「⼤腸がん再発の原因となるがん幹細胞を発⾒」九州大学研究チームが発表
3月8日、九州大学の研究グループは「大腸がん再発の原因となるがん幹細胞を新たに発見した」と発表しました。このニュースについて甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(医師)
著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など多数。
日本外科学会専門医 日本病院総合診療医学会認定医など。
研究グループが発表した内容とは?
九州大学の研究グループが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回の研究は九州大学のグループが発表したもので、医学雑誌「Cancer Research」に掲載されている内容です。研究グループは、実際の患者の生理的環境を再現した大腸がんモデルを作りました。
このモデルによってできた大腸がんを解析した結果、がん幹細胞の中にも細胞増殖の状態が異なる2種類の細胞集団が存在することが明らかになりました。このうち増殖の遅い⽅の集団には、細胞周期の停⽌に重要なp57という遺伝⼦が特異的に発現していることがわかりました。さらに、これまでの抗がん剤は増殖の速い細胞をターゲットとして設計されているため、p57が発現した細胞には効果が薄いことも判明しました。p57が発現した細胞を特異的に除去する薬剤と抗がん剤を併⽤したところ、がんの再発は強⼒に抑制されたことから、p57発現細胞が⼤腸がん再発の主要な原因の1つであることが証明されました。
研究グループは「今回の発⾒はp57が増殖の遅いがん幹細胞の⽬印としてだけでなく、抗がん剤抵抗性を司る実体分⼦として働いていることも⽰唆しており、将来的にがんの有望な治療標的になることが期待されます」とコメントしています。
大腸がんとは?
今回の研究対象となった大腸がんについて教えてください。
甲斐沼先生
大腸がんは、良性のポリープががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものに分類されます。日本人はS状結腸と直腸にがんができやすいと言われています。大腸の粘膜に発生した大腸がんは、大腸の壁に深く侵入して、やがて大腸の壁の外まで広がり腹腔(ふくくう)内に散らばります。さらに、リンパ節転移をしたり、血液の流れに乗って肝臓、肺など別の臓器に遠隔転移したりします。
大腸がんの症状について、早期では自覚症状はほとんどありません。進行したときの代表的な症状としては、血便や下血などがみられます。また、さらに進行してくると腸閉塞となり、便は出なくなり、腹痛や嘔吐(おうと)などの症状が起こります。
男性の11⼈に1⼈、⼥性の13⼈に1⼈が、⼀⽣のうちに⼀度は⼤腸がんにかかると言われているほど身近な病気です。
発表内容への受け止めは?
九州らの研究グループが今回発表した内容についての受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
⼤腸がんは男性では11⼈に1⼈、⼥性では13⼈に1⼈が⼀⽣のうちに⼀度は罹患すると言われているほど⾝近な病気であり、不幸にも患者さんの中には抗がん剤治療後に再発する転帰をとる人も多く、医学的に⼤きな課題として認識されていました。
今回、九州⼤学⽣体防御医学研究所の中⼭敬⼀主幹教授らの研究グループは、⼤腸がん再発の原因となるがん幹細胞を新たに発⾒しました。今までは⼤腸がんの腫瘍内には性質の異なる多様な細胞が存在しており、その中でがん幹細胞という⼀部の細胞ががんの増殖や再発を起こす細胞だと考えられてきました。しかし、本研究グループは腸管の悪性腫瘍を解析して、がん幹細胞の中にも細胞増殖の状態が異なる2種類の細胞集団が存在することを明らかにしました。このうち増殖の遅い⽅の集団には、細胞周期の停⽌に重要なp57という遺伝⼦が特異的に発現していることを発⾒し、その分⼦メカニズムの⼀端を解明することにつながりました。また、p57発現細胞を特異的に除去する薬剤と抗がん剤を併⽤したところ、がんの再発は強⼒に抑制され、p57発現細胞が⼤腸がん再発の主要な原因の1つであることを証明しました。
今回の発⾒はp57が増殖の遅いがん幹細胞の⽬印としてだけでなく、抗がん剤抵抗性を司る実体分⼦として働いていることも⽰唆しており、将来的にp57発現細胞ががんの有望な治療標的になること、あるいは従来の抗がん剤治療だけでは不可能だったがんの根治へつながる治療開発が期待されることになります。
まとめ
3月8日、九州大学の研究グループは「大腸がん再発の原因となるがん幹細胞を新たに発見した」と発表しました。大腸がんは日本でも身近な病気なので、今回の発表は注目を集めそうです。
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