Jリーグ30周年で福田正博が考えた試合観戦の価値向上「スタジアム改革は避けられない課題」
■Jリーグは5月15日に開幕30周年を迎える。選手として、コーチとして、解説者として、リーグ30年の成長と変化を肌で感じてきた福田正博氏だが、試合観戦の価値をより高めるべく、今後の課題を考えた。
一体感が強まるサッカー専用スタジアムが今後全国に増えていくか(写真はパナソニックスタジアム吹田)
Jリーグは5月15日に開幕30周年の記念日を迎える。いまの自分があるのも、あの1993年5月15日の国立競技場でのヴェルディ川崎vs横浜マリノスの一戦からJリーグがスタートしたからこそ。プロサッカーリーグが始まる以前を知る者としては、あの日の記憶はいまなお鮮烈だ。
私は中央大を出た1989年から三菱重工業サッカー部(現・浦和レッズ)に加入した。当時の国内サッカーは、JFL1部でもまばらな観客のなかで行なわれていたが、当時の三菱重工は2部。スタジアムには閑古鳥が鳴いていたが、当時の国内でのサッカーの位置づけはそれが当たり前だった。
それだけにあの5月15日は、特別な日になった。翌日にアウェーのガンバ大阪戦を控えていた私は、テレビでJリーグ開幕戦を見たのだが、超満員のスタジアム、スポットライトに眩く照らされたピッチ、そのなかでプレーする選手たち......。そのすべてに鳥肌が立ったし、サッカーに携わる者として「よし!やってやろう」と武者震いもした。
そこからの30年は、選手として、解説者として、コーチとしてJリーグに携わりながら、Jリーグの成長と変化を肌で感じてきた。その最たるものがチーム数だろう。10チームでスタートしたJリーグは、いまではJ1からJ3の3部構成になり、チーム総数は60に増えた。それを許されるだけ全国各地にサッカーが根づいたということだ。
それだけに少し残念に感じたのは、30周年を迎える記念に全国で合計14万人を無料でJリーグに招待するという企画だ。
新規の観客や、コロナ禍によってスタジアムから足が遠のいてしまった観客を、Jリーグ会場に呼びたい狙いは理解できる。だがこれは、14万人を無料招待できるほどJリーグのスタジアムはチケットが余っていると考えることもできる。
世界のサッカーに目をやれば、コロナ禍の影響が微塵も感じられないほどスタンドは観客で埋まっている。これは決して無料招待の人たちが詰めかけているわけではない。目の前で繰り広げられているサッカーに魅力を感じている人が、それだけ多いということなのだ。
日本のサッカー選手は、日本代表クラスに止(とど)まらず、次代の日本代表を背負う有望株も次々と海外クラブでプレーしている。彼らがJリーグでプレーしていれば、彼らのプレーを見たいと思う人たちが増え、それだけでスタジアムへの観客動員も増えたはずだ。
ただ、それを言ったところでこの流れを変えることはできない。現状のJリーグに魅了されている人たちも数多くいて、そこで展開されているサッカーは日本サッカーを支える基盤になっていることも忘れてはいけない。
今回14万人を無料招待して、Jリーグのリピーターになってくれる観客が増えてくれることに期待したい。また、今後はチケットを買ってJリーグをスタジアムに観にいくことに価値を見出せるようにするのが、長い目で見た時には重要だろう。
【スタジアム改革は避けられない課題】その点において、スタジアムの改革は避けられない課題だと思う。現在国内のスタジアムの多くは、2002年のワールドカップ開催のためにつくられたものだ。人口規模とは関係なく大観客収容のスタジアムになっているため、Jリーグの試合では、その町の規模を考えれば多くのサポーターが詰めかけているにもかかわらず、空席が目立つケースもある。これでは観客で賑わっている感じは伝わっていかないだろう。
イングランドのプレミアリーグが、いまの成功を手にした要因のひとつに、スタジアム改革があったという。ピッチとスタンドの距離は近く、スタジアムの収容人員も町の規模に応じたサイズにつくりかえられた。これによって「自分の町のチームをスタジアムで応援したい」サポーターが常にスタンドに溢れた。
その光景を見た人たちも「スタジアムでサッカーを観たい」とチケットを買い求めようとするが、客席には限りがある。そのため、スタジアムのチケットの価値は高まり、チケットを手にできない人たちのテレビ観戦数が増える構図ができあがったそうだ。
翻ってJリーグはと言えば、パナソニックスタジアム吹田のような世界に誇れるサッカー専用スタジアムも生まれているが、その数はまだまだ物足りない。Jリーグで圧倒的な人気を誇る川崎フロンターレでも、横浜F・マリノスでも、観客席とピッチとの距離は遠い。もし彼らのスタジアムの観客席とピッチの距離感がもっと近かったなら、スタジアムの一体感はさらに強まり、より多くの人たちが足を運んでみたい空間をつくり出しているはずだ。
これまでの施策が間違っていたと言いたいわけではない。その時代ごとに最適な環境へと形を変える必要があるということだ。2002年の時点ではワールドカップ成功のために大観客収容が最優先され、ピッチとの一体感やアクセスのよさという条件は後回しにされていた。ただ、今後は解決しなければいけない課題になるだろう。
【アクセスのよい新スタジアムに期待】広島では来年開業の新スタジアムが予定されている。場所はひろしま美術館、広島城、原爆ドームの平和記念公園に隣接し、多くの観光客が集まるエリアだ。アウェーのサポーターがサッカーを観戦しに行き、その前後で観光がしやすく、町の経済活動にも一役を買うはずだ。それだけに広島の新スタジアムが成功例となって、その動きが全国各地に広がることを期待している。
国内サッカーを盛り上げていくために打てる施策は、まだ数多く残されている。そこから目を逸らさずに、本当の意味でのサッカー熱へとつながっていくよう、関係者は努力したいところだ。
福田正博
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。