外野手もそうだが、シュート回転気味になるという話を聞いたことがある。とはいえ地肩そのものは"120メートル級"の猛肩だから、「併殺のとれる二塁手」としても重宝されるはずだ。

【長打力と器用性を兼備した打撃】

 守備の次はバッティングだ。フリーバッティングの最初の2本が、ライトポールのはるか上空を越えて見えなくなった。見せたがっているな......と思った。

「引っ張ったホームランなんか、プロは誰も信用しないよ」

 失礼を承知で、そんな声をかけてみた。

 怒るかなと思ったら、何も答えず、その次の打球からセンター、左中間、右中間にジャストミートのライナー性の打球が立て続けに飛んでいく。

「カシャーン! カシャーン!」とインパクトの打球音が心地いい。プロ野球選手の試合前のバッティング練習時の"あの音"だ。

「ホームラン性の打球、何本続けられる?」

 またしてもこちらの失礼な要望に、少しだけニヤッとすると、打球に角度をつけるスイング軌道に変えてきた。

「フンッ!」

 スイングのたびにうねりが聞こえて、打球が雄大な放物線を描いて外野ネットを越えていく。フリーバッティングとはいっても、人が投げるボールだ。こちらの注目にその都度応じて、打球方向や軌道を変えるなんて、なかなかできることじゃない。

【高校1年夏から7年間フルイニング出場】

「プロで活躍する、そこだけを目指して、中学ぐらいからやってきました。それがようやく現実になるか、ならないのか......ワクワク半分、不安半分です。体の強さや肩の強さ、足、長打力が、自分の長所だと思っているところはあるんですけど、技術的なことはまだまだ未熟なところばかりなので......」

 もの静かに、淡々と話す。

「高校1年夏の最初の試合から、大学の最後の試合まで全試合に出場してきたっていうことは、本人にとって、なによりの自信になっていると思いますし、私も親として、7年間休まずに中心選手としてプレーを続けてきた彼の体の強さはすごく誇りにしているんです」

 そう話すのは、父・寿光さんだ。寿光さんはスポーツ用具の製作と販売の仕事をされている。そんな父が開発した耐久性のある置きティーで、門脇もとことんバットを振り込んできた。

 門脇自身も父も長所に挙げた体の強さは、「心身の強さ」と言ってもいいだろう。

 創価高校1年夏の都大会から、創価大4年秋のリーグ最終戦まで、7年間で公式戦116試合、999イニング連続出場。高校、大学で野球を経験された方なら、この記録がどれだけすごいことか容易に想像がつくだろう。

 これだけ長期的に継続できるということは、体の強さはもちろんだが心の強さも欠かせない。

 門脇のようなタイプは、一瞬だけドーンとブレイクするわけじゃない。ポジションひとつを任せて、少々のことは目をつぶりながら使い続けたら、いつの間にか立派なレギュラーに台頭している......。最近の例で言えば、ヤクルトの長岡秀樹が重なる。

 使ってもらうほうも辛抱なら、使うほうはもっと辛抱しなくてはならない。そのあたりの腹の括り方が双方で実現できた時、また新しい個性のあるマルチな内野手が誕生するだろう。

 5月9日のDeNA戦ではメジャーのサイ・ヤング投手のトレバー・バウアーから3安打を放ちチームの勝利に貢献。プロの世界でもやっていけることは十分に証明できた。あとはどれだけ実戦経験を積めるかだ。

 世代交代が叫ばれる巨人で、勢いだけでなく安定感のある門脇は間違いなく戦力になるはずだ。これからの活躍が楽しみでならない。